26 入団試験の合否会議
王国騎士団入団試験の翌日。今日は早くも昨日の試験の合格発表が行われる日だった。だが、その前に王城の訓練所では手合わせの準備が行われていた。
訓練用の剣を手に、シャンテルはエドマンドと向かい合う。
まさか、エドマンド皇子と手合わせすることになるなんて……
シャンテルは、昨日受験者との面接を追えた後のことを振り返る。それは、各団の団長と副団長で入団試験の合否と合格者の振り分けについて会議していた時のことだ。
『シャンテル王女、ジョアンヌ王女、エドは第一騎士団に入団させたいと考えます。国王陛下や妃殿下を御守りする剣として、ぜひ彼の力を発揮してもらいたい!』
『駄目よ。エドは第二騎士団に入れます』
イドリスがお伺いを立てると、すかさずジョアンヌがそれを跳ね除けた。二人はエドの正体に気付いていないらしい。
『エドったら、とっても腕が立つのに控え目なんですの。わたくしが第二騎士団に入るよう言ったら、“私ではジョアンヌ団長殿の期待には応えられません”なんて言うのよ。今季一番の実力者なのに。きっと自分に厳しいのね』
ジョアンヌがうっとりした溜め息をこぼした。だが、シャンテルはキッパリと告げる。
『エドを合格にはできません』
全員が驚いた顔でシャンテルを見た。ジョアンヌが勢いよく椅子から立ち上がる。
『なっ!? どうして!?』
『どうしてもです。それから、クレイグも合格に出来ません』
『クレイグといえば、彼もかなり優秀でしたね。にも拘らず、二人を合格に出来ない理由は何です?』
イドリスが落ち着きを取り戻した声で疑問をぶつける。
『エドがエドマンド皇子でクレイグが彼の従者だからです』
その一言で部屋の中が静まり返る。シャンテルとカール以外全員が一瞬言葉を失った。
『……エドが、……エドマンド皇子ですって?』
ジョアンヌが動揺から視線を泳がせる。エドマンドとエドを思い浮かべて、同一人物かどうか脳内で比べているのだろう。イドリスは第一騎士団の副団長と共に顔を青ざめさせていた。
『ですから、エドとクレイグを合格にできません。お分かり頂けましたか?』
『し、しかし! 誰から見ても優秀だった二人! 特にエドを不合格とするのは、不自然ではありませんか?』
第三騎士団副団長が恐る恐る発言する。
彼が言う通り、事情を知らない者から見れば不自然だ。彼らは一般参の試験から今回の入団試験を受けている。“庶民は実力があっても、何らかの理由で落とされる”と、誤解を生んでしまう可能が非常に高い。
ヘナヘナと椅子に座り込むジョアンヌ。みな一様にどうすべきか、頭を悩ませていた。
その時、会議室の外が騒がしくなる。少ししてエドマンドの訪問が知らされた。
『皆さんが我々のことでお困りかと思い、押し掛けてしまいました』
部屋に入るなり、胡散臭い笑顔でそう告げたエドマンド。
そう思うなら、最初から入団試験に参加しないでほしかった。と、その場にいた全員が思ったことだろう。
『私とクレイグは不合格で構いません。その代わり、お願いがあるのです』
それからエドマンドは怪しげに口の端を持ち上げると、“お願い”を語り始めた。
『私にシャンテル王女と手合わせをさせていただけませんか? そうすれば、私とクレイグの不合格を他の受験者に納得してもらえるよう取り計ってみせましょう』
「……」
思考を現在に戻したシャンテルは演習場に立ち、目の前の人物を見据えて、夜会の日のことを思い出す。
『剣術の件は数日待てば直に分かる』
あれは、入団試験を受けたことだったの? それとも今日の手合わせのこと?
だが、一般の入団試験は三週間前に行われた。つまり、エドマンドは三週間前にルベリオ王国で試験を受けていたことになる。
国境ではデリア帝国の皇家の紋章が入った馬車が、夜会の十日前に通過したことを確認している。
密かにルベリオ王国へ前乗りしていたエドマンド皇子が、何処かで皇家の馬車に戻ったということ?
普通なら考えられないことだ。だが、入団試験に参加するには、それしか方法がない。
シャンテルとエドマンドの手合わせは、昨日突然決まった。にも拘らず、周囲には手合わせを見守る受験者や騎士、使用人たちが多数見受けられる。
恐らく、エドマンドが従者のクレイグたちに根回しさせたのだろう。まだ合格発表まで時間があるというのに訓練所は賑わっていた。
しかも、その中にはアルツールやジョセフ、ロルフとホルストまでいて、四ヶ国の国賓が揃っていた。
騎士団の訓練中以外は、貴賓に訓練所の立ち入りを禁じている訳ではい。それに、申し出ればかれらも訓練所で鍛練することが可能だ。だが、訓練所でここまで多くの王族が揃うのは、希なことだ。
少々大きな騒ぎになってしまったらしい。離れた場所にはジョアンヌだけでなく、バーバラの姿もある。シャンテルたちの手合わせを見届けるつもりのようだ。
カールが緊張した面持ちで演習場を見つめ、両者の準備が整ったことを確認する。
「それでは始めっ!!」




