八重と凪②
(凪)
ここですか、お姉様。
(八重)
そうよ、正面から堂々と入って行くのはリスキーすぎる。
窓から侵入する方が安全だと思うわ。
八重が忍び込む準備をする。
(凪)
いや、堂々と行きましょう。
頼もう!!
(八重)
ちょっと、何言い出すの。
目を白黒させながら、八重は急いでやめさせる。
(凪)
面倒じゃないですか。
って言うか、一回殺すじゃないですか。
サクッと殺っちゃいましょう、お姉様
(八重)
あなた、やっぱりまだ修行不足ね……
八重はやれやれといった様子で嘆息し、ため息をついた。
(凪)
さて、殺るぞ!出てこい将軍!
(八重)
ちょっと待ちなさいって!
八重は叫ぶが、既に凪は居なかった。
それどころか八重の身体まで引きずられていく。
(八重)
なんで!ちょっと待ちなさい!アンタ魔法で引きずるのをやめなさい!
(凪)
あはは、お姉様早く、早くぅ〜!
(八重)
どうしてこんな事をするの!
ようやく自由になった八重は、怒って凪を睨む。
(凪)
だって、遅いんだもん、お姉様……(上目遣い)
(八重)
あなたに遅いと言われたくないわよ!
ムッとして言い返す八重。
しかし、いきなり将軍の部屋に到着してしまった。
(凪)
将軍の部屋だ!オラッ将軍!ツラ出せや!(笑)
(八重)
待ちなさい!私の言う事を聞きなさい!
必死に叫ぶ八重だが、既に扉は開け放たれていた。
(老将軍)
何者だ!
老将軍は大きな声で叫んだが、魔法で捕縛され、動けなかった。
(凪)
一回死んで。
話はそれから、ねっ♡
(八重)
待ちなさい、待ちなさいって!
八重は何度も叫ぶが、何もできなかった。
凪は魔法をぶっ放し、一瞬で老将軍を屠ったからだ。
絶句した八重は、その場で見ているしかなかった。
(八重)
サクッとってねぇ〜(ため息)
八重の見ている前で凪は老将軍の死体に近づき、血塗れの首をひょいと持ち上げた凪。
(凪)
さてと、収納、収納っと。
【ストレージ】
(八重)
何に使うの?それ……
八重は目を大きく見開き、言葉を失う。
(凪)
持ち帰って尋問ですよ。
頭さえあればできますから、身体は不要です。
魔法って便利♪
(八重)
何言い出すの……
それより次はどうするの?
八重はため息を漏らし、それから天井を見上げて呆れる。
(凪)
さあ?どうしましょ(笑)
(八重)
笑ってる場合じゃないわよ!
このままここに居ては警備に見つかるわ。
早く逃げ出しましょう。
今度はちゃんと空から遠くまで移動するのよ。
(凪)
はい、お姉様。
【インビシブル】
【フライ】
(八重)
ちゃんと隠蔽魔法と飛翔魔法をかけなさいよ。
凪達は再び空高く飛翔し始め、辺りが見渡せる高度まで到達する。
(凪)
じゃ、村まで一気に行きましょう。
しっかり捕まっててくださいね、お姉様。
(八重)
お願い。
八重は凪の身体をしっかり抱きしめ、目を閉じて凪に身を委ねる。
猛スピードで飛行する凪。
あっという間に村に到着する。
(凪)
着きました、お姉様。
(八重)
もう着いたの!?
八重が目を開けると、いつもの村の風景が眼下に広がっていて、思わず驚く。
(凪)
では、着陸します。
(八重)
ええ。
でも……
八重は地上に降り立つと、全身からふっと力が抜けるのを感じた。
(凪)
ちょっと休みましょう、お姉様。
(八重)
そうね……
八重は頷き、近くの木の幹に背を預け、座り込む。
凪も並んで八重の横に腰を下ろした。
ゆっくり休んで翌日。
(凪)
さてと、生き返ってもらいましょうか、首だけ(ニヤッ)
(八重)
首だけ!?
目を見開き、八重は絶句する。
(凪)
だって、首だけ持ってきたじゃないですか。
それ以外は捨ててきたじゃないですか、お姉様。
(八重)
まぁそういう意味ではないのだけど……
八重はため息を漏らすと、首を振った。
(凪)
どうしました?お姉様。
(八重)
あなたがあまりにも平然としてるところが逆に怖いというか……
八重は困惑するように額を押さえた。
(凪)
いやぁ〜ん♡こんなにか弱いのに(潤んだ目)
(八重)
あのね、あなたのどこがか弱いのよ。
というか、自惚れないで気を引き締めなさい。
八重は凪の肩を掴み、揺さぶる。
(凪)
んにゃ♡わ、分かりました、お姉様。
(八重)
分かればよろしい(ニヤリ)
(凪)
では首よ、生き返ってもらいましょう!
【リボーン】
(八重)
これで良いのかしら(ため息)
八重は生首が跳ね回るのを訝しげに目で追う。
(凪)
おい!大人しくしろ!聞きたい事がある!
(八重)
生首であっても将軍です。
礼儀を忘れてはいけませんよ。
生首がくるぐる回転しているのを見て、八重は眉を寄せ、注意する。
(凪)
お姉様、もうゴミっすよ、コイツ(ニヤッ)
(八重)
あなたねぇ……(ため息)
八重は咎めるような目を向けてから、首を振った。
(凪)
早く尋問しましょう、お姉様。
(八重)
ええ。
でも、この首はまだ生きているわけでしょう?
八重は首を傾げる。
(凪)
はい、生きてます。
ちゃんと喋れますから情報を聞き出せますよ。
(八重)
ではさっさと聞きましょう、我慢できないわ。
八重の表情が険しくなり、声も低くなった。
(凪)
では。
おい!なんで私達を狙う、その理由を言え!(感情の消えた目)
(老将軍の首)
それは……内乱の際にお前達に敗北した反逆者から依頼されたのだ。
老将軍の首は、渋々口を開く。
(凪)
なんで反逆者の依頼を受ける。
私達は"反逆者を討て"と将軍からの命で討伐したじゃないか!
(老将軍の首)
私は……実は反逆者の一人だ。
彼らの野望に同調し、表面上は君主の立場をとっていただけだ。
老将軍の首が告白する。
(凪)
そんな時、どういう顔をしたら良いか、分からないの……
(八重)
おい!
(凪)
いや、真面目にやります。
で、何人が私達を狙ってるの。
(老将軍の首)
現時点では刺客は5人ほどだ。
奴らはいずれも優れた能力の持ち主だ。
その中には、サキュバス族も居る。
先ほど空で会ったのではないか?
老将軍の首が答える。
(凪)
アンタを首だけにして生き返らせた私より優秀だと(冷たい目)
(老将軍の首)
その力量は、間違いなくお前達より遥かに上だ。
くれぐれも気を付けるが良い。
老将軍の首は忠告する。
(凪)
ご忠告、どうも。
(老将軍の首)
忠告などしても無駄かもしれんな。
老将軍の首は自嘲気味に言った。
(凪)
どう思います?お姉様。
(八重)
将軍は嘘をついてはいないようね。
でも、知らない事実があるかもしれないわね。
八重は考え深げに頷いた。
(凪)
魔法で記憶を調べてみましょう。
(八重)
そうね、早速やりましょう。
おそらく反逆者の正体も分かるはずだわ。
八重は頷いた。
(凪)
はい、お姉様。
【リサーチ】
(八重)
どう?新しい事実は分かった?
それとも、この首は知っている事以外は全て喋ったのかしら?
凪の瞳孔は、読み込んだ情報で虚ろになっていた。
(凪)
はぁ……記憶を弄られているというか、消されてますね。
反逆者の顔も姿も出てこない。
でも、この首は本当の事を言ってる。
相手の姿と声だけが消されてるんです、お姉様。
(八重)
声まで消されているという事は……
相手はこちらの情報をよく知っているという事だね。
八重は腕を組みながら、ため息混じりに呟く。
(凪)
そうですね……ここまでは想定内かも。
ただ、念入りに保険をかけただけなら良いけど……
(八重)
どういう事?
(凪)
万が一の場合です。
将軍が寝返ったり、口を割った時に自分達に辿り着かないようにです。
(八重)
なるほどね。
では、どうしようか……
八重は空を見上げ、しばらく眺めた後、口を開いた。
(凪)
そうですね……まずは刺客をどうにかしないと……
(八重)
そうね……
刺客が5人も居るのは問題だわ。
私達でも手こずる相手ね……
八重の顔に緊迫感が戻る。
(凪)
過信はできないけど、ボクがフルパワーで戦えばなんとかなるかも。
今まで実力の1%も出してないですから。
(八重)
フルパワー……
私にさえ教えてくれなかった力を使うつもりなの?
(凪)
出し惜しみをしている場合じゃないですから。
今まで黙っていてごめんなさい、お姉様。
(八重)
いえ、少しでも成長を感じれるなら、これ以上嬉しい事はないわ。
では、これからの展開を見てみよう。
(凪)
はい、お姉様。
(八重)
では、刺客の1人を誘き寄せましょうか。
この生首を道具にして。
誘導魔法を使います。
八重が今後の計画を語る。
(凪)
はい、お姉様。
(八重)
では、やりますね。
成功すれば、刺客はこの村に現れるはずよ。
準備は良い?
八重は凪に確認する。
(凪)
はい、お姉様。
(八重)
では、早速。
【誘導】
老将軍の首を地面に置くと、八重は魔法をかける。
(凪)
やって来ますかね?お姉様。
(八重)
来たわよ。
左側の森に3人、右側の山崩れ跡から2人が接近してくるわ。
八重が目を細めて感知すると、その直後、それぞれの方向から複数の気配を感じる。
(凪)
じゃあ、森側から焼き払いますね。
【煉獄】
(八重)
あなたは森へ向かいなさい。
私は2人の対処をします。
その後で合流しましょう。
頷き合うとともに、2人は別々の方向へ散って行った。
森側を確認する凪。
(凪)
よし、しっかり消し炭だ、魔法探知でようやく分かるぐらいだしね。
(八重)
こっちも倒したわ。
流石に強かったわ。
凪は八重と合流し、村外れの小高い丘に移動しながら報告しあう。
(凪)
ごめんなさいお姉様。
魔法一発、消し炭で塵も残しませんでした(テヘッ)
(八重)
本当に最短で終わらせるのね……
八重は苦笑しながらため息をついた。
(凪)
これからどうします?お姉様。
(八重)
あの老将軍の首は、もう用済みだから、処分するのも良いだろうね。
それに残りの刺客も警戒する必要があるわ。
早急に王都に戻る必要があるわね。
八重の声は穏やかだが、そこに込められた断固たる決心を物語っていた。
(凪)
あのう……将軍は討ちましたよ?
あれ以外居ないじゃないですか。
(八重)
彼は最後まで自分の罪を認めなかった。
(凪)
という事は、反逆者の炙り出しと刺客の討伐ですね。
(八重)
では、残りの刺客と反逆者の正体を暴いて、この国の平和を取り戻しましょう。
あなたの力も借りるわ、ご主人様
八重は凪を見ながら意味深な笑いを浮かべた。
(凪)
ご、ご主人様(汗)
いや、ご主人様って……お姉様(涙目)
(八重)
冗談よ。
でも、これからはもっと頼りにするからね、凪
八重はニヤリと笑うと、不意にその顔から笑顔が消えた。
何者かの存在を探知したからだ。
(凪)
早速ですか……
(八重)
ええ。
どうやら最後の一人がこちらに向かっているようですね。
しかも、かなりの実力者。
八重は表情を引き締める。
(凪)
充分、ボクの魔法の射程圏内ですね。
流石にこの世の全てを焼き尽くす神級魔法は耐えれません。
いきます!
【煉獄】
(八重)
行きなさい!って、もうやったのね……
流石、神級魔法。
空間が歪み、あたり一帯が灼熱の炎で満たされる。
(凪)
念の為、5連発!
【煉獄】
【煉獄】
【煉獄】
【煉獄】
【煉獄】
(八重)
流石にそこまでは……
しかし、油断ならないわよ!
八重は別の敵影を感知し、すぐに魔法で攻撃をし始める。
(凪)
援護します。
【煉獄】
【煉獄】
【煉獄】
【煉獄】
【煉獄】
(八重)
私の方は片付いたって……やり過ぎよ。
あなたの援護に回るわ。
八重はそう言うと、凪の横に並んで、更に大規模な火魔法で攻撃を開始する。
(凪)
はい、お姉様。
神級魔法乱れ撃ち!
【煉獄】
【煉獄】
【煉獄】
【煉獄】
【煉獄】
(八重)
流石に、この連携攻撃は破壊的よね。
あちらもかなりのダメージを負っているようだ。
敵の気配が薄まる事を感知し、八重は魔法の発動を中断する。
(凪)
しぶといなぁ……じゃあ、この神級魔法をプレゼント。
降り注げ!
【ファイアレイン】
(八重)
流石にこれは、刺客も耐えきれないでしょうね。
八重は雨のように降り注ぐ火球の雨を眺め、ため息をついた。
(凪)
感知範囲の10倍の範囲に豪雨のように降り注ぎましたからね。
(八重)
でも、刺客が来る前に感じた存在。
将軍の気配が消失しているわ……
八重は表情を曇らせ、周囲を警戒する。
(凪)
いやそれは消し炭にしましたよ?お姉様。
それはもう、塵も残さず。
(八重)
でも、この気配は間違いないのだけど……おかしいわね。
八重が疑問に思っている時、遠くから轟音が響いてきた。
(凪)
なんだろ?
(八重)
あれは……城が爆発した音だわ!
八重は表情を険しくし、即座に移動を始めた。
(凪)
反逆者による落城ですね、お姉様。
(八重)
急いで王都に戻りましょう。
もしかしたら……将軍の娘が巻き添えになっていなければ良いけど……
私は直接向かうから、あなたは地上で逃げ延びた民衆を避難させなさい。
八重は決断と同時に、一切の迷いを断ち切り、目的地へと向かった。
(凪)
お任せください、お姉様。
(八重)
到着したら連絡をくれ、私もすぐに駆けつけるわ。
八重は風のような速度で、王都を目指して走って行った。
(凪)
いや、ボクの方が早いって。
【ゲート】
八重が王都に着くと、そこには既に凪が居た。
(八重)
えっ?もうここに居るの??
八重は再会して驚きの声を上げた。
(凪)
一度行った場所には一瞬で行けるんです。
行った事がなくても、イメージを共有させてくれれば、近くに行けますよ。
(八重)
便利ね、羨ましいわ……
八重は空を見上げ、ため息をついた。
(凪)
民衆は避難完了してますね。
反逆者の軍に気づいて退避したようです。
ボクの探知魔法にもヒットしません。
(八重)
でも、将軍の娘の気配が消えている。
八重は表情を歪め、周囲を探り始める。
(凪)
将軍の娘を探索します。
うーん……避難してますね。
ただ、反逆者達と一緒に居ます。
(八重)
まさか、彼女を人質に、私達を脅すつもりかしら?
(凪)
そんな事しても無駄なのに。
魔法で簡単に救出できますよ。
(八重)
そう簡単にいくかしら。
おそらく反逆者達は、私達の実力を充分に調べてから仕掛けてきてると思うわ。
八重は王都内を探索し、将軍の娘が居る建物を特定した。
(凪)
死んでも生き返らせる事ができるのに?
骨の一片でも残っていたら可能ですよ?
(八重)
死体を人質にされたらどうするの?
それに……将軍の娘を人質に取るぐらいだわ、奴らは将軍本人の復活も狙っているかもしれないわよ。
建物に近づくにつれて、八重の表情は更に険しくなる。
(凪)
死体の人質は大丈夫です、"ストレージ"で収納してしまいますから手が出せません。
しかし将軍の復活ですか……数万人の生気を利用した、禁忌の蘇生魔法と……
それは無いと思います。
将軍は使い捨ての駒、今度は反逆者本人が実権を握るでしょう。
もう王都は陥落してますから。
(八重)
そう単純な相手なら良いけどね。
試してみないと分からないわ。
二人が話してると建物の扉が開き、数十人の武装兵士と将軍の娘が現れた。
(凪)
姫様、すぐ救出しますので、一回死んでください。
いきます!
【煉獄】
【ストレージ】
【ストレージ】
【リボーン】
(八重)
なんて事を!
死んだふりをするように言ったの?!
武装兵士が消し炭になる中、将軍の娘の姿が一瞬消え、兵士を殲滅した後、現れたかと思いきや、すぐ再生した。
将軍の娘は、凪に非難の目を向けた。
(凪)
姫様、ご無事で何よりです。
(将軍の娘)
助けに来てくれてありがとう。
でも、どうして私に死んだふりをするように言ったの?
再生してから、不審そうな眼差しを凪に向ける将軍の娘。
(凪)
いえ、一度殺して"ストレージ"に収納し、敵を殲滅した後、取り出して生き返らせました(テヘッ)
(将軍の娘)
そうだったの。
(八重)
姫様、スルーするんですね(汗)
(将軍の娘)
でも、私を人質として利用とする反逆者は、容易ではないらしいわね。
周りの景色が変わり、山奥の洞窟になった。
目の前には仮面を被った男が一人立っていた。