66 後ろ楯候補
日が暮れる頃、シャンテルたちは目的の宿へ到着した。夕食後、シャンテルは宛がわれた部屋のベッドに寝転がって、自身の後ろ楯について考える。
ルベリオの次代の王になると決めた今、後ろ楯は必要だ。
アンジェラはシャトーノス侯爵家が後ろ楯になると言ってくれた。シャトーノス侯爵家であれば、ベオ候爵とも渡り合える力がある。ジョアンヌと王位を巡って対立する可能性を考えると、犬猿の仲である家同士というのも都合がいいだろう。
あとは、シャンテルが王になるために力を貸すと言ってくれた皇子と王子たちもいる。
後ろ楯は多いに越したことはない。本当に協力してもらえるなら、ありがたい話だった。
『こんな国、一度ぶっ潰してしまえばいい。シャンテル王女、俺と手を組みませんか?』
シャンテルが王になることを本格的に意識し始めたのは、夜会の日、エドマンドがそう持ちかけてきたことが始まりだ。家族や国民を見捨てられないと告げたシャンテルに、その気になればやり方は幾らでもあると、示してくれた人物である。
だけどそれは、現国王を退けて王になる道だ。
お父様を退ける、か。確かに、お父様は国王として頼りないものね。
アンジェラ様が王妃になれば、お父様も少しは変わるかしら? でも、彼女は私を王にしたがっていて、あわよくば婚約が破談になることを望んでいるから、お父様を支えるつもりはないかもしれないね。
そう思ったシャンテルの頭に次に浮かんだのは、セオ国のロルフ王子とホルスト王子だ。二人もシャンテルが女王になりたいなら手を貸すと言っていた。
『シャンテル王女がこの国の女王になりたいと願うなら、その手助けを。この国から逃げ出したいと願うなら、私かホルストの婚約者としてセオ国へ連れ帰りたいと考えています』
具体的にどのように手助けしてくれるつもりかは分からない。けれど、協力を申し出れば力になってくれるだろう。
セオ国はルベリオともギルシアとも均等に交流していて、中立を保っている国だ。そんな国の王子を後ろ楯にできれば、今後セオ国と友好関係が築けるだろう。
だけどこの申し出は、セオ国に利益がない。
シャンテルが王になりたいと願うなら、これまで以上にルベリオ王国とセオ国との友好的な関係を望むとロルフは言った。セオ国が中立国からルベリオ王国の同盟国に変化する可能性もある。
そうなれば、他国からはルベリオ王国とセオ国が急に同盟を結んだように見える。それも、シャンテルを王にするために力を貸したセオ国には、大きなメリットがあるとは思えない。
せいぜい、ルベリオ王国の特産品が手に入りやすくなる程度だろうか? だけど、ルベリオ王国の懐は楽ではない。隠しているが、密偵を潜入させれば、すぐ分かることだ。
だとすると、他国にも分かりやすい友好関係の象徴と言えば、ただ一つだ。
「政略結婚……」
……まさか、私かジョアンヌと結婚することだったりしないわよね?
『……正直に申し上げると、シャンテル王女がどのような願いを望まれるかによって、我々の望みは形を変えると言ってよいでしょう』
ロルフはシャンテルがルベリオから出るならば、王子の婚約者として迎えると言っていた。
あの言葉の意味は、婚約者がシャンテルかジョアンヌの二択か、シャンテルの一択になるかの違いだったりするのかしら? ……これは私の考えすぎよね?
シャンテルは頭の中に浮かんだ突飛な考えを振り払う。だけど、国賓としてルベリオ王国に滞在しているエドマンドやセオ国の王子たちに協力を求めれば、婚約の二文字が付いてくるような気がした。
その時、ノックの音がして「姫様、マリーナです」と侍女が部屋に戻ってきた。
「ジョセフ様からのお手紙を従者の方より、お預かりしました」
「手紙?」
視察に同行しているのだから、直接お話ししてくださればいいのに……
そう不思議に思いながら、シャンテルは手紙を受け取って、中を確認した。




