36 アルツールとエドマンドの朝食をめぐる争い
「だから! 俺がシャンテルと食事すると言っているだろう!」
「何を言う。シャンテル王女と食事するのは俺だ。昨夜、王女と朝昼晩と食事の約束をした」
翌朝、シャンテルが自室を出ると、まさかの光景が広がっていた。
こんなことになるなんて……
部屋の前で言い合いをしているのは、アルツールとエドマンドだ。シャンテルとの朝食を巡る争いに、シャンテルはぽかんと口を開けた。侍女のサリーも流石に困った苦笑いを浮かべている。
「シャンテルお前からも何とか言ってやれ」
「シャンテル王女、約束通り迎えに来たぞ」
二人がそれぞれシャンテルに顔を向ける。アルツールは表情に苛立ちを滲ませ、一方のエドマンドは爽やかな笑顔を浮かべている。
「お二人とも、部屋の前で騒がれては困ります」
「コイツが突っかかってきたんだ」
「それは、こちらの台詞だ」
「……」
平行線の会話から察するに、どちらも譲る気はないらしい。
「それで? お尋ねしますが、お二人は何故私の部屋の前にいらしたのですか?」
断片的な会話から何となく二人の目的を察していたが、一応尋ねる。
「シャンテルと朝食を摂るためだ」
「シャンテル王女と朝食を摂るためです」
揃った声で告げられ、やっぱり……と、思いながらシャンテルは小さく息を吐く。
「そう言う訳だ。エドマンド皇子は諦めろ」
「いいや? 諦めるのはギルシアの王太子だ」
「エドマンド皇子は護衛騎士として日中シャンテルの傍にいるだろう?」
「そちらこそ、昼食の約束をしたのだろう?」
またしても始まる二人の言い合い。このままでは埒が明かない。一つ息を吐いて、シャンテルは口を開く。
「分かりました。お二人さえよろしければ、三人で朝食を摂るのはいかがでしょう?」
その言葉に、シャンテルを見ていた二人が一呼吸置いて再び顔を合わせる。
「エドマンド皇子、ここは俺に譲ってくれ」
「何を言う。貴方こそ俺に譲るべきだ」
何を言っても二人はシャンテルと二人で、朝食を摂る権利を巡って、決着がつくまで争いをやめる気は無いらしい。
「決まらないようでしたら、私は一人で朝食に向かいます。それでは、ご機嫌よう」
シャンテルはにこりと微笑んでカーテシーを披露したあと、二人を置いて歩き出す。そのあとをサリーが二人の国賓に一礼して、追いかける。
残されたエドマンドとアルツールはまた顔を見合わせた。それから渋々と言った様子で頷き合う。
「シャンテル!」
「シャンテル王女!」
この日から、シャンテルの一日はエドマンドとアルツールの三人で朝食を摂ることから始まった。
◆◆◆◆◆
「ジョセフ公子とロルフ王子、ホルスト王子からのお手紙です」
朝食後、執務室にやって来たニックが手紙を持ってきた。昨日、届けるように依頼した手紙の返事が早速届いたのだ。今日の分の書類と共に受け取って、シャンテルは「ありがとう」と礼を伝える。
溜めていた書類も殆ど片付き、今日の分もそれほど多くない。午後から騎士団の訓練がある。訓練終わりに、昨日カールと相談して決めた婚儀当日の警備の話を騎士たちにすれば、婚姻関係は招待状を送る貴族や国賓のリストアップ作業のみだ。
早速シャンテルは手紙を確認する。ジョセフは午後からならいつでも構わないと書いてあり、セオ国の王子たちも三日後であればいつでも問題ないらしい。
「ニック、早速だけど明後日の午後にジョセフ様とお会いするわ。返事の手紙を届けてくれる?」
「畏まりました」
シャンテルは急いで手紙を用意すると、時間と集合場所を記載した。
「それと、使用人にジョセフ様とのお茶の準備を依頼しておいて。夕方までにはセオ国の王子たち宛の手紙も書いておくから、そのつもりで準備を頼むわ」
「はい」と頷いたニックを見送ると、シャンテルは再び書類仕事を片付けることに集中した。




