第88話『クラリス、戦う誠実──“私はこの乳で、あなたと対話したい”』
黄昏の王都は、乳炎上事件の余波でざわついていた。
乳の象徴として王宮前に立っていた《双乳像》が灰燼に帰したのは、昨夜のこと。
その破壊の主が“セラフィカ”の一派であり、かつてリリアーヌによって断罪された少女・フィリーネであったと判明し、激震が走っていた。
だが、その夜明け──
「私は、この乳で、あなたと対話したい」
その言葉は、乳揺れ議会広場に響き渡った。
登壇したのは、金髪碧眼、長身爆乳の誇りを抱く騎士候補──クラリス・ヴァレンタイン。
乳炎上事件の“政治的意味”に、真っ向から剣ではなく『揺れ』で挑む者。
かつて、クラリスは幾度も揺れた。
少年時代の男子から「お前の乳は化け物か」と嘲られ、
女子からは「ああいう身体って、無自覚に男を誘惑するのよね」と陰口された。
それでも、彼女は乳を隠さなかった。
鎧を着てもなお目立つその誠実を、彼女はずっと磨き続けていたのだ。
「私は、“乳がある”ということが、どういう視線を引き寄せるかを知っています」
クラリスの声は、最前列に座る騎士団の若手たちにまっすぐ届いた。
だが、後列──そこには、セラフィカの幹部・無乳のメルティアがいた。
「あなたのような“誠実に見せかけた乳”が、どれだけ私たちを傷つけてきたか」
メルティアが睨みつける。
「乳に誠実なんてあり得ない。揺れるものは、不確かで、欲望を生む」
その言葉に、クラリスはゆっくりと胸元の銀の装飾を外した。
「揺れは、誠実です」
──どよめき。
「揺れるということは、心があるということ。怖れがあるということ。迷いがあるということ。……そして、それでも誰かに届けようとする、覚悟の形なんです」
その瞬間、クラリスの胸が風にゆれた。
メルティアの目がわずかに見開かれる。
「これは、誘惑じゃない。誇張でもない。私の“誠実”は、ここにあります」
騎士団が、一斉に剣を置いた。
争うのではない。“対話”の姿勢だ。
「私たちは、あなたたちを否定したいわけじゃない」
クラリスの声は、かすれながらも、熱をもって届く。
「ただ──乳を、胸を、揺れを。“誰かを想う力”として扱いたいだけ」
セラフィカのメンバーたちの中にも、涙ぐむ者がいた。
その中には、ソフィアやマリアの姿もある。
かつて、感情を隠すために揺れない鎧をまとっていた彼女たち。
だが今、その鎧がひとつ、またひとつと解けていくようだった。
「感じてるでしょ? 今、あなたの中の乳が──揺れてる」
そう言ったクラリスの瞳は、まっすぐメルティアを射抜いていた。
数秒の静寂。
そして、メルティアは、まるで許されたように、肩を震わせた。
「……あなたの乳は、確かに……“優しかった”わ」
その言葉と共に、乳揺れ議会広場に拍手が広がる。
それは勝利の音ではない。
理解が、やっと揺れ始めた証だった。
クラリスは拳を握る。
(もう、誰もこの乳を笑わせない──)
胸に刻まれた誓い。
それは、彼女の人生で最も誠実な“乳の揺れ”だった。




