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シャンテル王女は見捨てられない〜虐げられてきた頑張り屋王女は婚約者候補たちに求婚される〜  作者: 大月 津美姫
2章

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29 エドマンドとの噂

 エドマンドとの手合わせから一晩経った。

 昨日、シャンテルが三分の一に減らした書類の山は、ニックが新たな書類を持ってきたことで、山の高さは元に戻っていた。ついでに、ニックは進行中の案件や国王の婚姻関連の報告を進めていく。


「それから、大変申し上げにくいのですが……」


 そう前置きして、心苦しそうにニックが話し出す。


「国王陛下から伝言です。数日前から手元に届く書類の決裁期限が極端に短くなっているそうで。“各国の王族が婚約者候補として滞在しているから浮かれているのではないか? 怠けるのは終わりにして、早く書類を回すように”とのことでした」

「……」


 ここ数日、シャンテルは怠けるどころか普段より多忙な日々を送っている。昨日もエドマンドと手合わせしたあとは後れを取り戻そうと、日付が変わる直前まで書類を片付けていた。


 そもそも国王が目を通す書類を振り分けることは、本来シャンテルがやらなくていい仕事だ。勿論、シャンテルの署名を待って国王の元に届けられる書類もあるが。

 文句を言うなら全て自分で確認すればいい。それに、浮かれているのはどちらかと言うと、元愛人と婚姻を控えている国王だろう。


 シャンテルは湧き出る文句をなんとか呑み込む。


「シャンテル王女が休む間も惜しんで公務に取り組まれていることはお伝えしました。ですが、陛下は最近ご自分は“書類を溜めたことがない”と自慢しておられました」

「それはそうでしょうね」


 シャンテルは呆れる。何しろ書類の大半は目を通さなくても振り分けられているため、署名して判を押すだけでいいのだ。内容を読み込んで考えたり、悩んだりする必要が無いのだから当然である。


「好きに言わせておきましょう」

「……ですが、シャンテル様の負担がしております。どうかご無理なさらず、きちんとお食事とお休みはお取り下さい」

「分かったわ」


 シャンテルが苦笑いで頷いたのを確認すると、ニックが「ところで」とニックが話題を変える。


「今朝から城内でシャンテル様とエドマンド皇子が噂になっていることはご存知でしょうか?」


 その問い掛けに、シャンテルは直ぐ返事が出来なかった。ニックの言葉の意味をゆっくり咀嚼したのち、ややあって「……はい?」と、疑問の声を口にする。


「“エドマンド皇子がシャンテル王女の護衛騎士になったらしい”と、城内は大騒ぎです」


 それを聞いてシャンテルはガタッと椅子から立ち上がる。


「その件は手合わせの時、皆様の前でお断りしたわ! どうしてそんな噂が!?」

「真相は分かりかねます。ですが、噂が巡るうちに“そうなった”もしくは、誰かが意図的に“噂を流した”かのどちらかでしょう」


 噂は広まる過程で少しずつ内容が変化してしまうものだ。“エドマンドがシャンテルの護衛騎士に志願した”ことが、いつの間にか“エドマンドがシャンテルの護衛騎士になった”と変化した可能はある。

 あとはエドマンドが連れてきた使用人が、意図的に噂を流した可能性もあるだろうか。


「あとは、密偵の仕業ということも考えられますね」

「密偵? いや、まさか──」


 否定しかけたシャンテルだったが、“無い”と言い切れるだろうか。と考え直す。何しろ、今回エドマンドとクレイグは騎士団の入団試験に潜り込んでみせたのだ。それに、アルツールが密偵の存在を明かしていることもある。


「あり得ない話ではありません。実際、ギルシアの密偵はそれなりに城内に入り込んでいる筈ですから。我が国と関わりが少ないデリア帝国も密偵を送り込んでいる可能は十分考えられます」

「そうね」

「おや? 驚かれないのですか?」

「アルツール王太子殿下が自ら密偵の存在を明かしてきたわ」

「……それはそれで問題ですね」


 呟きながらニックがこめかみを押さえた。そういえば、ギルシアの密偵の件は話していなかった、とシャンテルは思い出す。


「我が国もギルシア王国やセオ国に数名送り込んでいますから、こればかりは仕方ありません」


 呟いてニックは肩を竦めてみせた。とはいえ、国の中枢に簡単に入り込まれるのは防がなくてはならない。


「ニック、お願いがあるの」


 真剣な表情で告げたシャンテルに「何でしょう」とニックも気を引き締める。


「次回の王国騎士団の試験から、受験者の身元確認を強化するわ。エドマンド皇子に身分を偽って、試験を受けられてしまったんだもの。騎士団は密偵に潜り込まれる可能性が高いわ」


 ニックはこくりと頷いた。


「書類作成をお願いできる?」

「畏まりました」


 その時、バタバタと騒々しい足音が聞こえてきた。シャンテルが面倒事の予感を感じた時、勢いよく扉が開けられた。

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婚約解消寸前まで冷えきっていた王太子殿下の様子がおかしいです!

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