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シャンテル王女は見捨てられない〜虐げられてきた頑張り屋王女は婚約者候補たちに求婚される〜  作者: 大月 津美姫
2章

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33 護衛騎士としてのエドマンド

 その後、シャンテルは少々不本意ではあったが、アルツールと昼食を共にした。あれこれ尋ねてくると思っていたが、聞きたいことは廊下での会話で聞き終えていたらしい。

 意外と穏やかな昼食にシャンテルが安心した所で、明日以降の昼食の約束も強引に取り付けられて、アルツールと別れた。


 その後、シャンテルは騎士団の訓練に参加した。それを終えると再び書類仕事を片付けるため、執務室へ向かう。

 角を曲がって執務室前の廊下に出ると、そこにエドマンドとクレイグの姿を見つけた。


「えっ? エドマンド皇子?」


 シャンテルの声に気付いたエドマンドが振り向いて笑みを浮かべた。


「やあ、シャンテル王女」

「どうされたのですか?」


 シャンテルが執務室の方へ歩みを進めながら尋ねると、エドマンドたちもシャンテルの方へ近付いてきた。


「どうされたも何も、俺は貴女専属の護衛騎士ですが?」


 シャンテルは「あっ」と声を漏らす。

 まだエドマンドにどんな形で護衛して貰うか、きちんと決めていない。なんと答えるべきか考える間もなく、面と向かい合ったところで互いに足を止めた。


「中々声がかからないから、こちらから来てしまった」

「申し訳ありません。急だったもので、エドマンド皇子にどんな形で護衛して頂くのが良いか、まだ決めていなかったものですから」


 シャンテルがそう告げると、エドマンドがフッと笑う。


「なんだ。そんなことか」

「え?」


 そんなこと? それなりに大切なことだと思うけれど?


 シャンテルが首をかしげると、エドマンドの代わりに側近のクレイグが口を開く。


「国王陛下からは、朝食後から夕食前までの時間と伺っております。もちろん、エドマンド皇子の公務に支障のない範囲で、という条件付きです」

「そうでしたか。……ですが、夕食前までとなるとかなり長いですよね?」


 シャンテルに関わって、エドマンドが自由に過ごす時間が取れないのは申し訳ない。それに、護衛騎士といっても、シャンテルが書類仕事をこなす間、彼を執務室に招くわけにはいかないのだ。勿論、騎士団の訓練を見せることもできない。となると、待ち時間の方が多そうだ。


「カールもいますし、滞在中は寛いで頂きたいので、午前か午後のどちらかだけで構いませんよ」


 シャンテルは親切のつもりで提案した。だが、エドマンドは「それは却下で」と即座に答える。


「俺はシャンテル王女の護衛騎士だ。デリア帝国の皇子として自国の公務は優先するが、だからと言って妥協するつもりはない。カール殿と同等に扱って貰おう」

「え……?」


 つまり、時間が許す限り護衛騎士として私の傍にいるということ?


「カールと同様にと仰いますが、エドマンド皇子は国賓です。執務室や騎士団の訓練の様子を見せる訳にいきません。昨日は成り行き上、執務室へ入室されたことに目を瞑りましたが、今後は長時間(・・・)、どこかで待機していただくことになると思います」


 シャンテルは“長時間”を強調してエドマンドに伝えた。だが、あっさり「構わない」と答えが返ってくる。


「え……」

「元よりそのつもりだ。別に執務室へ入れずとも、扉の前に立っていればいいだけのこと。他国の関係者であれば、俺がシャンテル王女の執務室の前にいることで近付きにくくなるだろう? こちらとしても王女相手に抜け駆けしようとする奴らへ牽制できる。何より、執務室の前であれば中で何か起こったときすぐ駆けつけることもできるからな」


 どうやら、エドマンドはよく考えてこの結論に至ったようだ。だが、一国の皇子が本当にそんなことをするつもりなのか、信じ難かった。


「ここ、廊下ですよ。……本気、ですか?」

「勿論だ」


 頷いたエドマンドの瞳は一切揺らがなかった。護衛騎士を名乗り出た彼にとって、譲れないことのようだ。


「……分かりました。では、ルベリオ王国の機密に触れない程度でしたら、エドマンド皇子の好きなようになさってください。私はこれから執務室へ籠ります」

「了解した。俺も早速護衛騎士としての初仕事に取りかかろう」


 それを聞いて、気が引けると思いながらもシャンテルは歩きだす。そして廊下にエドマンドとクレイグを残して執務室へ入った。


 シャンテルは執務机に向かいながら、“本人が了承したとはいえ、エドマンドを廊下に何時間も立たせるのはどうかしら?”と考える。だから、カールに頼んで廊下に椅子を運んでもらった。だが、エドマンドは「他の騎士がそうであるように、基本は護衛中に座るつもりはない」と断った。


 シャンテルは執務室へ籠ることも彼に伝えている。それなら、こちらも彼を尊重しようと考えた。

 エドマンドは国王からの提案もあり、夕食の前には護衛騎士の仕事を終える。つまり、遅くまで執務室に籠っても彼をそれに付き合わせる心配がない。だからシャンテルは落ち着いた気持ちで公務に取り掛かる。

 そうして夕陽が室内を照らし始めた頃、ニックが訪ねてきた。


「エドマンド皇子が早速護衛騎士の務めをされていて、驚きました」

「そうなのよ。廊下で待機させるのはどうかと思ったのだけど、エドマンド皇子が譲らなくって」


 答えて、シャンテルは処理を終えた書類を自分と国王の分に整理した状態でニックに手渡す。そして、「こちら追加の書類です」と新たな紙束を受け取る。


 執務室へ入ってから、シャンテルは頭の中でぼんやりエドマンドの護衛騎士としての働き方を考えていた。

 基本的に執務室への入室は認められないため、今日のように部屋の外に立ってもらうことになる。騎士団の訓練中は、使用人にお願いして応接室で待ってもらおうと考えていた。若しくはその時間を彼の自由時間として、有効活用して貰うのも良いだろう。


「そうだ、ニックにお願いがあるの」


 思い出したシャンテルは二通の手紙を取り出す。


「これをジョセフ様に、そしてこちらはセオ国の王子たちに届けて頂戴」


 シャンテルはジョセフが送ってきた手紙の返事と、ロルフとホルストへの手紙をニックに手渡す。


 ここ数日、書類を処理して溜め込んでいた分がようやく減った。だから、今の内に約束の日を決めたいと考えたのだ。

 まだ国王の婚姻に関するものは殆ど手付かずだが、数日前に比べると余裕が出てきたので、そこまで焦ることもないだろう。


「三人からお茶のお誘いを受けているの」

「シャンテル様はジョセフ公子からも誘われておいででしたか」

「えぇ。相手の都合によるけれど、できれば先に手紙を送ってくださっていたジョセフ様を優先したいと考えているわ。ジョセフ様とは庭園の花を鑑賞して、その後お茶を飲みながらお話しする予定よ。日程が決まったら使用人にその準備をお願いしたいわ」


 シャンテルが最初に誘いを受けたのはロルフとホルストだが、ジョセフはその前の晩には従者を通してに手紙を託していた。つまり、行動としては先にジョセフから誘いを受けたことになる。応えるなら、ジョセフの誘いを先に果たすべきと考えてのことだった。


 最近は就寝前以外、殆ど息抜きなく働いているシャンテル。ジョセフと庭園の花を観賞すれば良い気分転換になりそうだと、想像して少し心が安らいだ。


「畏まりました」

「ありがとう。頼んだわ」


 にこりと微笑んだシャンテルに、ニックは恭しく一礼すると執務室を後にする。


 さぁ! 皆さまと交流するためにも、公務を少しでも多く片付けなくちゃ!


 シャンテルは気合を入れ直すと、作業の続きに取り掛かった。

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