51 思わぬ味方
「アルツール王子はジョアンヌが嘘を吐いていると仰るのかしら?」
バーバラが苛立ちを抑え込んだ声で問いかける。
「事実を言ったまでだが、結果そうなるな」
アルツールの言葉に周囲は口々に言葉を発した。
「ジョアンヌ様が嘘を吐く筈ありませんわ!」
「ギルシアの王太子はシャンテル王女を庇っているよの!」
「ですが、わたくしもシャンテル様はジョアンヌ様から少し離れたところにいらっしゃるように見えました」
「では、本当にジョアンヌ様が嘘を?」
「でしたら、侍女の証言も嘘ということに?」
「シッ! バーバラ妃殿下に聞こえますわ!」
人々の反応は様々だった。疑念を抱く者もいたが、大半はバーバラとジョアンヌの肩を持った。
私がここにいればいるだけ、参加してくださっている皆さまを巻き込んでしまう。
「申し訳──」
シャンテルが口を開きかけたとき、「皆さま」と良く通る声がその場に響いた。振り向くと、アンジェラが騒ぎの中心に足を踏み込んで来ていた。
「今はジョアンヌ王女が怪我をされていないか、確認するのが先ではありませんか? 先程から蹲ったままのようですし、早く医務室へお連れした方がよろしいのではなくて?」
一瞬、シーンと辺りが静まり返る。いち早く反応したのはジョアンヌの背中を擦っていた令嬢だった。
「ジョアンヌ様っ! まさか立てない程、何処か痛むのですか!?」
「え……? あっ、い、いいえ! だ、大丈夫ですわ!!」
否定するや否や、素早く立ち上がったジョアンヌはパッパッとドレスを叩く。
「もうどこも痛くありませんわ!」
無事をアピールするジョアンヌ。
城内に常駐している宮廷医はルベリオ王国でも確かな目があり、優秀な医者だった。ジョアンヌが幼い頃、レッスンをサボりたいあまりに「足を捻った」と申告したの嘘を鮮やかに見破り、彼女は国王に叱られたことがある。その逆も然りで、高熱を出した時に点滴の針を刺されるのが嫌で「大丈夫だ」と嘘を吐いて大泣きしたらしい。
つまり、ジョアンヌは成長した今も医者が苦手なのである。
このまま痛がる演技をしても良いことはないと悟ったのだろう。その場にいた殆どの者が一瞬呆けてしまった。それはバーバラもシャンテルも例外ではない。居心地が悪そうな笑顔を見せるジョアンヌにアンジェラは微笑み掛ける。
「ジョアンヌ王女が大丈夫と仰るなら、大したことないようですし、この件はもう良いですわよね?」
アンジェラが畳み掛けるように言葉を紡ぐと、バーバラが声を張り上げた。
「良くありません! ジョアンヌが大怪我をしていたかもしれないのです! シャンテルにはきちんと謝罪を──」
「ですが、アルツール王太子殿下の証言では、シャンテル王女にジョアンヌ王女を転ばせるのは難しそうです。それから、実を言うとわたくしもたまたま目撃者しておりました」
バーバラに被せてアンジェラが放った言葉に、誰もが驚きを見せた。
「アルツール王太子殿下が仰った通りですわ。わたくしにもジョアンヌ王女が一人で転んだように見えました。きっと、芝に足をとられてしまったのでしょう」
にこりと微笑んだアンジェラの姿に会場の空気が軽くなる。
「アンジェラ様がそう仰るなら、間違いありませんね」
「ジョアンヌ様にお怪我がなくて、良かったですわ!」
「流石は次期王妃殿下。見事に場を納めてしまわれましたわ」
シャンテルがバーバラを見ると、彼女の握った拳が震えていた。
何故、小娘がこの場を仕切っているのっ!!
バーバラはそんな風に憤って、アンジェラを睨み付ける。一方のシャンテルはいつの間にか騒動の中心から外れて、問題が無事解決したことに戸惑いつつもホッとした。アンジェラのお陰でシャンテルに向けられた疑惑が有耶無耶になったのだ。
アンジェラ嬢とは、殆ど話したことはないけれど流石は侯爵令嬢ね。
バーバラと違い、冷静に思考して動けるタイプのようだ。国王の愛人だった為、わがままな令嬢かもしれないとシャンテルは思っていた。だが、実際は違うようだ。そういう意味ではバーバラよりも妃に相応しい人物だと言える。
この方が王妃なら少しは安心だわ。と、シャンテルは別の意味でもホッとした。




