67 シャンテル王女は国民から密かに慕われている
視察は順調に過ぎていく。
日照りや干ばつ対策を行った現場では、農地の土壌や作物の出来栄えを確認した。また、騎士団から人を派遣して造った用水路の確認も怠らない。
「お姉様? 対応が終わっているのに、これを見て何の意味がありますの? こんなの時間の無駄ですわ 」
ジョアンヌは日照りや干ばつ対策の現場を見て、そう言った。
「意味はあるわ。国費を投資した対策がうまく機能しているか確認して、改善したならそれを続けるべきだし、そうでないなら更に改善するか、逆に対策を打ち切る判断が必要だもの」
シャンテルが答えると、納得していなさそうな返事が返ってきた。それを見たマーティンが「無駄使いを止めようとされているジョアンヌ様のお考えが理解できないようですね」とシャンテルを小馬鹿にした。
シャンテルはそれを冷めた視線で受け流し、気を取り直して、視察に集中する。
ニヶ所目の訪問先では、村長から「シャンテル様が騎士団を派遣して、自ら手伝ってくださったお陰で豊作続きです」と、感謝の言葉を贈られた。
「私は最初の二日しか参加していないわ」
「それでも王族の姫君がワシらのために、あそこまでしてくださったことが嬉しかったのです」
「ルベリオ王国の食を支えているのは、皆さんのような方々です。私はそれを支援したにすぎません」
そう答えても、「シャンテル王女」「カール様」「騎士の皆さま」と、シャンテルや第二騎士団への感謝で溢れていた。
その日の夜、シャンテルたちはその土地で採れた野菜を使った食事で歓迎された。
村の人たちとも交流を深め、特にジョセフとロルフは野菜や料理を気に入ったようだ。
ジョセフは「どうやって育てていますか?」と質問したりと、同行した国賓たちも楽しそうだった。
こうして、四日間で三箇所の地域を回った。作物の実り具合に多少の差はあるが、どの地域も問題なさそうで安心した。
その後、道中で街の視察を一つ行い、川が決壊して被災した地域へたどり着いた。流された橋の補修工事は、通れるようにすることを優先し、その後は住民たちの仮住まいや家の補修を優先したことで、仕上げ作業に遅れが出ていた。
職人たちが修繕している様子を見学し、進捗を確認すると、遅れはあるものの、一ヶ月あれば完成する予定であると分かった。
被災した人々はようやく仮住まいから移り、元の生活を取り戻し始めている。
ここでもシャンテルは国民に囲まれて歓迎された。
災害当初は復興支援として、第二騎士団が交代で一ヶ月この地域に滞在した。シャンテル自身も災害発生後に三日間、そして三週目に、二日間滞在した。
「シャンテル様、遠いところお越しいただき、ありがとうございます。この通り、少しずつではありますが、家も畑も復旧しております」
「シャンテル王女様がまた来てくださるなんて、夢みたいです」
「シャンテル様! 私、お姉さんになったよ! 妹の面倒も見てるの」
老若男女問わず皆、口々にシャンテルに話しかけている。
「シャンテル王女は意外と国民から慕われているんですね」
胡散臭い笑みと共に放たれたエドマンドの言葉に、一言余計です! と言いたい所だが、彼の言う通りだった。
これまで回った地域では、シャンテル自ら訪れて支援したことで、人々は彼女にとても好意的だった。シャンテルの訪問を皆が歓迎したと言っても、過言ではない。だが、彼らも最初からそんな反応だったわけではない。
初めて訪れたときは、トビーのように疑いや嫌悪の眼差しを送る人が殆どだった。だが、シャンテルが町や村の為に汗を流す姿を見て、彼らは彼女が噂に聞く傲慢で野蛮な王女ではないことを知った。
「まぁ、私が関わった人たち限定ですけれどね」
ランダムに選ばれた街の視察では、今もシャンテルの名を聞くと、嫌悪の眼差しを向けられる。
予め騎士団の名前で予約していた宿では、シャンテルがいると分かると、受付の従業員が顔をひきつらせるからだ。その他にも、騎士服で活動するシャンテルを見かけた者は、「あれが噂の……」と怪訝そうな顔をした。
だが、今回は視察団の中にジョアンヌがいると分かると、彼らは分かりやすく安心した顔をした。そして、ジョアンヌを守るように部屋割りをシャンテルから遠ざけた。
だけど、ジョアンヌと部屋が遠い方がシャンテルも気楽に過ごせる。
これはこれで、悪くないと思うシャンテルだった。




