表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界おっぱい『おっぱいに誠実で何が悪い!〜異世界転生したら悪役令嬢の味方になってた件〜』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/104

第85話『リリアーヌ、帰還拒否──“正妻”と名乗る気は、もうない』

 朝靄にけぶる湯乳郷の奥、まだ誰も踏み入れたことのない秘湯のそばで、リリアーヌは静かに湯煙を見つめていた。


 王都からの使者が彼女のもとを訪れたのは、昨夜のことだった。


「リリアーヌ=ヴァン=ルクレール殿。王都より正式な勅命により、あなたを“正妻”として迎える旨をお伝えいたします」


 その言葉は、誇りでもあり、呪いでもあった。


 あの断罪式から月日が流れ、彼女は今ようやく「乳」と「誠実」という、二重の評価軸から逃れようとしていた。だがその矢先に届いた「正妻」としての帰還命令。


 温泉の湯面が揺れる。

 彼女の胸もまた、静かに、けれどはっきりと震えた。


「私は……戻りません」


 リリアーヌの言葉に、使者の顔が凍りつく。


「これは、陛下の……」


「私にとって“正妻”という肩書きは、もはや“私”を縛るものです。私の“揺れ”は、誰かの称号のためにあるのではありません」


 その言葉には、あの日、無乳街で出会った少女たちとの記憶が色濃く刻まれていた。


──“揺れない”ことで誠実を証明しなければならなかった少女。

──“見られること”が怖くて、胸元を押さえて震えていた仲間。


 リリアーヌは知ってしまった。

 誠実とは、胸の大きさでも、揺れの有無でもない。

 その人がどこまで“自分”であろうとするか──それこそが、誠実の正体だと。


 同時刻、王都の応接間では、拓真が静かに報告を聞いていた。


「リリアーヌ様より、『帰還辞退』の意思が届けられました」


 周囲の重苦しい空気をよそに、拓真は微笑んだ。


「そうか……あいつ、ちゃんと選んだんだな」


 誰かの“隣”であることではなく、自分の“居場所”を探すという選択。

 それは、彼女にしかできない、誠実の形だった。


 その夜、湯乳郷の星空の下。

 エミリアやソフィアたちが温泉宿で乳談義を続ける中、リリアーヌは一人、手紙を書いていた。


「拓真へ。あなたが誰かを選んでも、私はもう泣かないわ。だって、私は私を選んだから」


 その文字には、揺るぎない筆圧と、ほんの少しの滲みがあった。


 夜風に髪がなびく。

 湯の音、虫の声、そして遠くの祭囃子が、リリアーヌの心に響く。


「私は“正妻”じゃない。ただのリリアーヌ。けれど、私はきっと……この乳で、世界をもう一度、見つめ直せる」


 その決意とともに、彼女の旅が、またひとつ、新たな道を歩み始めた──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ