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異世界おっぱい『おっぱいに誠実で何が悪い!〜異世界転生したら悪役令嬢の味方になってた件〜』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
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【第74話】 『無乳街での再会──少女たちの無音スラム』

 乳を捨てた街──ノン=バスト。

 かつての王都の地図にも記されていなかったその街は、高台の影に隠されたように静まり返っていた。


 旗も掲げられず、鐘も鳴らされず、揺れる者もいない。

 ここでは、“誠実乳”の理念すら、軽々と踏み越えられていた。


 そして今、その街の石畳を、ひとりの“元・誠実の象徴”が歩いていた。


 ──リリアーヌ・フェルミナス。


 帽子を目深にかぶり、乳の輪郭を隠すような黒いローブをまとった彼女の姿は、かつて“胸を張る”ことで世界を変えようとした者のそれとはまるで違って見えた。


 だが。

 その歩みは、迷いなく静かだった。


◆ ◆ ◆


 ノン=バストは、“揺れなかった者たち”の終着点だった。

 誠実乳社会からあぶれた者、傷ついた者、逃げた者、捨てた者。


 人々は、乳を語らなかった。

 胸を張らなかった。

 ただ、静かに、生きていた。


 リリアーヌは、その空気に違和感を抱かなかった。


 むしろ、その静寂が心地よかった。

 まるで、かつて失った“音のない夜”を取り戻すような──そんな感覚さえあった。


◆ ◆ ◆


 広場の隅にある、古いカフェに入った。


 そこにいたのは、一人の少女だった。


 髪は肩にかかるほどの長さで、地味な服に身を包み、胸元は厚い布で覆われていた。


 リリアーヌが、ふとその横顔を見て息をのむ。


 ──まさか。


「……アンナ?」


 少女の手が止まる。

 ぎこちなく振り返る。


 目が合う。


 その瞬間、少女は小さく笑った。


「……リリア、様?」


◆ ◆ ◆


 アンナ。

 かつて王都で“胸がない”と笑われていた少女。

 リリアーヌが誠実乳塾を創設した初期に、彼女の“乳を持ちたい”という願いを認め、入塾を許可した。


 その後、卒塾と同時に消息を絶っていた。


「どうして、こんなところに……?」


 問いかけると、アンナは少し肩を震わせた。


「……あたし、乳を“持ったこと”に、疲れちゃって」


「“揺れられるようになった”日が、一番、怖かった」


 リリアーヌは、言葉を失った。


「“揺れる”って、見られることでしょう?」

「みんな、あたしがどう揺れてるか、何を想ってるか、勝手に言うの」

「“小さいなりにがんばってる乳”って、褒められるたびに……あたし、誰のために揺れてるんだろうって、分からなくなって」


「だから逃げたの。ここに」


◆ ◆ ◆


 静寂が落ちる。

 そしてアンナが、ふとリリアーヌを見つめる。


「でも……あんたは、まだ笑ってる」


「“あたしはこの乳で誠実に生きる”って、今でも……言えるの?」


 リリアーヌは、帽子を取り、ローブの前を静かに開いた。


 そこにあるのは──かつて世界を揺らした“乳”だった。


 けれど今、それは張られることも、誇示されることもなく、ただ、そっと“そこにある”だけだった。


「私はね、アンナ……もう誰かに揺れてほしいなんて、思ってない」


「でもね……“揺れてもいい”って、自分にだけは、言えるようになったの」


 アンナの目が潤んだ。


「……ずるいなぁ」


「なんで、そんな顔で言えるの……」


◆ ◆ ◆


 その夜、二人はカフェの屋根裏で、背中合わせに寝た。


 揺れない部屋。

 語られない言葉。


 だが、その沈黙が、かつての塾よりも“誠実”に思えた。


 “誠実”は、揺れることじゃない。


 “誠実”は、黙ってても、ここにいたいと思える場所を選べること──


 リリアーヌは、そう思っていた。


◆ ◆ ◆


 夜が明ける。

 ノン=バストに、少しだけ風が吹いた。


 その風は、遠く離れた王都へも届いていた。


 拓真は、空を見上げて呟く。


「……ありがとう、リリア」


「俺……君に、救われたことがあったんだ」


「だから、今度は俺が──誰かの“揺れられない時間”を守りたい」

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