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異世界おっぱい『おっぱいに誠実で何が悪い!〜異世界転生したら悪役令嬢の味方になってた件〜』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩


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【第77話】 『揺れる理由は、あなたに会いたかったから』

白銀の都ラグリスの中心部。

 古びた劇場《フォルティッシモ座》の前には、朝から長蛇の列ができていた。


 今日ここで再演されるのは、かつて王侯貴族の娘だった少女・リリアーヌ=アーデルハイトが「悪役令嬢」として断罪されたあの劇──いや、“模擬断罪式”である。


 皮肉なことに、彼女自身の手によって設計された舞台演出が、今度は再び彼女を断罪するために用意されていた。


 高鳴る胸音。

 リリアーヌは、まっすぐに舞台の中央へと歩を進めた。


 誰の手も借りない。

 誰の助けも要らない。


(……これが、私の選んだ“揺れ”)


 その背筋は凛として、しかし微かに震えていた。


 ――


 開幕の鐘が鳴る。

 客席には王都中の貴族、役人、メディア関係者、そして……あの青年・拓真の姿もあった。


「これは断罪の劇にあらず。選択の再演である」


 リリアーヌが語り始めた瞬間、劇場は静まり返った。

 その声は、かつて断罪の場で泣き叫んだ令嬢のものではなかった。


「“誠実乳”とは何か。それを私が掲げた時、確かに私は自分を守ろうとしていた」


 舞台上に浮かぶ映像球が、過去の断罪の様子を映す。

 誇り高き令嬢が、侮蔑と嘲笑に晒され、名誉を剥奪されていく。


「だけど今、私は違う」


 リリアーヌは自らの胸元に手を当てた。

 その揺れは、舞台の空気にすら伝播するかのように微細で、だが確かに響いた。


「私は、あなたに“見られた”あの日から、揺れるのが怖くなくなった」


 言葉と共に、客席の一角に視線を向ける。

 そこには、驚きに目を見開く拓真の姿。


「……だから、これはあなたのせい」


 観客がどよめく。


「私がまた、“乳を張るようになった”のは──あなたが、私を一度も否定しなかったからよ」


 涙が一滴だけ、リリアーヌの頬を伝った。


 だが、それは悲しみではなかった。

 感情が、誠実に揺れた証だった。


 拓真は立ち上がった。

 観客の誰よりも先に、拍手を送った。


 その音が、劇場全体を包み込む。


 ユーフィリア、エミリア、ソフィア、そしてクラリス──

 舞台裏に控えていたヒロインたちも、それぞれに揺れを抱きながら、その姿を見つめていた。


「私は、私を赦したい。そのために、あなたの目に映りたかった」


 リリアーヌはそう言い切ると、深く一礼した。


 その瞬間、劇場は嵐のような拍手に包まれた。

 断罪の舞台が、いつしか祝福の舞台へと変わっていた。


 ――


 幕が下りたあと、拓真は舞台裏へと駆け込んだ。


「リリアーヌ!」


 振り向いた彼女は、さっきまでの毅然とした姿とは違い、少し照れたように微笑んだ。


「やっと……私の揺れ、あなたに届いたかしら」


「……ああ。俺も、ずっと揺れてた。お前のことが……気になって、怖くて、でも目を逸らせなくて」


 沈黙。


 二人の間に言葉は必要なかった。

 ただ揺れる心と、微かな距離だけが、静かに時を刻んでいた。


 やがてリリアーヌが口を開いた。


「あなたの前では、私は……誠実でいたい」


「だったら……これからも、揺れてくれ」


 そう言って、拓真は手を差し出した。


 リリアーヌがその手を取った時、ふたりの胸が、確かに同じリズムで揺れていた。


 “誠実”という言葉が、今、このとき、彼女たち自身のためにあるのだと証明するように──。


(この物語はまだ終わらない。なぜなら、私たちはまだ……揺れているのだから)

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