43 バーバラの誘い
「失礼しますわ」
入ってきたのはバーバラだった。
「皆さま、ごきげんよう。お楽しみのところ中断させてごめんなさい」
簡単に挨拶して、にこやかな笑みを浮かべたバーバラが室内に踏み込んでくる。
「楽しげな声に誘われてきてみれば、王子様方がお揃いで驚きましたわ。丁度皆様をお探ししていましたの」
「バーバラ妃殿下、お会いするのは夜会の日以来ですね」
ロルフが立ち上がって会釈するとホルストもそれに続く。直後にシャンテルとエドマンドも立ち上がった。
「ロルフ王子、お久しぶりですわ」
「こちらからご挨拶に伺うべきところを申し訳ありません」
「構いません。セオ国のお二人はジョアンヌを素敵な会にお誘い下さいましたもの」
言いながらバーバラの視線がエドマンドへ向かう。その表情は笑顔だが、ロルフとホルストに向けていたものと比べると、冷たいように感じる。
夜会の日にジョアンヌに“興味がなくなった”と言って、恥をかかせたからだろうか。
バーバラがエドマンドに何か言葉をかけることはなかった。そして、彼女はシャンテルには視線を向けることすらなく、セオ国の王子たちに向き直った。
「アンジェラ嬢と陛下の婚約式が一月後に決まりましたの。そのお祝いに、来週わたくし主催のお茶会を開きます。ルベリオ王国の貴族令嬢も沢山招待していますから、ぜひ皆様ご参加ください」
「我々が参加してよろしいのですか?」
ホルストが問いかけると、バーバラが「えぇ、勿論です」と頷く。
「王子様方は我が国に婚約者を探しにいらっしゃっているのですから。今度のお茶会は前回の夜会の次に良い出会いの場になると思いますわ。勿論、お茶会にはジョアンヌも参加します。皆様が参加すると聞けば、きっと喜びますわ」
バーバラは「ふふふっ」と扇子で口元を隠して上品に笑う。それは明らかにデリア帝国の皇子であるエドマンドよりも、セオ国の王子を贔屓している態度だ。
その証拠にお茶会に誘ってはいるものの、エドマンドの方にはあれから視線を向けていない。それどころか、露骨にセオ国の王子達ばかりに話しかけている。
シャンテルは緊張で体を強張らせた。もしも、バーバラの態度が気に入らなくて、エドマンドが怒ったら、小国のルベリオ王国は大変なことになるからだ
ちらりとエドマンドを見るけれど、その表情にはなんの感情もなく、ただバーバラとセオ国の王子たちを見ていた。
「シャンテル」
突然、バーバラに名前を呼ばれたシャンテルは、慌てて「は、はい」と返事する。
「貴方も早く公務を終わらせて、お茶会に参加なさい。大切なお客様をお招きする会です。遅れてはなりませんよ」
冷たく告げられた言葉。シャンテルは見下されるような視線を感じて、胸がもやもやした。
口元は相変わらず扇子で隠れていて表情は読めない。だが恐らくはシャンテルがお茶会に参加しても、しなくてもバーバラから文句を付けられるだろうと簡単に想像がついた。
「はい、分かりました」
シャンテルは無理やり笑顔を作って答えた。
「それでは、わたくしはこれで失礼しますわ。アルツール王太子やジョセフ公子もお誘いしておきますから、皆さま楽しみにしていてください」
「ご機嫌よう」と言葉を残してバーバラが退室した。途端に沈黙と共に気まずい空気が流れる。
「くだらない」
そう言って、最初に沈黙を破ったのはエドマンドだった。ストンと椅子の上に体を戻して、言葉を続ける。
「あの態度の違い。……俺が兄上だったら、今頃ルベリオ王国を侵略する計画を練っていただろう」
エドマンドの言う兄上とは、デリア帝国の皇太子を指す。皇太子といえば、自ら軍を率いて、戦地に赴くこともあり、近年デリア帝国の領土拡大に最も貢献していると言われている。
「っ!! エドマンド皇子、バーバラ妃殿下が失礼な態度を取ってしまい、大変申し訳ありません」
“侵略”と聞いて、シャンテルは即座に頭を下げて謝罪する。最近のエドマンドとのやり取りのせいで危機感が霞んでいたが、彼は大国の皇子なのだ。小国のルベリオ王国はデリア帝国にかかれば容易く蹂躙されるだろう。
「シャンテル王女が謝ることではない。気にするな」
さらっとした言葉に顔を上げる。
シャンテルの目に映るエドマンドは少々不機嫌ではあるものの怒っていないようだ。そのことにシャンテルは少し安心感を覚える。
「私たちがジョアンヌ王女をお誘いしたことで、バーバラ妃殿下に変に気に入られてしまったようですね」
ロルフとホルストが困った様に顔を見合わせる。
「ジョアンヌ王女がバーバラ妃殿下の子であるのも納得です」
ホルストが肩を竦めた。
「不愉快な場面もありましたが、誘われた以上参加するしか無いでしょう。ホルスト気を引き締めますよ」
「はい。兄上」
「腹立たしいことだが、一応俺も誘われていたな。まぁ、シャンテル王女が参加するなら不参加という選択肢はない」
三人は納得していないものの、それぞれ参加するようだ。だが、シャンテル自身はどうするか悩む。
お茶会に参加するのもしないのも、どちらも気が進まない思いだった。




