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異世界おっぱい『おっぱいに誠実で何が悪い!〜異世界転生したら悪役令嬢の味方になってた件〜』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩


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第91話『帰還の鐘、鳴る──正妃選定、再び』

王都の空に、鐘の音が三度、厳かに響いた。


 それは、かつての選定式と同じ合図。


 しかし、今回は違う。前回は「恋の決断」だった。だが今回は──「政のための婚姻」である。


「……また、始まるのですね。あの、戦いが」


 王城の一室、深紅のカーテンが風に揺れ、ソフィアは静かに呟いた。神殿巫女としての彼女の立場は、今や国の信仰の要とも言える。それでも、“拓真の隣”という座に、未練が残っていた。


 一方、書斎で報を受けた拓真は、冷えた紅茶を見つめていた。


「国策……か」


 静かに茶杯を置き、呟く。


 乳で選ばれる恋を否定したその舌で、今度は「国のために正妃を選べ」と言われる矛盾。


 だが、逃げるわけにはいかない。


 その時、扉がノックされた。


「……入って」


「失礼いたしますわ。拓真様」


 入ってきたのは、淡いローズの香りをまとったリリアーヌ。正妃の座を辞退して以来、ずっと王都を離れていた彼女が、再びこの部屋に足を踏み入れるのは初めてだった。


「久しぶりだな、リリアーヌ」


「……ええ。呼ばれましたもの、“乳の鐘”に」


 どこか茶化すような声音。それでも、その目には確かに覚悟が宿っていた。


「あなたは……戦うのか?」


 問いかけに、リリアーヌはそっと胸に手を置いた。


「戦う気はなかった。でも、逃げないと決めたあの日から──」


 ──私の答えは、もう出ている。


 そう語る瞳に、拓真は息を呑んだ。


     ◆  ◆  ◆


 一方その頃、エミリア、ソフィア、クラリス、マリアもまた、それぞれの場所でこの報を受けていた。


 エミリアは筆を走らせながら唇を噛む。

「また、あの舞台に立つのね……わたくしの“誠実”が、揺れを越えて届くかしら」


 マリアは厨房で包丁を握りしめる。

「愛される料理を作るだけじゃ、足りなかったってことね……でも、今度は“私自身”を差し出す覚悟でいくわ」


 クラリスは剣を振る稽古の手を止め、鏡に映る自分の胸を見つめていた。

「私はこの乳で、ただの“からかい”じゃなく、誇りを見せる」


 ソフィアは神殿の奥、祭壇の前で祈りを捧げたあと、静かに目を閉じる。

「愛とは、定義されずとも、祈れるもの──そのことを今度こそ証明する」


     ◆  ◆  ◆


 数日後。


 王国主催による《再・正妃選定式》が発表され、王都は前回以上の熱狂に包まれた。

 その理由はひとつ。

 前回の式は「拓真の自主的選定」だったが、今回は「王国側の選定委員会」が併設され、“乳”のみならず“政略・血統・民意・国家安定性”などが選定要素に追加されたことにある。


「つまりこれは──」


「……もはや恋愛ではないわ。政治の祭壇で行われる、乳の闘争ですのよ」


 エミリアの分析に、誰も反論できなかった。


 けれども。


「それでも……私は、この場に立つよ」


 そう告げたリリアーヌは、かつてよりも柔らかく、それでいて、誰よりも揺るがぬ笑みを浮かべていた。


 彼女の乳は、静かに、けれど確かに揺れていた。


 それは、恋でもなく、名誉でもない。

 ただ一人の人間として、再び“立つ”ための揺れだった。


     ◆  ◆  ◆


 夕暮れ時。

 王城のバルコニー。


 拓真とリリアーヌは並んで立っていた。


「お前は変わったな、リリアーヌ」


「ええ。多分、変わったわ。でも、本当は……最初から、こうだったのかもしれない」


 風に揺れる髪。二人の間にある沈黙。


 リリアーヌは、最後にこう言った。


「戦いではなく、“生きる”ために、私はここに立ちます」


 拓真は頷きながら、静かに手を取った。


「なら、俺も逃げない。どんな形であれ、決着は俺がつける」


 この再選定戦が、乳の終焉ではなく、

 “新たな関係の始まり”であることを願って。


 再び、鐘が鳴る。


 そして、その音に揺れる者たちの物語が、


 ──また、始まるのだった。



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