第79話『胸に刻む言葉──“定義されない愛”の始まり』
ラグリス王都の中心、かつての王宮議会ホールが臨時演説会場として開放されていた。
千年を越える歴史のなかで、王が即位を告げ、戦の停戦が語られ、盟約が交わされたこの場所。その中央に、いま一人の少年が立っていた。
拓真。
かつて異世界に転移し、「誠実乳」を巡る騒動に巻き込まれ、幾多の“揺れる女たち”と向き合い続けた彼が、全銀河中継で宣言を行おうとしている。
壇上には彼だけではない。
ユーフィリア、エミリア、ソフィア、クラリス、そして、再び王都に戻ったリリアーヌ──彼の乳を、彼の心を、信じて揺れたヒロインたちが一列に並ぶ。
「……俺は、いままで誰の乳も否定しなかった」
静寂を切るように、拓真の声がホールに響いた。
「でも──同時に、誰の乳も、ちゃんと選べてなかった」
ヒロインたちのまなざしが揺れる。エミリアが、くいっと眉を寄せる。ソフィアは祈るように胸元で手を組み、クラリスは不満げに唇を尖らせる。
ユーフィリアは、泣き笑いの表情でうなずいた。
「それでも、俺は……この乳で生きるって、決めたんだ」
拓真は、拳をそっと胸に当てた。
「“誰かのために揺れたい”って思った、この気持ちを──誠実って呼びたい」
その瞬間、巨大スクリーンに各国・各星系の反応が映し出される。
ラ=ティタニアのAI国家では、非肉体型住民たちが乳翻訳デバイスを通じて波形を共鳴させ、静かな“揺れ”を表現。
地底都市〈ボソニア〉では、甲殻族の巫女が巨大な胸甲を前に合わせ、乳揺れの儀を行っていた。
そして、宇宙通信網に載せられた拓真の言葉は、音声ではなく“振動”として送られ、肉体を持たない存在たちの“揺れる心”にも直接届いていった。
「恋なのか、尊敬なのか、共感なのか……俺には、まだわからない」
拓真はまっすぐ前を見た。
「でも、ひとつだけわかってることがある」
「“揺れた”ってことは、もう、それだけで意味があるってことだ」
それは、リリアーヌが“乳を持つことをやめようとした”あの日に言い残した言葉でもあった。
「定義なんて、いらない」
「俺たちは、揺れる自由を選べる。……それが、誠実乳の、本当の意味だ」
会場が静まり返る。
誰もが、その言葉を胸に刻もうとしていた。
沈黙のなか、ふいにひとりの女性が前に出た。
リリアーヌだった。
彼女はいつもの豪奢なドレスではなく、かつて無乳街で出会った少女たちと同じ、シンプルな布衣を纏っていた。
「……あなたがそう言ってくれて、よかった」
彼女は、まっすぐ拓真に向き合い、手を差し出した。
「私も、揺れることを肯定したかった。ずっと……あなたの目で、見てほしかった」
彼の手が、そっと彼女の手を取る。
その瞬間、胸が震える音が、すべてのスクリーンに伝わった。
──“揺れ”が、全宇宙を包み込む。
それは、定義されない愛のはじまり。
ただ、“乳”という形に託された、無限の思いの連なり。
そして、少年と少女がその中心で──微笑み合っていた。




