60 視察に関する国賓たちへの対応
「シャンテル王女、俺は貴女を少し見直した」
「はい?」
シャンテルがマーティンとジョアンヌから解放されて、執務室へ向かっているとエドマンドが感心した声で告げた。
「いつもなら発言を諦めて場を納めようとするが、さっきはジョアンヌ王女に言い返していただろう」
言われて、『何故、私が貴女を誘うと思うの?』と発言したことを思い出す。
「……なんだか許せなかっただけです」
「それでいい。この調子で普段からはっきり言ってやればいい。シャンテル王女が公務を肩代わりしたり、暴力を受け入れる必要は無い。貴女はそれらを躱せるだけの知識も実力も備わっているのだから」
「え?」
シャンテルは思わずエドマンドを見た。エドマンドの中で、シャンテルは想像より高く評価されているらしい。それを知って、少しむず痒い気持ちになる。
「このまま残念な王女は卒業したらどうだ? そうすれば俺もがっかりせずに済む。何より、シャンテル王女も面倒事を押し付けられにくくなるだろう」
残念? がっかり?
どこかで聞いたような気がしたシャンテルは、記憶を辿る。そして、夜会の日にバルコニーで言われた言葉を思い出す。
『だからこそ残念で、がっかりもしている』
もしかして、私がバーバラやジョアンヌに好き勝手言わせていたから、エドマンド皇子はあんなことを言ったのかしら?
今までは、言い返せば言い返しただけ文句を言われたため、シャンテルはあまり言い返さなかったし、仮に言い返したとしても受け入れる形で諦めていた。
だが、今回は思いがけず言い返した。それにより、最終的にシャンテルが一方的に悪女扱いされることはなかった。
エドマンドやアルツールたちに助けられたとは言え、思わず出た一言でマーティンとジョアンヌに言葉で対抗し、引き分けに持ち込めたと言える。
今まではあまり反論しなかった。けれど、それが元で私は言い返してこないから大丈夫、と思われていたとしたら、ジョアンヌを増長させる原因だったのかも知れないわ。
現に、シャンテルが今までとは違うところで反論したあの瞬間、マーティンは声を荒らげて言い返してきた。だが、ジョアンヌは彼の背中に隠れて言葉を失っていた。
あの時、シャンテルから見えたジョアンヌは、信じられない光景を見ているような瞳をしていた。
「残念な王女の卒業、ね」
シャンテルはポツリと呟く。今日のジョアンヌの反応を目にして、中に少しだけ何かが変わるかもしれないと、期待が宿った。
「少し考えておくわ」
「是非検討してくれ」
エドマンドの“検討”という言葉に、シャンテルは何か大切なことを忘れているような気がした。そして「あっ」と思い出す。
アンジェラ様と昨日お話した内容で頭が一杯で、視察のことを皆さまにお伝えし忘れていたわ!
数日前に、エドマンドを護衛騎士として同行させるかについては、官僚たちとの打ち合わせで結論が出ていた。
騎士団の入団試験騒動では、国王の独断でシャンテルの護衛騎士としての活動が通ってしまった前例がある。そのため、護衛騎士の役割を許されたエドマンドでも、国賓を我が国の公務に関わらせることは出来ないと、断ることになっている。
本当は国王が許可しなかったと言ってしまいたい。だが、直接国王に確認されてしまえば、国王の不況を買う上に、嘘がバレてしまう。そのため、エドマンドが国王に接触を図らないことを祈るばかりだ。
「どうした?」
明日の朝食会で、改めてお伝えしましょう。
そう結論を出したシャンテルは、不思議そうなエドマンドに「いえ、何でもありません」と答える。
そうして迎えた翌日の朝食会で、ようやく視察で暫く城を空ける件を伝えた。
ジョセフやロルフたちは「寂しくなりますね」と言いながらも、理解を示してくれた。そして、案の定、エドマンドは護衛騎士として同行できるか尋ねてきた。そのため、シャンテルは用意していた回答を伝えた。
こうして、ジョセフたち三人は、十日間に及ぶシャンテルの不在を受け入れてくれた。さらに、出発時は見送りしてくれるという。
その話をしている間、エドマンドはにこやかな笑顔を見せていたが、笑顔の裏でどうやって視察に同行するかを考えていると思うと、シャンテルは内心ハラハラした。
そしてもう一人、視察に関して納得していない人物がいる。それは勿論、アルツールだ。
「どうすれば視察に同行できる?」
「先程、エドマンド皇子にも説明した通りです。国賓の皆さまを我が国の公務に関わらせるわけにいきません」
「それは答えになっていない」
「いいえ。これが答えです」
シャンテルは、こちらの事情を悟られないよう、笑顔を張り付けて受け答えた。だが、アルツールは中々引かない。
その日は平行線のまま朝食会を終えた。だが、翌日に事件は起こった。
エドマンドが従者経由で国王に謁見の約束を取り付け、護衛騎士として視察に同行したいと願い出たのだ。そしてそれは、例のごとくあっさり許可された。
シャンテルたちが恐れていた事態が現実になったのだ。
それを知ったアルツールもエドマンドと同じ手段で国王に謁見し、ルベリオ王国を知るためと称して、視察の同行を希望した。
それを受けて、国王は未来の王配になるかもしれない彼らに、この国を知ってもらう機会として、滞在している全員に視察同行の許可を与えた。




