19 皇子様が花嫁に求めるもの
「違う? 何が違うのです?」
「言わなかったか? 俺は花嫁を探していると。そして、シャンテル王女に婚約を申し込みたいと」
それを聞いて、シャンテルはお茶会でのやり取りと、先ほどのホールでの出来事を思い出す。確かにエドマンドは『花嫁を探していますので』と言っていた。
「だから、王配の座が欲しいということですよね? その、……デリア帝国がルベリオ王国を手に入れるために」
デリア帝国の第二皇子がルベリオ王国の王配になれば、実質、ルベリオ王国はデリア帝国の傘下も同然だ。
シャンテルは意を決して、踏み込んだ言葉を付け足した。それなのに、エドマンドは可笑しそうに「はははっ!」と笑う。
「まぁ、確かにな。シャンテル王女も知っての通り、俺は第二皇子で帝国は皇太子の兄上が継ぐ予定になっている。従って、俺は皇帝や皇后から『好きにしろ』と言われていてな? だから花嫁は自分で探すことにしたんだ。つまり、俺の花嫁探しにデリア帝国は関係ない。ここまでは分かるか?」
エドマンドの問い掛けにシャンテルは、「は、はい……」と気の抜けた声で頷く。
「俺が花嫁に求める条件は三つ。一つ、俺に媚を売らず、堂々と会話ができること。二つ、剣術で俺の相手が出来ること。そして最後の三つ、俺が退屈しないように愉しませてくれることだ」
告げられた、三つの条件にシャンテルは瞬きを繰り返す。
「……どの条件にも私は該当しないと思うのですが?」
「何を言う? 全て当てはまっている。シャンテル王女は俺と堂々と会話出来ているし、剣術も出来る。おまけに見ていて面白い」
私が見ていて面白い? どこがです!?
エドマンドから繰り出される言葉にシャンテルは顔を引きつらせる。
「ご、御冗談を。私は最初からエドマンド皇子と会話する時は堂々と、どころか必死です。面白いかに関しては基準が分かりませんが、剣術は皇子と手合わせしたことがありませんので、相手になるか分かりません。ですが、少なくともエドマンド皇子の方がお強いと思います」
シャンテルは思っていることをなるべく失礼が無いように並べた。すると、エドマンドが「確かに、剣術に関してはそうだな」と頷く。
「ですから、私はエドマンド皇子の求める花嫁の条件に当てはまりません。よって、私は皇子の花嫁になれません。お分かり頂けましたか?」
これでどうかしら? と言うように尋ねるシャンテル。だが、エドマンドは即座に首を横に振る。
「いいや? 全く」
「えっ? 何故??」
きちんと理由を伝えたのに、エドマンドに全く伝わっていない。その事実にシャンテルは心が折れそうになる。
「だが、貴女に遠回しな言い方が通用しないことは今のでよく分かった」
「え?」
今の会話の何処に遠回しな言い方が?
シャンテルはそう考えて、あぁ、見返りに関することかしら? と一人で納得する。
「シャンテル王女」
突然、顔を近づけてきたエドマンドに、シャンテルは声を上ずらせて「はい」と返事した。
「俺が見返りに求めるのは、シャンテル王女の夫の座だ」
「へ……」
私の夫の座?
シャンテルの真っ白になった頭に、その言葉が何度も駆け回った。そんな彼女の頬をエドマンドの人差し指がサッと撫でる。
「っ!? な、何を!?」
シャンテルは撫でられた頬を反射的に押さえた。
「頬の傷は治ったか?」
「!」
エドマンドが撫でた場所には、以前バーバラに扇子で打たれた傷があった。エドマンドとお茶会をした時はまだ傷が残っていたから、目立たないように化粧で隠していた。にも拘らず、エドマンドは傷があることを知っていた。どうやら気付いていたらしい。
この皇子、どこまで鋭いの!?
シャンテルが返事出来ずにいると、まぁいいと言わんばかりにエドマンドが肩を竦める。
「剣術の件は数日待てば直に分かる」
告げたエドマンドはバルコニーの手摺りから手を離すと、ようやくシャンテルから離れた。
「随分混乱しているようだから、今日はこれで失礼するよ。女王にするための手助けの件は考えておいてくれると嬉しい」
その言葉にシャンテルは頷くことが出来なかった。だが、エドマンドはそれを肯定と受け取ったのか、身を翻して去っていく。
シャンテルは暫くバルコニーから動けなかったかった。




