【第8話】 『ざまぁ宣言──お前の胸に、誇りはない』
──その日、王都の中央議会堂は異例の熱気に包まれていた。
「乳詐称事件、まさかここまで波紋を呼ぶとはな……」
「学園内での薬物使用……王子側近の令嬢による関与……」
「それにしても、“乳眼”の少年がここまでの証拠を……」
議会堂の一角、特別法廷にて開かれる《公開断罪審問会》。
本来は重罪人や魔術犯罪者を裁く場だが、今回は**乳詐称という前代未聞の“風紀的背信行為”**が対象となっていた。
罪状:
──美乳促進ポーションの違法流通。
──魔導乳の使用による貴族身分の詐称。
──さらに、社会的地位を利用し王太子の愛人としての立場を強化した行為。
そして、その被告人こそ──
ユーフィリア・アルセリーナ嬢。
銀髪に憂いを帯びた瞳、美しい面立ち、完璧なプロポーション。
王子の正妃候補として一時は騎士団・宮廷からも支持された少女であったが……
いま、その美貌は、冷たい視線とざわめきにさらされていた。
「……ふん。何が乳詐称よ。あんなの、見た目を整えて何が悪いの?」
議場がざわついた。
その傍らに立つのは──
王国騎士団・特別技能職《乳判定士》。
あの《乳眼》の使い手──如月拓真だった。
「発言を許可します」
拓真が一歩、進み出た。
堂々と壇上に立ち、周囲を見渡す。
議員、騎士団員、学園関係者、そして多くの貴族たち──
そのすべての視線が、彼の背に集まっていた。
そして、静かに宣言した。
「今より、この場にて、対象者“ユーフィリア・アルセリーナ”嬢の**乳真偽判定**を開始します」
ざわめきがどよめきに変わる。
だが拓真は動じない。
「乳眼、展開──“誠実判定モード”、起動」
空間が、揺れた。
彼の目が光を宿し、乳の構造を超越した“真理の視界”が広がる。
──重力への応答。
──筋繊維と皮膚膜の連動。
──感情波動との共鳴。
──そして、“触れられることへの覚悟”という心の温度。
すべての解析を終え、拓真は一言で断罪した。
「この胸は……柔らかくも軽く、誠実さが一欠片もない。──はい、偽乳確定です」
「なっ……!?」
ユーフィリアの顔から、血の気が引く。
「君の乳は確かに美しい。だがそこには“信念”がない。“誇り”がない。“想い”がない。──君は乳を武器にした。だが、乳は武器ではなく、“人を包むもの”だ」
ざわ……と、会場が波打つ。
「この者のポーション使用歴、魔導乳成分の反応は、すべて乳眼によって実証済み。もはや言い逃れは不可能です」
ユーフィリアは声にならない叫びをあげ、ふらついた。
「……どうして、どうしてよ……見た目が全てじゃないの……!?」
そのときだった。
傍聴席の奥。
ひとり、静かに立ち上がる女性がいた。
──金髪に気高い瞳。
──そして変わらぬ“胸の誇り”を宿す姿。
リリアーヌ・グランディール。
「ユーフィリア嬢……それが、あなたの本音なのね」
彼女は歩み出た。かつてすべてを失い、しかし再び立ち上がった“元・悪役令嬢”。
「あなたが“見た目”を信じたその瞬間、あなたは本当の美しさを見失ったのよ」
リリアーヌは、拓真の隣に立った。
「──私は、この男に助けられた。“乳に誠実な変態”にね」
「ちょ……それ、言い方……!」
「でも、本当にそうなのよ」
彼女は、ゆっくりと胸に手を当てた。
「この胸は、偽らない。“自分を誇るため”に、私は今日まで張り続けてきたの」
会場が、静まり返った。
リリアーヌの乳は揺れていた。
だがそれは、魔法でも薬でもない、“想い”によって震える誇りだった。
「……あなたって、本当に変態」
「それは否定しない」
「でも……一番信じられる」
彼女のその言葉に、議場の空気が変わった。
拍手が、ひとり、またひとりと起こり──やがて、それは大きな波となった。
こうして──
ユーフィリアの偽乳は断罪され、リリアーヌの名誉は完全に回復される。
この出来事は、後に【第一回・乳眼裁判事件】として王国史に刻まれることになる。




