第97話『そして誰も選ばれなかった夜』
王城の正妃選定式──。
それは、乳による統治の是非を問う象徴的儀式であり、同時に一人の青年の“答え”を世に示す機会でもあった。
だが、爆発の衝撃がすべてを打ち砕いた。
式典は中止。
テロの混乱を収束させたのは、ヒロインたちの迅速な行動だった。
しかしその後に残ったのは、焦げた玉座と──
──選ばれなかった花々だった。
■夜の謁見室
夜更け。
王子・拓真は、王《クラウス四世》のもとに呼び出されていた。
「……お前の気持ちは、わかる」
王は椅子に座ったまま、ゆっくりと語り始める。
「だが、国は揺れている。乳という価値観は、この王国を分断しかねない。“理性”と“身体”の分離が進めば、共存の未来など夢物語となろう」
そして、言った。
「ゆえに、お前に決断を任せる。誰を、正式に、正妃とするか──」
拓真は、黙ってその言葉を受けた。
瞼を伏せたまま、唇だけが小さく動いた。
「……選ぶ資格が、俺にあるのか?」
「……っ」
それは、逃避ではなく、痛みだった。
誰かを選ぶことで、誰かを“選ばない”という現実。
それが、愛し合う日々の延長にはない“儀式”の残酷さを突きつけていた。
■夜の中庭──リリアーヌとの会話
拓真が一人、中庭で星空を見上げていたとき──
リリアーヌがそっと現れる。
儀式用の装束を脱ぎ捨て、普段着のまま。
「……この夜に、王子様がひとりなのは、絵になりすぎるわね」
彼女は微笑み、隣に腰を下ろす。
しばらく無言のまま、風だけがふたりを撫でていく。
やがて、リリアーヌが小さく言った。
「選べないのよね。分かるわ」
「……」
「でも、選べないのなら……私たちが、あなたを選ぶ」
拓真が、驚いたように振り返る。
「え?」
「“王子だから”じゃない。“王子であっても”……タク真、あなた自身を選ぶ。私たちは、誰よりもそれを望んでるのよ」
そして彼女は、まっすぐに続ける。
「だから逃げないで。選ばないことが悪いんじゃない。選べないほど、みんなを愛してしまったことを……誇って」
■全ヒロインの想い──“共有された愛”の予兆
その夜、各部屋でそれぞれのヒロインたちも、同じ空を見上げていた。
・クラリスは、包帯を巻いた胸元を抑えながら「私の役目は、終わってない」と呟く。
・マリアは、キャンドルの火を見つめながら「愛が、選択肢を壊してくれるといい」と独白。
・エミリアは、法服のボタンを外しながら「もう、言葉だけじゃ足りないわね」と決意する。
みな、ひとつのことに気づいていた。
──選ばれるより、選びにいく方が、勇気がいる。
そして夜が明ける。
王国は、いまだ揺れている。
だが、王子を愛する者たちは揺れてなどいなかった。




