【第7話】 『偽乳の女神VS乳神の使徒』
──王立乙女育成学園に異変が起きていた。
「……最近、あのポーション使ってみた?」
「うん、使ったら一週間でワンカップ上がったの! しかも揺れるのよ、ちゃんと!」
「ええっ、本当!? どこで手に入るの!? 教えて!」
それは、ひそやかに広まる“禁断の秘薬”。
──通称【美乳促進ポーション】。
飲めば、乳が育つ。形が整う。揺れ方が理想になる。
さらには「触ったときの感触まで本物そっくり」と評判で、上級貴族の女学生たちの間で爆発的な人気を誇っていた。
だが、それは異常だった。
「……なんか、やけに乳の波動が不自然なんだよな」
食堂の隅でスープをすすりながら、如月拓真は唸った。
“乳眼”によれば、最近すれ違う女生徒たちの乳は、すべて「同じ揺れ方」をしている。
成長の方向、弾力、張り……それぞれが本来なら個性に富んでいるはずなのに、
今の学園の乳は、まるで**同じ原型から成型されたような“規格乳”**だった。
そこに現れたのは、カフェ制服姿のリリアーヌ。
「やっぱり“見てた”のね」
「いや、違うって! ちゃんと乳眼スキャンしてただけで……!」
「何が“だけ”なのよ……まったく」
ふたりが並んで歩きながら、小さく話す。
「最近、薬局の卸先が急に変わったのよ。“とある新興薬商人”がバックについてるって話」
「そのポーション、どこが流通元なの?」
「……聞いた話では、**王都でも名門の貴族家──“アルセリーナ侯爵家”**よ」
「アルセリーナ……!」
それは、かつてリリアーヌが婚約破棄された際に並んでいた“王子の新恋人”──ユーフィリア・アルセリーナの実家だった。
◆ ◆ ◆
そしてその日の午後、拓真は“学園内特別調査権”を行使し、
学園の薬草温室に繋がる秘密の実験室へと足を踏み入れた。
「ようこそ……如月拓真さん」
そこに待っていたのは、銀髪の美少女。
優美な微笑みを浮かべる──ユーフィリア・アルセリーナ本人だった。
「久しぶりね。あの婚約破棄以来かしら? 今度は何をしに来たのかしら。私の乳を調査?」
「いえ……今日は、“あなたが流通させてるポーション”の話を聞きに来ました」
「ふふ、やっぱりあなたも……私の乳に興味があるのね」
ユーフィリアは、ドレスの襟元を少しだけ緩めてみせる。
形も大きさも完璧な乳房が、淡く揺れた。
だが、拓真は一歩も動かない。
「……それは、“偽乳”だ」
静かな声。
その瞬間、ユーフィリアの笑みが凍る。
「乳眼に映る。君の胸は、確かに綺麗だ。でも……揺れない。感情と連動してない」
──魔法と薬で“美しい形”は作れても、“想い”までは宿せない。
それが、乳眼の見抜く“本質”だった。
「なぜこんなことを?」
「だって、世の中の男なんて“見た目”しか見てないでしょう?」
ユーフィリアはあっけらかんと微笑んだ。
「女がどんな思いをしても、どんな努力をしても、結局は胸のサイズでしょ?」
「だから私は、“理想の乳”を作ったの。全員が完璧な乳になれば、誰も苦しまないわ」
「……違うよ」
拓真はゆっくりと、彼女の言葉に首を振った。
「俺は……中身も外見も見る。特に乳は、誠実に見る。」
「……あなた、変わってないのね」
「変わらないさ。だって、俺が愛してるのは、“胸を張って生きる人の乳”だから」
静かな沈黙。
だが──
「……やっぱり、あなたは邪魔ね」
ユーフィリアの手が動いた。
魔法陣が床に展開され、ポーションの蒸気が一気に室内に噴き出す。
「これが“乳幻想波”。これを吸えば、あなたの乳眼さえ……」
「甘いよ」
拓真は、乳神からの加護を込めた一言を放った。
「乳眼、起動──“誠実判定モード”!!」
その瞬間、彼の視界が反転する。
乳の色、重力、振動、香り、鼓動の連動、
すべての“乳要素”を多層解析する“絶対視界”が展開され──
「ユーフィリア……君の乳には、優しさがない。張っても、弾んでも、誰かを包む意思がない!」
「う……あああああっ……!!」
乳幻想波が破られ、魔法陣が崩壊する。
ユーフィリアはその場に膝をついた。
「……なぜ、そんなに真っ直ぐでいられるの……」
拓真は、ゆっくりと近づいて言った。
「だって俺は、“乳神様に誓って”生きてるから」
◆ ◆ ◆
その後、偽乳ポーションは全学園から回収され、ユーフィリア家には厳重注意が入った。
リリアーヌは、横で全報告を聞き終えたあとで言った。
「……ほんとに、バカなのね」
「褒め言葉です」
「でも……あなたがいてよかった」
彼女は、そっと胸に手を当てて──
「やっぱり、これでよかったのよね。誰の目を気にしなくても、“自分を誇れる乳”でいたいの」
「それが一番、綺麗だよ」
ふたりの間に、静かな風が流れた。




