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祝福のスキル使い  作者: 雨読 貴和


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2/2

凡人冒険者と新人冒険者

ギルドを出た瞬間、やわらかな陽光が通りを照らした。

 10時を少し回った頃の街は、人の声と香ばしいパンの匂いで満ちている。

 行商人が荷車を押し、子どもが通りを駆け抜けていく。


「やっぱり晴れた日の外は気持ちいいですね!」

 アイナは明るい声でそう言い、腰に下げたポーチを軽く叩いた。

 確かに晴れた日の外は心地よい。

「今日は採取依頼だが、森の中は油断できない。森に入ってからは気を抜くなよ」

「はいっ!」


 レインは軽く頷き、街道を歩き出す。

 柔らかな風が二人の外套を揺らし、空は高く晴れていた。


 街から離れるほど空気が変わる。小さく街が見える程度に離れたあたりで、森の入り口に差し掛かる。

整備された道からけもの道へ踏み込み、森の中へ進む。草の匂いが濃くなり、鳥のさえずりが耳に届く。


「レインさん、森ってもっと危険なものかと思ってました」

「依頼の内容と場所次第だ。今回は近隣の森でのEランクの採取だろ? 危険度も低い」

「でも、魔物とかも出るんですよね……?」

「まぁな。出るから油断するなと言ってる」


 アイナは慌てて頷いた。

 その様子が可笑しくて、レインは思わず口元を緩める。


(昔の俺も、こんな感じだったったのだろうか……)


 そう思いながら、さらに森の奥へと足を踏み入れる。

 森の中は薄暗く、木々の枝が空を覆っていた。

 湿った空気と土の匂いが混じり合い、遠くで小さな川のせせらぎが聞こえる。

 


レインが指で小花を指し示す。

茎の先に小さな白い花が傘状に集まって咲いている。

「これが《セリナ草》だ」

「へぇ……かわいい。こんなに小さいんですね」

「見つけにくいが、根が薬になる。傷薬の材料だ」


 アイナは膝をつき、丁寧に摘み取っていく。

 レインも隣で数本を採りながら、静かな時間が流れた。


 しかし、森はいつまでも穏やかではない。


 草の陰で、枝の折れる音がした。

 レインは即座に顔を上げ、腰の短剣に手をかける。

「……動くな」

 短く低い声。


 茂みの向こうで、黄色い目が光った。

 四足の獣が姿を現す。

 鋭い牙、灰色の筋張った体――小型魔獣スモールファングだ。


レインは即座に2本の短剣を抜き、前に出る。


「ま、魔物……!」

「アイナ、下がれ」

「いえ、支援します!」


アイナは腰のポーチを開き、導晶を掴む。

レインが先頭の魔物と間合いを取る。

 森の薄闇の中、二匹、三匹と影が増えていく。


(五匹か……やっかいだな)


 戦闘経験が頭の中で瞬時に計算を始める。

 アイナを守りながら全滅させるには、距離感を保ちつつ群れに向かうしかない。


「っ!」 

一匹がレインへ飛びかかる。

 レインは紙一重でかわし、短剣で反撃――喉を裂く。

 返り血が頬を掠めた。


 アイナと魔物の間に立ち短剣を握りしめる。

 襲い掛かってきたところに刃合わせて避けるのがレインの立ち回りではあるのだが、回り込まれるとアイナを守り切れなくなってしまう――


「護封せよ、飛翔の光!」

 レインを避けて弧を描くように後ろから複数の光の短剣が魔物の足元へと飛んでいく、

短剣は魔物の足を地面へと縫い付け動きを止めた。


「……っ!」

 レインはその一瞬を逃さず、地を蹴る。

 心なしか軽い身体で群れへ踏み込み胴を切り裂いた。


静寂。森に風の音だけが戻った。


「……助かった。今の、スキルか?」

 レインは肩で息をしながら、剣を鞘に戻す。

「はい、微力ですが、身体強化と敵封じの魔法です」

 アイナは少し照れた笑みを浮かべる。

「なるほど。複数スキルを同時に展開して、しかも効果的に

……才能というものだなこれからの成長が楽しみだ」

「はいっ! 私の冒険譚は始まったばかりです!」

アイナの瞳が輝く。木漏れ日の光が二人を包み、緑が揺れた。

 レインはその眩しさに、口を歪ませ少しだけ視線を逸らす。


戦闘の緊張が解けた後、二人は再び薬草の採取に戻った。

 アイナは慎重に、けれど楽しそうに小さな白い花を摘み取り、根元まで丁寧に扱う。

 レインも隣で、森の匂いや鳥の声に耳を傾けながら数本の《セリナ草》を採る。


「レインさん、こうして森に入ると、なんだか落ち着きますね」

「そうだな。危険はあったが、こういう時間も悪くない」

 レインは少し微笑む。自分でも驚くほど、穏やかな気持ちが胸に広がった。


 やがて予定の薬草を採り終え、二人は森を後にした。

 まだ日が出ているが、あと少しもすれば落ちるであろう夕暮れ時、

街へ戻ると、行き交う人々や荷車の音に日常の安堵感を伝える。


「今日はありがとうございました、レインさん!」

 ギルドの前に立つと、アイナは無邪気に礼を述べた。

「おう、報告に行くぞ」

 レインは軽く頷き、木の扉を押して中へ入る。

がやがやとしている酒場の冒険者たちの横を通り、

奥の木製カウンターに向かう、朝と同じ受付嬢が座っていた。


「おかえりなさい、レインさん、アイナさん。お疲れさまでした」

「依頼の《セリナ草》、すべて採取済みです」

 レインが袋を差し出すと、受付嬢は手際よく確認し、笑顔を向けた。


「品質も申し分ありません。……さすがレインさん。それに、初依頼の達成おめでとうございます。アイナさん」

「えへへ、レインさんのおかげです!」

 レインの横で胸を張るアイナに、受付嬢が目を細める。

「ふふっ。いいパーティになりそうですね」


「おいおい、初回の手伝いだけって話じゃなかったのか?」

 レインが冗談めかして言うと、受付嬢はくすっと笑った。

「そうでしたっけ?」

「今朝の話だと祝福を満足に使えないという話だったが、正直……かなりの使い手だったぞ、

 慢心しないで実力をつけていけば王都の冒険者ギルドでも屈指の冒険者になるに違いない」

「ですって、アイナさん。よかったですね!」

 レインが存外に高く評価してくれていることに、アイナはぱっと笑顔を咲かせる。

「はい!」


受付嬢が報酬袋を差し出す。

「依頼報酬は銀貨六枚になります。パーティとしての折半でよろしいですか?」

「もちろん。三枚ずつで頼む」

 レインは即答し、銀貨の袋を一つアイナへ渡した。

「えっ、半分も受け取っていいんですか?」

「当然だ。お前がいなきゃ、少し面倒な戦闘になってた」

 その一言に、アイナの顔がぱっと明るくなる。

「……ありがとうございます!」

 手続きを終えたレイン達がギルドを出ようとすると、扉の外は夕方の金色の光に包まれていた。柔らかな風が頬を撫で、遠くで鐘の音が鳴る。


少しだけ前を歩くレインが別れを告げる。

「じゃあ、またな」

「レインさん!」

 軽く振り返ると、アイナが少し頬を染めて立っていた。

「また一緒に、依頼……行けますか?」

「……ああ、タイミングが合えばな」

 レインはそう言って歩き出す。


 空の光はゆるやかに傾き、ギルドの看板を黄金色に染めていた。


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