52 相席の誘い
「エドマンド皇子、貴殿がついていながらなんだこのザマは」
騒動が一段落して各々が再びお茶会を楽しみ始めると、アルツールがシャンテルたちの前にやってきた。低い声でエドマンドを責める彼は、デリア帝国の皇子相手に強気だ。
「護衛騎士だと威張っておきながら、肝心な時に役に立っていないではないか」
睨み付けてくるアルツールにエドマンドは一つ息を吐く。
「途中で妃殿下が出てきたんだ。仕方ないだろう?」
「だから黙っていたのか? シャンテルが疑われ責められていたんだぞ」
「ルベリオ王家の問題に介入するための返事を俺はまだシャンテル王女からもらっていませんので」
胡散臭い笑みで“介入するための返事”と告げたエドマンドに、シャンテルはドキッとした。
それは夜会の日に持ちかけられた提案に違いない。つまり、シャンテルが“イエス”と頷いたら、エドマンドはルベリオ王家の問題に首を突っ込むということになる。
「まぁ、いざという時は庇うつもりだった。だが、アンジェラ嬢が場を収めてくれた」
「言い訳だな。後からいくらでも言える」
アルツールが鼻で笑ったところで、シャンテルは二人の止言い合いを止めに入る。
「お二人とも、争うのはお止めください。折角、アンジェラ嬢が収めてくださったのですよ」
ここで二人が本気で言い争えば、また注目を浴びてしまう。シャンテルはそれだけは避けたかった。
「それでも、私を心配してくださり、ありがとうございます」
シャンテルがお礼を告げると、二人がそれ以上言い合うことはなかった。
その後、ジョセフやロルフたちもシャンテルを案じて改めて声をかけに来た。
「シャンテル様、先程は災難でしたね」
ジョセフの言葉にシャンテルは苦笑いを浮かべる。
「お恥ずかしいところをお見せしました」
「私もホルストも心配していました」
「お助け出来ず、すみません」
シュンと項垂れるロルフとホルストに「お気になさらず」と声をかける。
少し雑談した後、シャンテルは王子たちと別れた。そして、サリーに預けたままになっていた小皿を手に机があるエリアへ向かう。
その一角で歓談している、とある先客を見つけたシャンテルは迷わず足を向けた。
「アンジェラ嬢」
シャンテルが呼び掛けると彼女が振り向く。
「シャンテル王女」
「先程はありがとうございました」
軽く会釈したシャンテルに、アンジェラが立ち上がって受け答える。
「いえ、大したことはしていません」
「いいえ。アンジェラ嬢がいてくださらなかったら、私は会場を去ることでしか、あの場を収められませんでしたから」
シャンテルが静かに首を横に振ると、アンジェラを含めた令嬢たちが顔を見合わせる。
「シャンテル王女、よろしければお掛けになってください」
一人の令嬢が余っている椅子を一つ勧めてくれる。
「よろしいのですか?」
シャンテルは仲良しグループのお喋りの輪に誘われたことに、驚きと戸惑いを隠せなかった。だが椅子を勧めた令嬢が上品な笑顔を見せて頷く。
「えぇ。わたくしたちだけ座っているのは申し訳ありませんし、それにシャンテル王女も座る場所を探してこちらにいらしたのですよね?」
問いかけるその視線は、シャンテルが持つ小皿に注がれていた。
彼女たちの好意に甘えて、シャンテルは相席させてもらった。今まではお茶会に呼ばれても、ジョアンヌのお陰で直ぐ戻る羽目になっていた。何より、シャンテルを“ギルシア王国の血を引いた野蛮な王女”と思っている他の令嬢と楽しく会話を続けることが難しかった。そう思う程には空気が重く、シャンテルは輪の中に中々入れてもらえなかったのだ。
最初は緊張していたシャンテルだが、アンジェラたちは時々シャンテルにも話を振ってくれた。そうやって同じ時を過ごすうちに、今までと違って少しずつ彼女たちと打ち解けていく。
相席を申し出てくれたのはキャロリン、そしてもう一人はイメルダという令嬢だ。二人はアンジェラの友人だった。三人ともシャンテルより少し年上のお姉様方だが話してみると。とても気さくだった。
どこのお菓子が美味しいとか、どこの仕立て屋や宝飾品店の質や品揃えがいいだとか。シャンテルには付いていけない話題もあったが、楽しそうな会話を聞いているだけでワクワクした気持ちになった。
「そう言えば、今日のシャンテル王女のドレス、とっても素敵ですよね」
キャロリンが言うとイメルダが頷く。
「それ、わたくしも思っていましたの!! 今までお召しだったドレスも素敵でしたけれど、いつもとは雰囲気が違って、とても大人っぽく見えます!」
「あ、ありがとうございます」
褒められ慣れていないシャンテルは照れ臭くなる。
「ご挨拶した時は聞けませんでしたが、そのドレス、やはりエドマンド皇子からの贈り物ですか?」
アンジェラが確信に迫る問いを投げてきた。あの時は無難に答えて回避したが、キャロリンとイメルダも興味津々の瞳を向けている。シャンテルに逃げ場はなかった。
「えっと、……そうです」
認めただけだが、答えた瞬間、シャンテルは頬が熱くなった気がした。「きゃー!」と小さく黄色い悲鳴を上げる三人も頬が紅葉している。
「ではではっ!! シャンテル王女はエドマンド皇子を婚約者に選ばれるのですか!?」
「えっ!?」
「だって、戴いたドレスを着てくるということはそういうことでしょう?」
少し興奮気味に身を乗り出すキャロリン。ふふふっと、にこやかに笑うイメルダとアンジェラ。
「あ、いや、これはっ! エドマンド皇子が会場までエスコートしてくださると事前に分かっていたので、それに合わせただけです」
エドマンドとも同じ会話をした筈なのに、何故か早くなる胸の鼓動にシャンテルは戸惑った。そして慌てた答えように三人のお姉様方は、「ふふふっ」と意味ありげな笑みを向けてくる。
「本当のところ、どうなのです? シャンテル王女は他国からいらっしゃっている王族のどなたが好みですか?」
イメルダが攻めた質問をすると、三人の好奇心に満ちた瞳は再びシャンテルに向けられた。




