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シャンテル王女は見捨てられない〜虐げられてきた頑張り屋王女は婚約者候補たちに求婚される〜  作者: 大月 津美姫
2章

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35 エドマンドのプライベート

 予想外の人物が執務室前にいたことで、シャンテルは慌てて執務机を片付けると、今日の公務を終了した。


「エドマンド皇子が護衛騎士の務めを果たされるのは、夕食の前までと伺ったのですが?」


 自室を目指しながら、シャンテルは隣を歩く人物に質問を投げかけた。シャンテルたちの少し後ろからカールとクレイグもあとを着いてきている。


「あぁ。護衛騎士の努めはそこで終わらせた。だからこれはプライベートだ」

「プライベート、ですか」

「護衛終了後、俺は食事に向かった。クレイグに“シャンテル王女が出て来るまで執務室前(ここ)にいろ”と伝えてな。だが、食事を終えて自室に戻ってもクレイグがいない。帰っていない従者を心配して来てみれば、忠実に俺の命令を遂行していたと言うわけだ」

「何故、彼を執務室の前に残されたのです?」


 護衛騎士の務めが終わったあともシャンテルを気にするのは少々やり過ぎのように思えた。もしかすると、エドマンドには護衛騎士になってまでシャンテルの傍にいる理由を作った狙いがあるかもしれない。そんな疑問がシャンテルの頭を過った。


「俺が婚約したい女性は何日も仕事を溜め込む“無能”では無い筈だ。だから、ここ暫く朝から深夜まで執務室に籠っているのが気になった」

「え?」

「まぁ、それは俺が手合わせを頼んだことも原因の一つだろうが……」


 呟いたエドマンドが、ちらりとシャンテルを見た。

 廊下に灯された薄暗い明かりの中、エドマンドはくるりと身を翻してシャンテルの進行方向を塞ぐ。そして、顔を覗き込んだ。


「目の下に隈ができている。あまり寝てないな?」

「っ、エドマンド皇子が気にされることではありません」

「国王だけでなく、妹の書類まで押し付けられたんだろう?」

「な……」


 何故それを? と言いかけて、シャンテルは慌てて唇を閉じる。


 ジョアンヌがシャンテルに書類仕事を持ってきたことはアルツールですら、把握していなかったことだ。


 となると、デリア帝国の密偵が? まさか、ジョアンヌの侍女の中に!? いや、ジョアンヌたちが道中で話していたのを聞かれた可能性だってあるわ。


「深刻そうな顔だ」


 エドマンドが考え込むシャンテルを怪しむ。


「そんなことありませんよ」


 誤魔化して無理やり笑みを貼り付けると、シャンテルは目の前に立つエドマンドを避けて再び歩きだす。その後を追いかける形でエドマンドが再びシャンテルの隣を歩き始める。


「隠すことはない。ルベリオ王国の王族がシャンテル王女を除いて、サボり常習犯の無能であることは、ギルシア王国の奴らも知っていることだからな」

「サ、サボり常習犯の無能って……」


 あまりの発言にシャンテルは苦笑いのまま言葉が続かない。だが、否定もできなかった。何しろ、国王はシャンテルに書類仕事を押し付けて、今は元愛人の次期王妃に入れ込んでいる。

 ジョアンヌも何か予定が入ると、セオ国の王子たちからお茶会に誘われたときのように、公務をシャンテルに押し付けてくることがある。

 唯一、バーバラはシャンテルに頼ることはなかった。散財癖やシャンテルに対する暴力や発言には悩まされるが、そういう意味では公務と向き合っているらしい。


「無言は肯定だな」


 エドマンドは面白がるようにフッと笑う。だけど、やはりシャンテルは言い返せない。ただただムッと顔を顰めることしか出来なかった。


「このことは、セオ国の奴らも勘付いているぞ」

「えっ?」


 ロルフ王子とホルスト王子が?


 驚いた顔を見せるシャンテルにエドマンドが続ける。


「夜会の日、奴らは“セオ国もシャンテル(・・・・・)王女と仲良くなりたいと願っていて、そのためにルベリオ王国まで来た”と言っていた。“王女たち”ではなく、お前を名指ししたんだ。そこには必ず意図がある」

「……そうかもしれませんね」


 他国の皇子に気付かされるのは居心地が悪い。だがあの日、ロルフは確かにそう言っていた。そのやり取りを離れた所から見ていたジョアンヌが、焦って割り込んで来たくらいだ。


「セオ国が先日ジョアンヌ王女を茶の席に誘ったのは、彼女に声を掛けておかないと、お前との時間に割り込まれるか、あの王女に付き纏われると考えたからだろう。謂わば、ただのご機嫌取りだ」


 エドマンドが言う通り、シャンテルがお茶に誘われてジョアンヌが誘われないことがあれば、彼女は間違いなく何かしら手を打ってくる。それこそ偶然通り掛かった、とかそれらしい理由をつけて、お茶の席に割り込んで来ただろう。


「皆さま、ジョアンヌの性格を理解されているようですね」


 シャンテルは思わず苦笑いになる。王家の内情がここまで他国の王族に筒抜けであることが、悲しかった。


「兎に角、シャンテル王女は少し休んだ方がいい。国賓と茶会を控えているのなら尚更、顔色は整えておくべきだ。まぁ、これからは俺が執務室の前に立つからな。こうして部屋まで送り迎えすれば、ジョアンヌ王女も公務を押し付け難くなるだろう」

「え?」


 シャンテルはエドマンドを見る。


 まさか、そのためにエドマンド皇子は私の護衛騎士を? いや、まさか。考えすぎ、よね?


 シャンテルが困惑しながら考えていると、いつの間にか自室の前に着いていた。


「明日の朝、朝食の前に迎えに来る」


 エドマンドがそんなことを言う。だけど、彼の護衛騎士としての努めは朝食後からの筈だ。そのことを覚えていたカールが「恐れながら、エドマンド皇子」と声シャンテルの代わりに指摘した。


「勘違いするな。俺がプライベートでシャンテル王女を朝食に誘って何が悪い」

「えっ、これって朝食のお誘いだったのですか?」


 思わず尋ね返すと、彼は「あぁ」と頷いた。


「シャンテル王女はいつも一人で食事を摂っているだろう? これからは俺が毎日朝昼晩と付き合ってやる」


 そのお誘いに驚きつつも、シャンテルは昼間に無理やり交わされたアルツールとの約束を思い出す。


「ええと、あいにく昼食は先約がありまして……」


 告げると、エドマンドが眉間にシワを寄せた。


「もしかして、ギルシアの王太子か?」


 す、鋭い!!


「と、兎に角! 私は公務もありますし、毎回エドマンド皇子と時間を合わせて食事するのは難しいと思います。ですから、お気持ちだけで結構です!」

「問題ない。俺がシャンテル王女を迎えに行くし、公務が終わるまで待っていてる」


 このままだと昼間のアルツールみたいに、強引に約束を取り付けられてしまいそうだ。そう悟ったシャンテルは早口で強行突破を試みる。


「必要ありません。私はこれで失礼します。送って頂き、ありがとうございましたっ!」


 バッと部屋の扉を開けると、礼節を欠いていると分かっていながらも、シャンテルはササッと一礼して「おやすみなさい!」と言い逃げるように駆け込んだ。


「あ、おい!」


 背後でそんな声がしたが、無視を決め込んだ。


「姫様? どうなさいました??」


 主の帰りを起きて待っていたサリーは、慌てて駆け込んできたシャンテルの様子に首を傾げたのだった。

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