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狐耳の暗殺者  作者: なぎさセツナ
1/3

八重と凪

(八重)

やあ、バカ。



八重は遊び心で手を振る。


(八重)

あなたは私に抵抗できないのね、凪。



八重は凪の顎を持つ。


(凪)

はい、お姉様(照)


(八重)

可愛いじゃない、でもどうして逃げだそうとするの?



八重は目を細めてニヤリと笑う。


(凪)

ふふふっ♡


(八重)

まぁ、可愛らしい反応してくれるわね。



八重はまた目を細めてにこりと笑った後、表情を引き締めた。


(凪)

お姉様♡


(八重)

何よ、呼び方変えて。

調子はどうなのかしら?



八重は長い指先を凪の額に当ててみせた。


(凪)

良いけど……寂しい……


(八重)

甘えん坊さんねぇ……


(凪)

えっ?何て?お姉様。


(八重)

何でもない事よ。



八重は目を逸らすと、そのまま視線を戻した。


(八重)

それより、一緒に出掛けようかしら。

久しぶりに会ったのだし。


(凪)

はい、お姉様♡



凪を連れて出掛ける八重。


(八重)

素敵だわ、こういう時にしか味わえない雰囲気ね。



八重は空を見上げ、感慨深そうに目を細める。


(凪)

ねぇ〜、お姉様♡抱いてください(照)


(八重)

あらあら、ずいぶんと甘えてくれるのねぇ……



微笑む八重だったが、次の瞬間、表情を引き締めて凪を睨み付けた。


(八重)

でも、ダメよ、私はそこまで甘やかさないわ。


(凪)

お姉様……(涙目)


(八重)

こんな程度で泣いてしまうなんて、やはりまだまだ甘すぎるわ……



八重はため息混じりに言うと、同時に目を伏せてみせた。


(八重)

もっと大人になる必要があるわね。


(凪)

はい、頑張ります。


(八重)

良い子ね。

でも、頑張らないといけないはそれだけではないわ、覚えておきなさい。



そう言うと、八重は腕時計をチラリと見やってみせた。


(八重)

そろそろ時間だわ、行きましょうか。


(凪)

はい、お姉様。


(八重)

何処に行くの?



八重は首を傾げ、不思議そうに問いかける。


(八重)

まさか、知らないままついてくるつもり?


(凪)

もちろん、お姉様ですから。


(八重)

あら、そうだったの?



八重は微苦笑を漏らすと……


(八重)

でも、残念ね。

行き先を教えたとしても、あなたならきっとすぐに気づいちゃうでしょうね。


(凪)

もう、お姉様ったらぁ。


(八重)

何を隠そう、私達は今日……



そこで一旦言葉を区切ると、八重は周りに誰も居ない事を確認してから、小声で続けた。


(八重)

将軍家に向かうのよ。


(凪)

そうなんですか、お姉様!


(八重)

ええ、今日のところはね。

将軍と打ち合わせをすることになってるの。



平然と答える八重であったが、やがてその目に鋭い光を浮かべた。


(八重)

でも、これは極秘なのよ。

外部漏洩したらダメよ、分かっているわね?


(凪)

はい、お姉様。


(八重)

余程の事がない限り、将軍家の近くには近づいてはいけません。

例え私と一緒に居たとしてもね。



厳粛な顔で告げ、八重は歩き始めた。


(凪)

はい、お姉様。



目的地の前で足を止め、八重は背筋を伸ばして建物を見据えた。


(八重)

到着しました、将軍邸です。


(凪)

かっけぇ〜!お姉ぇ〜!めちゃかっけぇ〜!金持ちぃぃぃっ!



ガン!

思いっきりズッコケて、頭を打つ八重。


(八重)

あっ、アンタねぇ!!


(凪)

嘘です、お姉様、思ったよりショボかったです。


(八重)

な・ぎ・さ・ちゃん♡(感情の消えた目)


(凪)

はい、ごめんなさい、お姉様、真面目にします(涙目)


(八重)

準備は整いましたよね(冷たい目)


(凪)

はい!大丈夫です!お姉様!(冷汗)


(八重)

では、参りますわよ。

無礼は許されないし、態度にも留意すること、良いですね。


(凪)

分かりました、お姉様。



二人は中に入る。


(八重)

将軍様、お呼び出しにより、参上致しました。



将軍の前に立つと、八重は深々と頭を下げた。

凪も八重に従う。


(八重)

新任の官使について聞きました。

彼は我が国にとって大きな脅威となる可能性があります。



八重は表情を硬くして言葉を続け、そして、凪に鋭く視線を向けた。


(八重)

この者が彼の命を狙います、よろしくお願い致します。


(凪)

よろしくお願い致します、将軍様。


(八重)

将軍様、この者は我が妹にして弟子です。

実力は折り紙つきですので、お気になさらず。



胸を張って断言する八重。


(八重)

お任せください、必ず成果を上げてみせます、将軍様。



自信に満ちた表情で答え、八重は改まる。


(八重)

将軍様、他に仰せがなければ、これにて失礼させていただきます。



一礼すると、八重は退出しようとする。


(凪)

失礼致します、将軍様。



将軍邸を出たところ、突然雨が降り始めた。

二人だけでなく、通りを行き交う人々も突然の出来事に慌てていたようだった。

雨の中、八重は傘を開いて差しかざすが、それでも服はすぐ濡れてしまった。

しばらく道を急いだが、さすがに歩く事すら叶わず、ある店に避難する事にした。

雨足はますます激しくなり、風まで加わり始める。

店内では、客や商人達が雨音に話し声をかき消されているので、大騒ぎになっていた。

八重と凪は壁際に並んで座り込み、窓から外を眺めていると扉が開き、全身ずぶ濡れになった男女が四人ほど飛び込んできた。

彼等は店内を見回している。


(男①)

おい、この天気では、宿に荷馬車を使う以外ないだろう。

どうだ、金貨を出せば荷馬車を用意できる者は居ないか?


(男②)

荷馬車か……たしかに、こんな悪天候なら旅を続けるより、今日は野宿した方がマシという意見もあるな。


(女①)

荷馬車なんて無いわ!



唇を歪めて不満そうに言う女①。


(女②)

仕方ないわ、今日はこの町で一晩過ごすしかないね。


(男①)

雨に風だとはね……全く運が悪いな。



自虐的な笑みを浮かべて、男①は呟いた。


(男②)

ところで、お前たち……


(男①)

私と私の仲間は、将軍家に雇われた傭兵です。

明日にでも戦場へ赴く予定です。

もしよろしければ、一緒に同行してはどうでしょうか?

女性の方なら、護衛も兼ねます。


(凪)

いえ、大丈夫です。


(男①)

そうかね、まぁ、気が向いたら声をかけてくれ、出発は明日だから。


(凪)

はい、分かりました。


(男①)

お互い、安全な旅になる事を祈るべきだな、では。


(凪)

そうですね、ありがとうございます。



男達は残った。


(八重)

ずっと警戒していたようね。

でも、案外良い提案だったんじゃないかしら?


(凪)

うーん……


(八重)

将軍家の傭兵かしら……それとも偶然とは思えないほど上手くいきすぎるわね。

どう思う?



雨が勢いを失い、弱くなる頃合いを見計らって八重は立ち上がった。


(凪)

ちょっと怪しいです、お姉様。


(八重)

私も同じ意見よ。

どうやら、尾行されているようね。



八重は外に向かって叫んだ。


(八重)

来るならどうぞ。

 

(凪)

お姉様!



八重は懐から短剣を抜いた。


(八重)

どうする?


(凪)

どうします?


(八重)

私は戦いながら逃げ道を見つけるわ。

その間にお前は逃げなさい。



短剣を右手に持ち替え、八重は左手でドアノブに触れる。


(凪)

待って、私もご一緒します。

その方が逃げ切れる可能性が高いです。


(八重)

随分と頼もしいわね……



少し驚きながらも嬉しさを滲ませ、八重は頷いた。


(八重)

よし、じゃあまずは一気に外に出て道を右に曲がるわ。

その後、適当に森に潜り込もう。

行きましょう!


(凪)

はい!お姉様!



扉を勢いよく開け放ち、八重は体当たりのように外へ出る。

森まで一気に疾走する。

足場の悪い林道をものともせず、八重と凪は一直線に進んでいく。


(凪)

森までもう少しです、お姉様。


(八重)

ほら、追っ手も諦めないわよ!速度落とすな!



振り返ることなく八重は叫んだ。


(凪)

はい、お姉様。



しばらく走り……


(八重)

やっと着いたわ!



ようやく木々の間に姿を消すと、八重は安堵の息をついた。


(凪)

上手くいきましたね、お姉様。


(八重)

良かった……どうやら……まっ……


(凪)

どうしました?お姉様。


(八重)

…………私は…………

………………わたしは…ま…………


(凪)

お姉様?


(八重)

………………薬………………



口から血筋が流れ始め、八重は膝をついた。


(凪)

お姉様、今解毒します。

私、魔法使えますから、いきます!

 【リカバリー】



八重は解毒をかけられる事を信じて大人しく待つ。

数秒すると、八重は生気を取り戻してホッと息をついた。


(凪)

体力も回復しますね。

 【エナジーチャージ】



八重は魔法効果で一気に元気を回復すると、再び警戒モードに入った。


(八重)

ありがとう。

でも、安心はできないわ。

おそらく、この森にも手は回しているでしょうし……


(凪)

そうですね。


(八重)

追っ手は将軍家の直属の暗殺集団です。

私達は想像以上に危険視されているという事です。

今後、更に警戒が必要になるでしょうね。


(凪)

なんで将軍家が?


(八重)

分からない。

でもあの傭兵とやらは将軍家と繋がっていたに違いないわ。

私達は見事、罠にハマった事になる。


(凪)

私達を罠に嵌めてどうする気なの?お姉様。


(八重)

あなたをおびき寄せ、その能力を利用しようとしている節があるかもしれません。

あるいは、単純に排除対象とされているのかもしれませんが。


(凪)

えっ?


(八重)

将軍家は常に強者を欲しがっている。

それに利用されるか排除されて終わり。

いずれにしても、面倒な事態だ。


(凪)

お姉様、私はお姉様に付いて行きます。

お姉様から絶対離れません!


(八重)

そうしてもらわないと困るわ。

これからも私はあなたの師匠なのだから、離れてはダメよ。


(凪)

はい、お姉様!


(八重)

しかし、今はできるだけ早く安全地帯まで脱出する事が優先です。

追っ手を振り切る方法を考えた方が良いでしょう。


(凪)

そうですね。


(八重)

この辺りは将軍家の影響範囲に入っているわ。

できる事は多くないし、人も少ない、でも……



考え込むように額に手を当てる八重。


(八重)

この先に村があるわ。

そこまで行けば、多少は助けを求めやすいでしょう。


(凪)

分かりました、お姉様。


(八重)

でも、その場合、最悪の事態も想定しなくてはならないわ。

村民に被害が出る可能性があるから。



八重は決意したように言った。


(凪)

そうですね、それと内通者ですね、お姉様。


(八重)

そう、それも要注意ね。

村までの距離はさほど遠くないわ。

走れば半刻で着くかもしれない。



森から出る直前に、八重は慎重に周囲を見回し、足音が無い事を確認した後、走り出した。

小型の馬車が、何台か通る往来を選んで村に向かう。

しかし、途中で異変に気づく。

八重は素早い判断で道から外れ、路側の草むらに身を潜める。


(凪)

どうしたの?お姉様。


(八重)

追っ手が到着する前に情報を入手していたら、あの村に手配が回っている可能性があるでしょう。


(凪)

なら、村を避けて里に戻る方が……


(八重)

それは最後の手段にするわ。

村の事はともかく、里に戻るには将軍家の管轄地区を横断する必要がある。

それだけでもリスクが高いのです。


(凪)

あっ!そうか!


(八重)

そもそも追っ手はどうしてここに居るのでしょうね……



不審な点を口にして、首を傾ける八重。


(凪)

情報が漏れているのかも……あのグループも怪しかったし……


(八重)

そうなると、我々の動向は逐一、将軍家に知られている事になるわ。

それはつまり……



八重は目を伏せ、何かを思い出したように口を閉じた。


(凪)

ここに居ては危険。

早く脱出しなきゃ!


(八重)

そう簡単にはいかないかもしれないわ。



周囲を警戒し、低い声で八重は囁く。


(八重)

それに、あの将軍に会いたい気分よ。


(凪)

忍び込みます?お姉様。

隠蔽魔法は使えますよ。


(八重)

今、それについて考えていたところよ。

でも、万全を期すなら、まずは村人からの情報収集ね。

それができないと……


(凪)

ヤバい事になる……


(八重)

そうね……



八重は即座に結論づけた。


(凪)

では、村に。


(八重)

でも、このままでは逆に標的にされてしまうわ。

どうすれば良いか……



八重は周囲の地形や状況を把握しようとして、何度も視線を彷徨わせる。


(凪)

空から行きましょう。

飛行魔法も使えますから。


(八重)

それは良い提案ね。

しかし、空を移動すると目立ちすぎない?


(凪)

隠蔽魔法も同時展開するから平気です、お姉様。


(八重)

でも、それでは私の体重もあなたの魔力でもたなくてはならないわ。

長時間は辛いでしょう……



不安そうに凪を見る八重。


(凪)

大丈夫です。

私の魔力は無限です。

枯渇しません。


(八重)

もしそうなら、あなたはもっと有名になっているはず。

世界で唯一無二の存在になるのだから。



八重は疑うそぶりを見せた。


(凪)

実は黙っていましたが、私は異世界から来ました、お姉様のお手伝いをする為に。

元の世界では、間違いなく過労死です。

神様がチートをくれ、お姉様のお手伝いをするように、神託を承りました。

この事は誰にも内緒にしてください、知られたらマズい事になります。


(八重)

まさか!そんな事って……



八重は目を丸くした。


(凪)

あるんです。

世の中、何があってもおかしくないです。

私は神様からお姉様のサポートを任命されました。

だから大丈夫です。

例え、お姉様がお太りになり、重くなっても大丈夫ですよ(笑)


(八重)

冗談言わないで。

私はそんなに食べてないわよ!

それに毎日、欠かさず鍛錬はしています。



苦笑すると、すぐに真顔になり、八重は頷いた。


(八重)

でも助かるわ、ありがとう。


(凪)

いえ、私もお姉様に出会えて幸せです♡


(八重)

甘えてるんじゃないわよ……



八重は微笑み返し、また真顔に戻る。


(八重)

異世界から来たとはいえ、無理は禁物よ。


(凪)

はい、お姉様。


(八重)

でも、空から侵入するのなら、どこに降りるかが問題ね。

将軍邸内部は分からないし……



頭を悩ませ、八重は地面に落ちてあった小石を拾い、投げ捨てる。


(凪)

将軍の前は?

壁なんて簡単にすり抜けられるし、探索魔法で居場所も特定できるよ。


(八重)

流石にそれはリスキーだわ……



目を瞳大にして、八重は呆れたようなため息をついた。


(凪)

なんでです?隠蔽魔法で姿は消えてるし、結界魔法を展開するので大丈夫ですよ?

私の魔法に勝てるのは、神様の魔法だけです。

神様が、そう調整してくれました。


(八重)

神様が調整してくれたと言うのは、本当に便利なことだけど……



皮肉めかして八重は口にしたが、実は感心している部分もあった。


(八重)

でも、それでもリスクは残るわ。

あなたはまだ修行中である事は変わらないんだし。


(凪)

神様から指南を受けていますし、それにお姉様が居ます。

二人で居れば、無敵ですよ。

私、死んでも生き返らせる事ができますから。

まぁ、あまり時間が経ちすぎると無理ですが……50年とか。


(八重)

死人を生き返らせるなんて!?

そんなの嘘でしょう……



衝撃を受け、言葉を失う八重。


(凪)

できますよ、神様からもらったチートですから。


(八重)

チートね……



改めて八重は妹弟子を見据える。


(八重)

でも、それを使うのは、時と場合を考えなさい。

無闇に使って良いわけではないのだから。


(凪)

そうなんです、かなり危険ですから乱発はしない方が良いです。

生き返らせても、狂ってしまっては苦痛を与えるだけです。

それは死者への冒涜ですから。

ただ、拷問には便利ですよ(ニヤリ)


(八重)

話を逸らすけど、将軍との対決の際、生き返らせるのはどう?

相手を混乱させることができるかもしれないわ。


(凪)

はい、良いと思います。

それに代わり身を用意しとけば、里に帰ってからゆっくり尋問できます。

"ストレージ"という収納魔法は、中の時間が止まってますから、入れた物が傷む心配がないです。

入れた時と同じ状態で取り出せますから。

しかし、時間が止まっているので、生きたままは無理ですが。

入れたら死にます。


(八重)

生きたまま無理って……生き返らせるっていう選択肢があるんじゃなかったの?


(凪)

はい、一旦殺して死体にすれば、物ですから問題ないです。

後から取り出して生き返らせるのですよ。


(八重)

なるほど。

でもどちらにせよ、今回はあまり派手な真似をしたくないの。

できるだけ音も立てずに済ませたいから。


(凪)

はい、分かりました。

遮音魔法も使います、お姉様。


(八重)

では、早速、空から将軍邸に向かいましょう。

隠蔽魔法をかけなさい。



八重は腕を広げて、凪の背中越しに手を回し、自分の身体を密着させて抱きつく格好になった。


(凪)

はい♡お姉様♡

いやぁ〜ん♡お姉様の温もりを感じる♡それに良い匂い♡はぁ♡はぁ♡はぁ♡ はぁ♡


(八重)

何をはしゃいでるのよ、変態!まったく……



苦笑混じりに八重は言ったが、決して嫌いではなかった。


(凪)

あはは♡


(八重)

魔法を唱えなさい。



凪の頭を撫で、八重は促した。


(凪)

はい、ではいきます!

 【インビシブル】


(八重)

準備できたわ、行きましょう。



八重は目を閉じ、静かに呼吸を整える。


(凪)

はい。


(八重)

飛び立て!空の上を行くわよ!


(凪)

はい!

 【フライ】



ゆっくりと二人の身体が浮遊し、やがて地面を離れ、雲の海へと舞い上がる。


(凪)

どうです?お姉様。


(八重)

大丈夫よ。



八重は腕時計を確認した。


(凪)

いや、感動とか、凄〜い、とか、偉い偉いって撫で撫でするとか……


(八重)

偉いねって言ってあげようか?



頭上から降る水滴に気づき、顔をしかめる。


(八重)

少し雨が降ってきたわね。

これは少し都合が悪いわ。


(凪)

春雨じゃ、濡れて参ろう。


(八重)

おい!しかも、今は夏だ。


(凪)

あはは、結界魔法いきます!

 【聖壁】

これで大丈夫です、お姉様。


(八重)

防御系の魔法ね。

たしかにこれで雨風も完全に防げそうだわ。


(凪)

同時展開は2つまでだけど。


(八重)

・・・。


(凪)

嘘です。

同時展開に制限はありません、お姉様。


(八重)

あのな……

 

 

上手く使い分けてると感心していると、八重は不意に視線を斜め左下に向ける。


(凪)

どうしました?お姉様。


(八重)

あれは……何か来るようですね。



八重は右手を挙げ、合図を送った。


(凪)

えっ?てか、隠蔽魔法がかかってますから、相手からは見えませんよ?


(八重)

本当にそうかしら……



疑問を挟み、八重は眉を寄せた。


(凪)

神は偉大なり。


(八重)

でも、念の為、身構えておいた方が良い。


(凪)

はい、お姉様。


(八重)

相手も飛行しているな。

魔物かどうかまでは分からないけど。



八重は目を凝らして正体を見破ろうとする。


(凪)

こうすれば分かります。

 【解析】

ほらね。


(八重)

これは……人型の魔物か!



八重は目を丸くして驚いた。


(凪)

そうみたいですね。

これは……サキュバス。


(八重)

サキュバス!?



八重は再度、目を凝らし見ようとするが、依然、目視できない為、諦めて視線を戻す。


(凪)

はい、淫魔サキュバスです。

彼女らは空を飛べます。


(八重)

空を飛ぶ淫魔だと?……危険だわ。

接触戦になる可能性もあるかも……



八重は眉をひそめる。


(凪)

回避しましょう、下手に撃ち落としたりしたら、位置がバレます。

結界魔法が風避けになりますから、スピードを上げます。

 【ブースト】


(八重)

結界魔法は風当たりも調整できるんだね。


(凪)

もちろんです、お姉様!


(八重)

速いね、まるで光のようだ。

さっきのサキュバスも、もう小さな星にしか見えないな……



八重は目をすがめ、精一杯目視しようとするが、やはり相手の姿ははっきりとは見えない。


(凪)

上手くやり過ごしました。

あれも将軍家の刺客ですかね?


(八重)

どうだろうね。

偶然かもしれないが、油断できない事には変わりないわね。



前方に目ざとく建物の輪郭を発見すると、八重の顔に緊張感が戻る。

そのまま建物に近づく二人。


(八重)

あそこよ、将軍邸だわ。


(凪)

はい、お姉様。


八重が指差した方向に降下を開始した。


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