【第6話】 『おっぱいと政略のはざまで──学園潜入任務』
──その学園は、王都の北、丘の上に静かに佇んでいた。
【王立乙女育成学園】。
王族・貴族の娘たちが通い、社交・魔導・礼儀・乳育(※一部実在)を修める、由緒ある乙女学園である。
「……なあ、これほんとに俺が行くの……?」
拓真は、騎士団本部の窓際で首を傾げていた。
手にした書状は、正式な任務指令──
《乳詐欺潜入犯捜索。潜入先:サン・ミネルヴァ乙女学園。乳眼能力者を派遣せよ》。
「これ、完全にハニートラップじゃないですか」
「安心しろ。男子が学内にいるのは前代未聞だが、あくまで“監視目的の特例措置”として許可が出ている」
と答えたのは、第三調査部隊長・ガロ少佐である。
「よいか、拓真。お前は今や“国家乳眼官”。この国の胸の平和を守るため、私たちはお前に全てを託す」
「……それを真顔で言えるあなたが一番すごいと思います」
「ちなみに、内部協力者をひとり用意している。学内の喫茶部門スタッフに、心強い者がいるはずだ」
──そして翌日。
「というわけで、如月拓真、乙女学園に潜入します……」
騎士団の特殊制服から、貴族男子風の正装へ。
魔導付き眼鏡と身分偽装魔法により、彼は“王都の名もなき侯爵家の末弟”として送り込まれた。
「男がいるって、ほんと?」
「でも……ちょっと格好いいかも……」
「でも変な噂もあるわ。“胸を見ただけで全てを暴く”とか……都市伝説じゃないの?」
女学生たちの視線が、毎日刺さる。
だが彼の目は──常に、乳に向けられていた。
「……昨日の子はナチュラル。乳眼反応なし。今日の子は……揺れが人工的! くっ、幻惑魔法か!?」
「ちょっと、あの男子……乳を“測って”るような目してない!?」
「キャー変態ー!!」
騒動が起きるたびに逃げ回り、教室で“乳成分感知図”を描く日々。
そして、ある日の昼休み──
学園のカフェ《ル・ラパン・ルージュ》を訪れた拓真は、絶句した。
「いらっしゃいませ──って……」
そこに立っていた制服姿の店員、それは──
「リリアーヌ!?」
「………………なぜあなたがここにいるの!?」
「いやいやいや、こっちのセリフ!!」
まさかの再会に、場が凍る。
「っていうか、なんで君が学園カフェで働いてるの!? ここ、貴族令嬢の学び舎だよ!?」
「王立機関の副業紹介を通じて採用されたのよ。あなたが変態行為をしないように“監視役”としてね!」
「そんな……乳神様、俺を見捨てないで……!」
カフェの裏に呼び出された拓真は、リリアーヌにしっかり説教を喰らっていた。
「仮にも騎士団官職に就いたなら、もう少し振る舞いをわきまえなさい! おっぱいしか見てないとか……何考えてるのよ!」
「いや、俺は乳の正義を見抜くために……!」
「そういうところよ!!」
しかし、彼女は小さく笑う。
「……でも、少しだけ安心したわ」
「え?」
「あなたは、やっぱり変わってない。“胸に誠実なまま”なのね」
「……リリアーヌ」
「バカ」
その言葉に、どこか照れくさそうに彼は笑った。
だが──それを遠くから見ていた、生徒会の少女がひとり。
金の瞳を細め、不穏な気配を纏いながら、静かに呟く。
「……あれが、乳眼の使い手──如月拓真。やはりこの学園に送り込まれたか」
そして彼女の胸元には──**完全無音で揺れない、“魔法で構成された乳”**があった。




