25 騎士団入団試験に、まさかの受験者
ルベリオ王国騎士団入団試験当日。シャンテルは目の前で胡散臭い笑みを浮かべる人物に顔をひきつらせていた。
時は少し遡る。
シャンテルが会場入りする前に終了した筆記試験で、首席を取った受験者が話題になっていた。
実技試験を前に解放していた訓練所の一角。そこで首席を取った青年が肩慣らしする姿が、更に話題を呼んだ。
「シャンテル王女! 彼は逸材です!!」
国王から第一騎士団団長を任されているイドリスが、嬉々とした声で報告してきた。一緒に彼を見たという第一騎士団の副団長を始め、試験の為に集まった騎士の殆どが口を揃えて青年を褒めている。
ひとまず、シャンテルは実技試験前に全員分の筆記試験の答案用紙と受験者リストに目を通す。
王国騎士団の試験を受ける方法は大きく三つある。一つ目はニ週間前に行われた一般の一次試験に合格すること。二つ目は民間の騎士団で団長やその運営者から、推薦をもらうことだ。一般市民でも、どちらかの条件を満たせば、王国騎士団の試験を受けられる。だが、どちらも狭き門だ。
そして、最後の三つ目は貴族の募集枠。こちらは貴族家出身であれば誰でも参加できる。つまり、貴族は大した実力が無くても騎士になれてしまうのだ。勿論、その中には真面目に鍛練を行い、騎士を目指す強者もいる。だが、一部“楽して騎士になれる”と思い込んでいる人が一定数いる。そういった人物を試験で粗方弾き、厳しい訓練で更につまみ出すのだ。
一般参加者の定員は貴族枠に比べて僅かのため、ある程度実力を持っていても受かりにくい。しかしその分、多くの貴族出身者より実力があった。そして、話題の彼は一般の試験でもトップの成績を残してここまで来たという。
ルベリオ王国にとんでもない逸材がいたのね。試験の様子を見るまでは何とも言えないけれど、是非王国騎士団に欲しいわ!
シャンテルがそう期待していたのが一時間ほど前だ。そして実技試験を終えた今、シャンテルは受験者一人ひとりと面談している。これは第一〜第三騎士団の団長と副団長とで、ニ対一で向かい合って話をする。所謂、面接だ。
この面接の目的は合否判断の材料になる他、合格したあと何処の騎士団に所属したいか希望の聞き取りを兼ねている。団長や副団長として、誰をどの団に入れるかを見極める場でもあった。
だが、その大切な場でシャンテルは頭を抱えたくなった。
シャンテルは実技試験中に受験者の所作や動き、背格好から顔の表情まで観察しているうちに、とんでもないことに気付いた。そして今、目の前でその顔を間近で確認して確信する。
「……何故エドマンド皇子がルベリオ王国騎士団の試験を受けていらっしゃるのです?」
シャンテルはなるべく平常心を心がけ、顔のひきつりを誤魔化すように笑顔で問いかけた。隣でカールが「えぇ!?」と、驚愕している。
「第二騎士団団長殿、誰かと勘違いされているようです。私はエド・キャンベル・ブレスド。しがない大商人の次男坊です。皇子なんてとんでもない」
そう語る目の前の人物は、相変わらず胡散臭い笑顔を向けてくる。
確かに見た目はエドマンドとは少し違う。服装は勿論、髪も黒髪ではなく茶髪だ。だけど、アメジストのような紫色の瞳や肌の色はエドマンドと同じだった。声や話し方は少し意識して変えているようだが、よく聞けばエドマンドに似ている。恐らく髪型や髪色が違うのは、ウィッグを着用しているのだろう。
それにしても、エドか……
エドマンドとエド。自分の名前の一部を偽名に使うなんて、エドマンドにしては少々分かりやすい嘘に思えた。
「……エドマンド皇子の前に面接をした人物がいます」
告げながらシャンテルは手元の資料を確認する。
「クレイグ・アトキン・スミス。彼は貴方の従者ですね?」
「付き人です。父が心配性で一緒に入団試験を受けることになりました」
クレイグのこともシャンテルは見覚えがあった。
エドマンドとお茶をした日、後ろに控えている姿を薄っすらと覚えている程度ではあった。だが、面接時に「一度お会いしましたよね?」と問い詰めると、クレイグはあからさまに目を逸らした。これは肯定と見て間違いない。
「エドマンド皇子、何故こんなことを?」
「団長殿。先程も申し上げましたが、私はエドマンド皇子ではなく、“エド”です」
彼はあくまでも皇子ではなく、ただの“エド”を押し通すようだ。
「では、エドにお聞きします。どうしてルベリオ王国騎士団の入団試験を受けたのですか?」
「それは勿論、剣術が好きだからです」
そこはエドマンド皇子と一致しているのね。
小さく息を吐いて、シャンテルは殆ど決まり文句である面接の質問をエドにぶつけていく。
「最後に、入団を希望する団はありますか?」
「はい。第二騎士団を希望します」
そこまで言うと、エドがシャンテルの手を取って握る。ビクッと驚くシャンテルに構わず、エドはこう続けた。
「何しろ、私は麗しい姫君であるシャンテル王女の騎士団に憧れて今回の試験に挑みましたので!」
「っ! ちょっと!」
直に手を握るこの行動はやはりエドマンドそのものだ。顔を赤くするシャンテルの反応をエドが面白そうに見つめる。
「エド、離しなさい! シャンテル王女に無礼です」
横からカールが注意する。エドマンドが“エド”と名乗ることに拘った状況を逆手に取ったようだ。
エドマンドはデリア帝国の第二皇子だが、エドは“しがない大商人の次男坊”だと言い張るのだから仕方ない。
少し緊張した面持ちのカールは視線を逸らすことなくエドマンドに睨みをきかせる。
「これはこれは! 失礼しました」
パッとシャンテルから手を離したエド。
「団長殿にはとてもガードの堅い護衛騎士がついているようですね」
微笑むと、エドがカールを見る。
「しかし、副団長と護衛騎士の兼任は大変でしょう。私が第二騎士団に入団したら、副団長殿のお仕事を軽くして差し上げます」
「それはどういう意味だ?」
カールが眉を潜める。すると、エドは肩を竦めた。
「私にシャンテル王女の護衛騎の任務を与えて欲しい、と言うことです」
「はい?」
シャンテルからマヌケな声が漏れる。“エド”と偽名を使用しているとはいえ、他国の皇子にそんなことさせられる訳が無い。
「どうか、私にシャンテル王女の護衛騎士の栄誉をいただけませんか?」
そう言うエドは、やはり胡散臭い笑顔を向けてくる。シャンテルは彼が何を考えているのか、全く見当が付かなかった。




