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シャンテル王女は見捨てられない〜虐げられてきた頑張り屋王女は婚約者候補たちに求婚される〜  作者: 大月 津美姫
2章

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41 セオ国の王子たちとお茶会

 その日の午後、シャンテルは昨日と同様に裾がふんわりした美しいドレスで着飾っていた。客人をもてなすための賓客室で、お茶とお茶菓子を前にロルフとホルストと向かい合う。

 シャンテルはジョセフと会った翌日にセオ国の王子たちとの予定を立てた。ジョセフとの約束から日を置くのは、彼らを後回しにしていることもあり、あまりよくないと考えたからだ。


「シャンテル王女、このようにゆっくり会話出来る機会をいただけたこと、大変嬉しく思います」

「ありがとうございますロルフ王子。それから、ホルスト王子も。ですが、エドマンド皇子も同席で本当によろしかったのですか?」


 エドマンドはシャンテルの護衛騎士として、部屋の外で警護する筈だった。だが、セオ国の王子たちは「よろしければ、エドマンド皇子もご一緒しませんか?」と彼を中へ招き入れたのだ。


「構いません。デリア帝国の皇子を立たせたまま我々だけ会話を楽しむのは、こちらも落ち着きませんので」


 ロルフは笑顔を浮かべていたが、恐らく社交辞令だ。だが、落ち着かないという言葉は本心だろう。とはいえ、シャンテルと交流するための場に他国の皇子がいるのは、あまり良い気がしないに決まっている。


「気を使わせてしまって申し訳ありません」


 シャンテルの隣に腰掛けたエドマンドが丁寧な口調で述べた。だが、胡散臭い笑みを見るに心にもない詫びのようだ。


「いえ、気にしないで下さい。それと、楽に話して下さって結構ですよ。エドマンド皇子もその方が寛げるかと」


 セオ国の王子もエドマンドが猫を被っていることを分かっているようだ。ロルフが告げると、胡散臭い笑みを消したエドマンドは「では、遠慮無くそうさせてもらおう」と答えた。それを見届けて、ホルストがシャンテルに尋ねてくる。


「昨日はジョセフ公子と庭園を散策されたそうですね」

「はい。城の庭に咲いている花や植物をご紹介しました」

「本日は室内での交流を希望しましたが、次は是非我々にもルベリオ王国の植物を紹介して頂きたいです。ルベリオ王国はセオ国とは気候が違いますから、目にするもの全てが新鮮で興味をそそられます」


 セオ国はルベリオ王国の北側にある。ルベリオ王国より寒い気候である為、咲く花々の種類はルベリオ王国より少ない、だが、セオ国の花々はこの国では見かけない種類ばかりだ。そんな彼らからすると、ルベリオ王国の植物が珍しいに決まっている。


「勿論です」


 シャンテルは答えて、しばし和やかな雰囲気でお茶やお菓子を楽しんだ。

 以前、ニックや彼の部下たちが渡してくれたセオ国の歴史に関する本や流行っている物語本のお陰で話題も出来て、話しにも付いていくことが出来た。

 少し身構えていたシャンテルだったが、ただ交流を楽しむ会の雰囲気にすっかり気持ちが緩んでいた。


「シャンテル王女」


 会の中盤、真剣な声色で呼ばれて、シャンテルが向かいのロルフを見る。どこか決意したような顔つきに、何か大切な話があるのだと察した。


「我々が先にジョアンヌ王女と交流を持ったことについて、改めて説明させてください。決してシャンテル王女を軽視していたからではないのです」


 先にジョアンヌをお茶に誘ったことに対する配慮なのだろうと、シャンテルは直ぐに察した。


「私は気にしていません」

「そういう訳にはいきません。シャンテル王女はルベリオ王国の要。貴女がいなければ、この国はたちまち立ち行かなくなる。そんな貴女に敬意を欠く訳にいかないのです」


 その言葉にシャンテルは返事に戸惑った。そして数日前、エドマンドに似たようなことを言われたことを思い出す。


『隠すことはない。ルベリオ王国の王族がシャンテル王女を除いて、サボり常習犯の無能であることは、ギルシア王国の奴らも知っていることだからな』


『このことは、セオ国の奴らも勘付いているぞ』


『セオ国が先日ジョアンヌ王女を茶の席に誘ったのは、彼女に声を掛けておかないと、お前との時間に割り込まれるか、あの王女に付き纏われると考えたからだろう。謂わば、ただのご機嫌取りだ』


 本当に、セオ国のお二人もルベリオ王国の現状を把握していた。


「要だなんて、大げさです」


 シャンテルが愛想笑いを浮かべると、「大げさではありません」と相変わらず真剣な声色でロルフが答える。


「我々はシャンテル王女の力になりたいと思っています」

「え?」


 まさか、ロルフとホルストからそんな提案をされるとは思ってもみなかったシャンテルは固まる。


「シャンテル王女がこの国の女王になりたいと願うなら、その手助けを。この国から逃げ出したいと願うなら、私かホルストの婚約者としてセオ国へ連れ帰りたいと考えています」


 そう言われて、シャンテルは夜会の日にエドマンドと交わした会話を思い出す。


『こんな国、一度ぶっ潰してしまえばいい。シャンテル王女、俺と手を組みませんか?』

『手を組む?』

『貴女が望むなら、女王になるために手を貸そう』


 思わず、ちらりと視線だけをエドマンドに向ける。それに気づいた彼が「何だ」と尋ねてくる。


「あ、いえ、その……」


 口ごもってしまったシャンテルはエドマンドから視線を逸らす。その様子にロルフとホルストが不思議そうにシャンテルとエドマンドを見た。


 今のエドマンドとのやり取りが、意味深いものに見えたかもしれない。そう思ったシャンテルは、失礼になるかもしれないのを承知で尋ねる。


「……何故、お二人が私の力になってくださるのですか? 私に力を貸しても、セオ国に利益が生まれるとは思えません。その……何か望むものがあるのでしょうか?」


 これは夜会の日にエドマンドにも尋ねたことだ。一国の王子が、ただの奉仕で親切にしてくれるとは思えない。


 エドマンドは望む“モノ”として信じられないことに、シャンテルの夫の座と言った。エドマンドとは違うだろうが、彼らも自国に何かしらの利益を求めている筈だ。


 ちらりとホルストがロルフに視線を送る。ホルストは言うべきか言うまいか、判断が付かないのだろう。それで兄の方を見たようだが、ロルフは焦ることなく微笑みを浮かべて、落ち着いているように見えた。


 社交では微笑み一つでその場を誤魔化したり、真意を隠すことはよくある。ロルフが微笑みの裏で何を思っているのか、シャンテルは読み難かった。

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