【第52話】 『揺れない誠実の証明──新MILIT-BUST、登場』
──ラグリス王国より東、旧ゼル帝都の一角に広がる《統制軍事区画：第7工廠》。
その日、灰鉄の空の下、極秘裏に招かれた各国高官たちが、次世代型乳制御ユニットの初公開に立ち会っていた。
プロジェクターに浮かび上がるその名は──
【MILIT-BUST Project】
→ 最新制御型ユニット：《TYPE-Ø（タイプ・ゼロ）》
かつて乳の揺れを“美”とし、“誠実”を目指した旧型とは異なる設計思想。
TYPE-Øは、“揺れないことで、内面の均衡と意志を完全伝達する”という真逆のコンセプトを掲げていた。
その開発と思想を統括したのが、前任クラヴェル博士に代わって台頭した軍事整序派の冷徹な指導者──
リオン准将
・年齢不詳。白銀の義眼と機械心音を持つ管理主義者。
・かつて戦地で“乳に揺れた判断”によって仲間を失った経験を持つ。
・信条：「誠実とは、感情を超えた静謐である」
◆ ◆ ◆
TYPE-Øのデモンストレーションが始まる。
登場したのは、無色のボディスーツに身を包んだ、表情のないユニット少女。
揺れはない。呼吸さえ、乳の輪郭を曖昧に保つほど一定。
だが、彼女の両目に仕込まれた神経魔導投影機が、ホログラムに感情波形を映し出す。
【感情発信開始】──
「私は怒っている」
「私は誇っている」
「私は拒絶している」
「私は誠実である」
観客たちがどよめく。
“胸は一切動いていない”。だが、その心情は確かに“表示”されていた。
リオン准将は言う。
「翻訳はもう不要だ。揺れを通すから誤解が生まれる」
「我々は、感情と肉体の間に“制御”を挟むことで、完全な誠実を実現した」
「それが、TYPE-Ø。“沈黙の誠実”を体現する、最初の乳兵”」
◆ ◆ ◆
──その報せは、すぐにラグリス王国・誠実乳育成塾にも届いた。
作戦室にて映像を見終えた拓真は、眉をひそめる。
「……確かにすごいよ。誠実に“見える”。揺れなくても、感情は伝わってるみたいだ」
「でも……それ、本当に“伝えてる”のか？」
彼の言葉に、ユーフィリアが首を傾げた。
「どういう意味？」
拓真は、拳を軽く握る。
「“感じ取られる”と、“伝える”は違う」
「TYPE-Øは、ただ“反応を計測して、表示してる”だけだ。
それって、“乳の意味”を通して、心を届けることと同じなのか？」
リリアーヌが静かに言う。
「……彼らは、“揺れが混乱を呼ぶ”って思ってる。
でも私は、“揺れた混乱の中でこそ、人は本音を探せる”と信じてるわ」
「誠実は、そんなに整ってないの。もっと、震えてて、ぐちゃぐちゃで、でも──あたたかい」
◆ ◆ ◆
翌日。MILIT-BUST広報は、TYPE-Ø導入国の募集を開始。
それと同時に、“誠実翻訳教育”が混乱を生んだとしてラグリスの塾教育を非難する声明を発表。
「感情を揺らし続ける教育は、国家倫理を破壊する」
「“共感の暴力”ではなく、“構造的誠実”が秩序を守る」
「乳に意味を託す時代は終わった。これからは“乳を機能として扱う時代”である」
◆ ◆ ◆
塾の夜。静まり返る談話室。
拓真は自分のノートにこう書き込む。
> 『誠実とは、表示するものか？ それとも、伝える努力の過程か？』
その背後で、リリアーヌが言う。
「TYPE-Øに“伝わる”ものがあるなら、それはそれでいい」
「でも、私は“触れたくなる乳”にこそ、誠実を感じるの」
「揺れも、迷いも、戸惑いも、全部含めて“人間の乳”でしょ？」
「……なら、私たちは“未完成な誠実”を、守らなきゃいけない」
