27 シャンテルとエドマンドの手合わせ
開始の合図を聞いてもシャンテルとエドマンドはお互い出方を見て、すぐ飛び出すことはない。
「先に攻撃していですよ?」
手合わせが始まった途端、エドマンドから胡散臭い笑みが消えた。声のトーンも素に戻っている。どうやらエドとして振る舞うことを辞めたようだ。
「そちらこそ、遠慮はいりませんよ」
そうは言ったものの、実のところシャンテルはエドマンドの剣を受け切る自信が無かった。いつものように受け流すにしても、それが容易いことではないと試験を見ていて、想像出来たからだ。
「では、遠慮なく」
呟くや否や、エドマンドが地面を蹴る。そして、あっという間にシャンテルとの距離を詰めた。
早い!!
ほとんど反射でシャンテルは剣を持つ手を動かす。真正面から受けては刀身が折れかねないと判断し、即座に攻撃を受け流した。
シャァァァッと金属が擦れる音がして、エドマンドの剣はシャンテルの剣の腹を滑り落ちていく。シャンテルがいつもそうするように、受け流したはずの攻撃は想像以上に重かった。
「っ!!」
これが、エドマンド皇子の剣!!
一瞬の間にシャンテルは敵わないと感じ取る。しかも、エドマンドは手加減している。それが、手合わせしているシャンテルには分かった。
シャンテルは即座に反撃に移る。当たり前だが、攻撃は難なく跳ね返された。顔に出さないように務めるものの、付いていくのに必死だ。それに比べてエドマンドは手合わせを愉しんでいるらしい。好戦的な目をしながら、唇は嬉しそうに弧を描いていた。
それを目にしてシャンテルは背筋がゾクッと震える。相手に殺意はない。だが、本能的に狩りを楽しむ彼の姿に恐怖を覚えた。
「流石シャンテル王女」
呟きながら振りかざされた剣をシャンテルは受ける。
「ぐ……!」
キィンと金属音がして睨み合う両者。シャンテルは必死だが、エドマンドは涼しい顔だ。力を拮抗させた状態でエドマンドが語りかけてくる。
「第二騎士団団長という肩書に恥じぬ努力をしている人の動きだ」
実力も力もこの手合わせを見る者が見れば、エドマンドが格上だと分かるものだった。だが、入団試験を受けたばかりの殆どの者には、二人がいい勝負をしているように見えているのだろう。
先ほどから「アイツ、昨日の試験に居たやつだよな!?」「すげぇ! シャンテル王女と互角にやり合ってる!」などと、囁かれているのが聞こえてくる。
「お褒めいただき、光栄です。エドマンド皇子」
シャンテルはオーディエンスに聞こえるように、態と彼の本当の名を口にした。これは、入団試験を混乱に招いたことに対する、シャンテルなりのささやかな仕返しだった。
「エドマンド皇子?」
「それって、デリア帝国の皇子だよな?」
「何でそんなお方が、ルベリオ王国騎士団の入団試験を受けていたんだ!?」
思惑通り、戸惑う声が聞こえてくる。
オーディエンスの反応を受けたからなのか、再びエドマンドが胡散臭い笑顔を見せる。すると何故か彼の剣から力が抜けた。シャンテルは意図的に作られた隙を疑問に思いながら、力で押す。すると、エドマンドが後ろに下がった。
「素晴らしい剣技ですね。ですが、シャンテル王女は女性です。力では俺に勝てませんよ」
呟き終わると同時に、エドマンドは一気に剣に力を込めた。途端にシャンテルの体制が崩れる。
「あ!」
その隙を狙って、エドマンドが剣先の向きを変えた。急に力の加わる方向が変わったことで、シャンテルの手元から剣が弾かれる。
右方向へ落ちた剣がカランと音を立てた。
「っ!」
……負けた。それも、手加減された上で負けた。
つまりは、シャンテルの実力ではデリア帝国に敵わないことを示している。イドリス団長なら或いは、可能性もあるかもしれない。だが、ルベリオ王国の殆どの騎士はエドマンドに太刀打ち出来ないだろう。
「シャンテル王女」
呟いたエドマンドは剣を収めると、シャンテルの前に立つ。
「ルベリオ王国の騎士団入団試験を受けてみたいという私の願いを叶えてくださり、ありがとございます」
覚えのない約束にシャンテルは「え?」と小さく戸惑いの声を漏らす。
「王女が国の為に強くあろうとする姿に、俺は心を打たれました」
そこまで言うと、エドマンドは跪いてシャンテルの右手を掬う。
「エ、エドマンド皇子!?」
突然の行動にその場にどよめきが走る。
「つきましては、私がルベリオ王国に滞在している間、私をシャンテル王女の護衛騎士にしていただけませんか?」
「なっ!?」
驚きでシャンテルは開いた口が塞がらない。
『私とクレイグの不合格を他の受験者に納得してもらえるよう取り計ってみせましょう』
あの言葉の意味は、こういうことだったの? それに、エドマンド皇子は面接でも私の護衛騎士を志願していたわ。これは偶然?
ざわつく周囲の様子が目に入らないほど混乱した頭で、シャンテルはエドマンドを見た。
そこには物事が思い通りに運んで、満足そうに笑みを浮かべる彼の姿があった。




