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邪神ちゃんと厨二くん

作者: 金林檎
掲載日:2025/12/31

ちょっと息抜きの短編です。

皆様の暇つぶしに役立てば幸いです。

 カーテンを閉め切った薄暗い部屋の中で、並べられたロウソクにマッチで火を付けながらほくそ笑んむ一人の少年が居た。


「会心の出来だ。クソかっけぇ」


 少年の目の前には、まるで血で書かれた様な真っ赤な色の魔法陣が床一面に描かれており、その中央には一匹の黒猫の姿が、少年はその光景に満足した様に深く頷くと魔法陣に両手をかざし呪文を唱える。


「〚深淵より這い出し混沌の化身、祖は破滅を招き入れる者。終焉が訪れ、生きとし生きる者全ての命をこの地上から絶つ為に、それは現れる〛我が前に現れよ〝邪龍ファフニール〟!!」


 少年の呼び掛けに血塗られた魔法陣が()()()()()()()()、ただ静寂だけがこの部屋を支配した。


「フッ、決まったぜ」


「ナァ〜」


 決めポーズを取り悦に浸る少年の前で黒猫が大きく欠伸あくびし、魔法陣の中心で丸まりお昼寝を開始してしまう。


「あっ!チョロそんな所で寝るなよな!せっかく書いたカッチョいい魔法陣が消えちまうだろ!」


 そう薄々お気付きではある様だが、此処は魔法使いが登場するファンタジー世界でも無ければ、魔術師や超能力者が活躍するSF世界でも無い、ごくごく普通のノンファンタジーな現実的世界である。

 さて、ではこの少年はいったい何をしているのかと言うと、それは彼の患った不治の病が起こした突発的行動、多くの思春期が経験する黒歴史量産型病、とどのつまり〝厨二病〟が原因なのだ。

 昨夜見たライトノベル原作の深夜アニメ〝君だけのドラゴン〟に感銘を受けた少年はさっそく自分の妄想に新たな一ページを刻み、自分がドラゴンサモナーであると強く信じ込みドラゴン召喚を決行。

 生贄の生き血(赤色の絵の具)で魔法陣(意味の無い落書き)を描き、不吉な象徴の黒猫(飼い猫のチョロ)を媒体として魔術詠唱(自分で考えた)を唱え、最強のドラゴン(自分で考えた設定)である〝邪龍ファフニール〟の召喚を試みたのである。

 当然〝邪龍ファフニール〟など現れる事は無く、部屋の中には妄想の中でカッチョいいドラゴンにかしずかれる自分を想像し悦に浸る少年と、彼の描いた魔法陣(落書き)の上でお昼寝をする飼い猫のチョロだけであった。


「ふふふ、これで俺もドラゴンサモナー。二つ名は何が良いかな?【黒龍支配者ブラックドラゴンドミネーター】?いやいや【永遠氷龍エターナルブリザードドラゴン】も捨て難い」


 少年がそれはもう、十年後に悶絶必須な痛〜い事を考えて居ると、飼い猫のチョロがテシテシと魔法陣(落書き)を叩き鳴き声をを上げた。


「ナァ〜、ナァ〜ウ」


「もう!やめろってチョロ!これ描くのに三日も掛かったんだぞ!?あ〜もう中心の悪魔紋(一昨日決めた名称)が掠れちゃたじゃん!」


 使い魔(飼い猫)に自らの描いた作品を壊され欠けた少年は、慌ててチョロを抱きかかえ魔法陣から飼い猫を遠ざけ様とした次の瞬間、摩訶不思議な事が起こった。


「ナァ〜ウ」


「…………は?」


 チョロを抱き上げた直後、落書きである筈の魔法陣が輝きだしたのである。

 少年は突然始まった目の前の非現実的な光景に一瞬呆気に取られ呆然としてしまう。

 魔法陣の中からバチッと紫色の電気が流れ、続いて真っ赤な煙がモクモクと立ち上がる。

 まるで邪悪な何かが少年の描いた魔法陣から這い出て来る様なそんな不吉な気配を少年は感じた。


「(あ、気配を感じるとかカッチョいいな?やっべ声に出そ)フッ、邪悪な気配を感じる(シャア!決まったぁ!!一度言ってみたかったんだよなぁ!!)」


 何度でも言うがこの世界は魔法も無ければ超能力も無いノンファンタジーな現実的世界。

 そして若干テンションの可怪しくなっている少年は、実は陰陽師の家系だったとか突然超能力に目覚めたミュータントとか、ましてや異世界出身の魔法使いでは無い、単なる厨二病を拗らせたちょっとコミュ症のオタク系中学二年生である。

 そう間違ってもこの様なオカルトチュクな現象起きよう筈が無いのだ。


『ほう、我の気配を感じ取ったか人間』


 しかし()()()()()()、この世界で西暦以降起こり得る筈のない()()()()()()()()()()()


 ある程度裕福な少年の実家は、豪邸とまではいかないが一般的な民家よりも遥かに広い。

 当然少年の部屋も一人部屋とは思えない程広いのだが、魔法陣より現れた()()は部屋全体にその身を詰まらせる程に巨体で天井から少年を見下ろす。

 そして正体不明の存在は愉快そうにクツクツと笑うと少年に向けて口を開く。


『クックックック、我を呼び我を求め、邪神・・たる我を召喚せしめし召喚者よ、その前人未到の大偉業を讃え、貴様の魂を対価にどの様な願いを叶えてやろう』


 傲慢な態度で少年に話しかける邪神・・に、少年はとてもいい笑顔で応えた。


「う〜ん、チェンジで」


「えぇぇ〜!?なんでぇぇ〜!!?」


 即答、圧倒的即答。少年の先程の爆上げしたテンションはどこえやら、冷めた目で邪神を見詰める。

 どうやら目の前の邪神さまは現在〝君だけのドラゴン〟にどハマリしている厨二くんの涙腺には触れなかったらしい。

 厨二くんの予想外の反応に邪神が驚愕すると、突然ボフンッと音を立て少年の部屋にギチギチに詰まっていた邪神の巨体が消えた。


「な、なんだなん何だ!?一体何が起きたのだ!!?我の身体が縮んでしまった!!?馬鹿な我の身体は魔力により維持されているのだぞ!?大気中の魔力を常に補給すればこんな事にはならない筈…………ん?待て、待て待て待て。無いぞ、魔力が無い!!嘘でしょ!!?」


 邪神が消え、邪神が座っていた魔法陣の上には()()()()()()()姿()()()()()


「何だ此処は!!?魔力が無いなど有り得ぬ!!おい小僧此処は何処なのだ!!?」


 謎の美少女は少年に駆け寄り厨二くんの胸ぐらを掴むと、ズイッと顔を近づけ詰め寄った。

 厨二くんは鼻と鼻が触れる程近くに在る美少女の顔にドギマギしつつも、プイッと顔を背けボソボソと口を動かす。


「……………………だ、誰だよ君?」


 悲しいかな思春期コミュ症の厨二くんは女の子への耐性など皆無であった。

 どちらかと言えば先程の恐るべき邪神相手の方がまともに話せたぐらいである。


「はぁぁ!!?我だよ!!貴様が呼び出した邪神・・だよ!!」


「……………………チェンジで」


「だから何でそんな意地悪言うのぉぉ!!?びえぇぇん!!」


 邪神は魔力の無い場所に混乱していた頭に、突如として受けた侮辱に心が折れ泣いた。圧倒的ギャン泣きである。


「えぇ、だって俺はドラゴンを呼んだんだよ?〝邪龍ファフニール〟をさ。邪神は何か違うかなって、だからさ間違って呼んでしまったのは悪かったは思うけど、チェンジで」


 しかし言え見た目美少女が目の前でギャン泣きしているのに、その正体が分かった瞬間急に強気になる厨二くんの肝はどうなっているのか。


「ま、間違えた!?間違えて召喚したと言うのか邪神たるこの我を!!?しかもドラゴンだと!?あんなデカいだけのトカゲと代われと言うのか!!?く、屈辱なのだぁ!!」


「はぁ!!?何お前ドラゴン馬鹿にしてんの!?ぶっ殺すぞ!!?」


「びえぇぇぇぇん!!我の方が凄いもん!格上だもん!我でいいじゃん!!意地悪言わないで我と契約してよぉぉ!!」


「だから俺はドラゴンがいいって言ってるでしょ!?良いから帰れ!!」


「い〜や〜な〜の〜だ〜!!一万年振りの現世なのだぞ!!?もう外世界は飽きたのだ〜!!この際使い魔でも良いから!10/0契約で良いから!下僕でも良いからさぁ〜!!ボッチはもう嫌なのだ〜!!」


「じゃあドラゴンになれよ!邪神なんだからそんぐらい出来るだろ!?」


「だから何でドラゴンなのだ!?ドラゴンの何処がいいのだ!!?そのドラゴンへのこだわりは何なのだぁ!!?」


「チッ!しゃあねぇなぁ、ちょと来い!!」


「ぴゃ!?きゅ、急に腕を掴むでない。は、破廉恥な、一体何なのだ?」


「教えてやるんだよドラゴンの素晴らしさを!!見せてやるぜ、神アニメ〝君だけのドラゴン〟をなぁ!!」


「か、神?あにめ?キミダケノドラゴン?あ、あ〜!?これ引っ張っるな!?歩く!自分で歩くからぁ!?」


 邪神ちゃんはそのままズルズルと厨二くんに引きずられリビングへと連れて行かれた。

 そこで邪神ちゃんは生まれて初めての衝撃を受けることとなる。

 押し寄せてくる怒涛どとうの数時間、ワンクール十二話を視聴し終え、気付くと其処には頰を赤らめ呆ける邪神ちゃんの姿があった。


「〝君だけのドラゴン〟マジ尊いのだ。神アニメなのだ。マジパネェのだ」


 厨二くんの布教、圧倒的完了である。


「フッ、だろ?」


「我もドラゴンサモナーになるのだ」


「分かり味が深すぎる」


「クッ!なぜ我は外世界からドラゴンの一匹も連れて来なかったのか!悔しいのだ!!我もセイント・ドラゴン達と絆を深めたい!!友情・努力・勝利!!最高なのだ!!」


「どんまい、まぁあれだ二期も観る?」


「続きあるの!!?観りゅうぅぅ!!」


 オタク系邪神、誕生の瞬間であった。



 これはちょっと痛い厨二病の少年とその少年に召喚されてしまった邪神のまったりオタクスローライフ物語である。


最後まで読んでいただき有り難う御座います。

もし良ければブックマーク登録してくれたら嬉しです。

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