【第76話】 『断罪劇、再演──リリアーヌ、再び“舞台”へ』
王都──冬の気配が忍び寄る午後。
曇天の下、かつてリリアーヌが“誠実乳”を掲げるきっかけとなった断罪の舞台──王都劇場に、多くの人々が再び集まり始めていた。
その理由はひとつ。
政治家主導の“模擬断罪式”の開催。
名目上は「誠実理念に対する文化的検証」。だが、その実態は保守派の“反誠実乳”勢力による見せしめ劇だった。
「同じ舞台、同じ椅子、同じ観客席……」
リリアーヌは劇場の裏口から静かに入り、天井を見上げた。
その目は、かつての自分を思い出していた。
王太子の婚約破棄。
笑い。
断罪。
だが、今のリリアーヌには、何かが違っていた。
「私は、恐れてない」
「この場所を、もう一度“選ぶ”ことが、誠実だと思えるから」
◆ ◆ ◆
劇場内部には、政界関係者、WIBS幹部、王太子アレクシスの姿もあった。
舞台中央に置かれた、あの椅子。
“断罪の座”。
静寂の中、司会者が宣言する。
「本日、模擬検証として“乳による社会形成の是非”を討議いたします。発起人は元誠実乳塾主宰──リリアーヌ・フェルミナス氏」
観客がざわつく。
そこに、ゆっくりと登場するリリアーヌ。
彼女は、あの日と同じ服を着ていた。
しかし、胸を張る姿勢には、揺らぎがなかった。
「……ええ、分かっているわ」
「この椅子が、どれだけの意味を持っているか」
彼女は椅子に座らず、あえてその横に立った。
「いいえ。私は“許されるため”に、ここに立ったんじゃない」
「私は、“私自身を選び直す”ために、この舞台に立ったの」
◆ ◆ ◆
司会者が問いを投げかける。
「貴女の理念は、社会に混乱をもたらしたと一部では言われています。どう思いますか?」
リリアーヌは答える。
「それでも、私は“揺れてもいい”って言える世界を作りたかった」
「完璧な乳なんて、ない。揺れない日だって、ある」
「でも、それでも自分の乳を選んで、明日も胸を張って生きていける社会──それを、私は信じてる」
◆ ◆ ◆
観客の中に、誰かが泣いていた。
そして、立ち上がった。
「リリアーヌ様……私、貴女に救われたんです!」
それは、かつての塾生。
彼女の一声で、他の者たちも次々と名乗り出る。
「“揺れる”って、誇りだって思えるようになったのは、貴女のおかげです!」
「私の乳が、小さくても、私のものだって言えるようになったのは──」
「ありがとう……」
劇場の空気が、揺れた。
誰も、彼女を断罪しなかった。
誰も、石を投げなかった。
ただそこにいたすべての人が、彼女を“見ていた”。
そして──“選び直していた”。




