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異世界おっぱい『おっぱいに誠実で何が悪い!〜異世界転生したら悪役令嬢の味方になってた件〜』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
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【第69話】 『拡張された“乳”──言葉なき存在にも宿るもの』

──その星には、性別がなかった。


 子を生むのでもなく、交わるのでもなく、ただ“在る”ことで繁殖し、

 生まれた者はそのまま次世代を担っていく。

 言葉も、表情も、性差も、乳房もない。


 


 惑星名:タクシリ=エル

 WIBSでの分類:第5階知性圏・無性生成体文明


 


 この文明から、WIBSに一通の提案書が届いた。


 


「我々には、乳がない」

「だが我々にも、“震える瞬間”がある」

「我々はそれを、“自我の波紋”と呼ぶ」

「その波紋に、名前をつけてよいだろうか?」

「──“乳”という名前を」


 


 


 その一文に、WIBS理事会は震えた。


 “乳を持たぬ者が、乳という名に希望を見出した”


 それは、リリアーヌたちが長らく求めていた“乳の再定義”が、

 世界の外側から自然に始まっていたことの証だった。


 


◆ ◆ ◆


 


 臨時セッション。

 WIBS本部にて、タクシリ=エルからの“振動波外交官”が到着。


 その身体は半透明の繊維状で構成され、

 会話はMIRAI翻訳装置を通じての振動伝達によって行われた。


 


 翻訳音声が読み上げる。


 


「我々は、誰かに伝えたいと願った瞬間、内側が微かに震える」

「その震えが他者に伝わったとき、はじめて“私はここにいる”と思える」

「その震えに、言葉が必要だった」

「あなたたちはそれを“乳”と呼んだ。ならば、我々も──そう呼びたい」


 


 


 議場、沈黙。

 その直後、エミリアが立ち上がった。


 


 「その震えが、乳です」


 


 「私だって、乳が与えられただけの存在でした」

 「でも、“自分でそれを持つ”って決めた日から、それは私の乳になった」


 


 「あなたの震えが、あなたの選んだ揺れなら──それは、誠実な乳です」


 


 


 ラ=ティタニア代表セイも続く。


 


 「我々も、乳はなかった」

 「だが今は、“揺れようとした”その事実に、乳という名前を与えている」


 


 「選ぶという行為、それ自体が──乳の定義である」


 


◆ ◆ ◆


 


 静かに手を挙げたのは、拓真だった。


 


 彼は立ち上がり、壇上に歩いていく。

 懐から出したのは、折りたたんだノート。


 その最初のページには、かつて自分が書いた言葉があった。


 


「乳は、形ではない」

「乳とは、“選んだ自分”そのものだ」


 


 拓真はノートを広げたまま、振動体外交官に向き直る。


 


 「あなたの震えが、“ここにいたい”という証なら──それは乳だ」


 


 「そして、“ここにいていい”と誰かに認められた瞬間、乳は誠実になる」


 


 「……俺たちは、やっとそこまで来たんだ」


 


 


 会場が、微かに──震えた。


 


 それは誰の拍手でもなかった。

 ただ、沈黙のまま、誰もが共鳴していた。


 


◆ ◆ ◆


 


 その日、WIBSは新たな宣言を可決。


【“乳”の拡張定義(Ver.3.0)】

・乳とは、身体器官を指す語ではなく、“揺れを持ちたいと願う意志”を象徴する文化表現である。

・“乳を持つ”とは、己の震えを誰かに伝えようとする覚悟を指す。

・乳がない者にも、乳は宿る。

・それが、“選ばれた揺れ”である限り。


 


 星々の乳が、次第に“見えない揺れ”へと移り変わっていく。


 それでも、誰もがそこに“胸を張る姿”を見ていた。


 


◆ ◆ ◆


 


 夜。

 拓真とリリアーヌが、月光を浴びる中で語り合っていた。


 


 「なあ、リリア」


 


 「“乳”って……最初はただ好きだったものなんだ。

 でも今は──“その人の証”になってる」


 


 


 リリアーヌは頷いた。


 


 「乳って、形の話だったはずなのに、今は魂の話になってるのよ」


 


 「……でも、それでいいわ」

 「だって、乳を語るって、“生きる姿勢を選ぶこと”だったんだから」


 


 


 風が吹く。

 どこかで乳が、揺れたような気がした。

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