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異世界おっぱい『おっぱいに誠実で何が悪い!〜異世界転生したら悪役令嬢の味方になってた件〜』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩


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第86話『ソフィアとマリア、禁乳結社に接触──“揺れなき正義”の罠』

 湯乳郷での乙女たちの温泉会議から数日。空が高く澄み、秋の気配が忍び寄る中、巫女ソフィアと元令嬢マリアは、密かに王都へと向かっていた。


「……このままじゃ、終われませんわ。私たちには、まだ拓真様に伝えていないことがある」


 マリアの声は決意に満ちていた。正妻戦で敗北してなお、想いは揺らぎ続けている。


「“誠実乳”という価値観が暴走する前に、私たち自身が答えを見つけなきゃ」


 ソフィアが頷く。その視線の先、王都の外れ──人知れず再興した禁乳結社セラフィカの本拠地がある。



 《セラフィカ》は静寂を愛する集団だった。


 大広間には、乳を隠すような黒いローブの女たちが集う。


「乳は惑い。揺れは罪。真の愛に必要なのは、“揺らがない契約”のみ」


 教義を唱えるのは、結社の頭目──メルティア。


「……元・侍女頭ですって? どうして……」


 マリアが驚愕の声を漏らす。かつて王宮に仕え、すべての女性の美徳を乳に見出していたその女が、今や“揺れ”を完全否定していた。


「私は見たのです。揺れることで人は誤解し、争い、苦しむのです」


 冷ややかな微笑みを浮かべるメルティア。かつての忠義は、今や“無乳の正義”へと姿を変えていた。


「あなたたちもまた、揺れることに疲れたのでしょう? ならば、この静寂に身を委ねなさい」


 香炉から漂う香り。そこには、精神を平坦にする“感情緩和香”が仕込まれていた。


「……あぁ……」


 ソフィアのまぶたが重くなる。


 マリアもまた、深い眠気に囚われ、記憶の深淵へと沈もうとしていた──。



「ソフィア! マリア!」


 その時、場に飛び込んできたのは──クラリス。


 風を切って現れた彼女の髪は乱れ、ドレスの裾には泥が付いていた。


「……なにを……っ!」


 メルティアが怒号を放つ。


「感情を封じた愛なんて、ただの“命令”ですわ! それがあなたの“愛”ですの?」


 クラリスは叫んだ。


「たしかに、ソフィアもマリアも、揺れを否定されて傷ついてた。でも、あなたたち……揺れなくても、“感じてる”じゃない!」


 その言葉に、香りの支配下にいた二人の心に、波紋が広がった。


 マリアの頬に、ひとしずく涙が伝う。


「私……感じてた。静かでも、黙ってても、あの人のこと……っ!」


 ソフィアも、胸元に手を当てた。


「この胸の奥が、ざわつくの。名前もつけられないけど……確かに、何かが、揺れてる」


 その瞬間、香炉が砕かれ、緩和香の煙が消えていく。


 クラリスは息を切らしながら、二人を支えた。


「揺れは、弱さじゃない。あなたの心が生きてる証よ」



 《セラフィカ》はその日を境に分裂を始めた。


 乳を否定することで安寧を得ようとした女たちも、やがて気づいていく。


 「揺れ」は、痛みであり、喜びであり、そして生の証。


 その中にしか、本当の“誠実”は宿らない──と。



 夜。湯乳郷の露天風呂。


 再会した三人は、並んで湯に浸かっていた。


「ねえ、クラリス。あの時、どうして来てくれたの?」


 ソフィアが尋ねると、クラリスは少し照れたように笑った。


「わたくし、気づいたんですの。誰の乳が選ばれるかじゃなくて、誰の揺れを、私が“信じたいか”なのだと」


「……信じたいか、か」


 マリアが呟く。


「私はまだ、彼に選ばれたわけじゃない。でも、それでも“自分で信じられる揺れ”を持っていたい」


 三人は湯煙の中、寄り添うように微笑み合った。


「誠実って、乳の大きさでも、数値でもないわね」


「ええ、そうですわ。私たちは……揺れることで、前に進んでいける」


 空には満天の星が輝いていた。


 そのひとつひとつが、乙女たちの胸の奥に宿る“誠実の星”のように、強く、静かに瞬いていた。

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