24 許せないこと
「っ、その行動で! ルベリオ王国の国民がどれほど怖い思いをしたか! 分かりますか!?」
シャンテルは感情的になって、大声で問い詰める。だが、アルツールは表情も顔色も全くを変えなかった。
「シャンテルを誘い出して、ギルシア王国に連れて帰るのが目的だった。少々手荒だったことは認めるが、お前を救うためだ」
「もう二度とあんなことしないでください!!」
「そう怒るな。この国はお前を苦しめているんだ。国民を傷付けた訳でもないのだから、これぐらい当然の報いだ」
「ルベリオ王国は私の大切な母国です! 争いを生む行いをなさるのなら、たとえアルツール王太子殿下でも許しません!!」
シャンテルはアルツールをキッと睨み付ける。
本当は、シャンテルはアルツールが怖かった。シャンテルの発言や態度次第で、ギルシア王国を再び敵に回してしまう恐れがあるからだ。だが、それ以上にルベリオ王国の国民を何度も怖がらせた行為が許せなかった。
「悪いが約束は出来ない」
冷たい声にシャンテルは息を飲む。
「お前がギルシア王国に戻れば、国王陛下はルベリオ王国に進軍するだろう」
「なっ!?」
やっぱり! とシャンテルは確信する。
「そんなことを聞かされたら、尚更私はギルシア王国には行きません!」
シャンテルはアルツールから離れるため、ぐっと彼の胸を押し返す。すると、彼はは案外あっさりシャンテルを離した。そのまま数歩下がって、彼と距離を取る。だが、氷のように冷たい眼差しは逸らされることなく、シャンテルを見下ろし続けていた。
「お前が拒否しても、いずれギルシア王国はルベリオ王国に進軍する。力ずくでお前を取り返す為にな」
「どうして私に拘るのですか!」
「お前がギルシア王国王家の血を引く家族りだからだ。ギルシア王国は家族を大切にする。だが、ルベリオ王国はお前を大切にしていない。だからルベリオ王国に攻め入る。それだけだ」
シャンテルは言い返せなかった。アルツールの言う通り、シャンテルは家族に大切にされているとは言えないからだ。
「だからって! ルベリオ王国の人々を傷付けて良い訳ではありません!!」
「それが戦争だ」
「!」
冷たい声色がシャンテルに現実を叩きつける。
「誰も傷付かない争いなど存在しない。ルベリオ王国第二騎士団の団長であるお前なら、分かるだろう?」
アルツールはシャンテルの痛いところを突いてくる。それはきっと、彼自身が身を以て戦争を体験しているからだろう。
最近のルベリオ王国はギルシア王国との小競り合いはあっても、その他は至って平和だ。
シャンテルは小さな争いは知っているが、大きな戦争は知らない。だが、その小さな争いですら怪我人が出る。場合によっては死者も出るのだ。
「ギルシア王国が勝てば、ルベリオ王国はギルシア王国の国土になる。その時はルベリオ国民をギルシア国民として受け入れ、大切にすると約束する。戦争で荒れた土地を耕して畑を作り、壊れた家や建物を修復する。家族を失った者には支援を施す。それがギルシア王国だ。勿論、ルベリオの王家が早々に降伏し、戦争をせずに済むのであれば、それに越したことはないがな」
シャンテルは自身の騎士服の裾を強く握る。黙り込むシャンテルにアルツールは思い付いたように付け足した。
「まぁそうだな。お前が俺とギルシア王国に帰って国王陛下にルベリオ王国に攻め込まないよう頼めば、お前の望む争いのない解決も可能だろう。その時は俺も一緒に頼んでやってもいい。何より、可愛い孫たちの頼みだ。おばあ様が味方してくれるだろう」
「そんなこと言われても、ギルシア王国が攻めて来ない保証は何処にもありません」
シャンテルの言葉にアルツールは息を吐く。
「俺が一緒に頼んでやると言っている。それで十分だろう」
「いいえ。不確かな約束を信じて貴方に着いて行くなんて、危険すぎるわ」
シャンテルが答えると、アルツールが煩わしそうに口を開く。
「まだ時間はある。自ら俺の妻になってルベリオ国民を守るか、力ずくでギルシア王国に連れ戻されて俺の妻になるか。よく考えておけ」
そう言い残すと、アルツールはシャンテルに背を向けて、来た廊下を戻って行く。
「殿下、もうよろしいのですか?」
アルツールの従者が追いかけながら尋ねると「あぁ」と、返事が返ってくる。
「今日はこれ以上アイツと話しても、意味がない」
遠ざかっていくアルツールの背中を眺めながらシャンテルは思う。
どうして最終的に私が貴方の妻になること前提なの!?
シャンテルは気持ちを落ち着かせるため、一度深呼吸して込み上げてくる感情を押さえ込む。
「……カール、私たちも行くわよ」
シャンテルは訓練所を目指して再び歩きだした。ただ見ていることしか出来なかったカールは「はい」と返事して、シャンテルの後ろを気まずそうに着いて行った。




