表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/104

【第51話】 『翻訳された誠実に、揺れぬ者たちの影』

──国際揺動文化会議(IBC)閉幕から七日後。

 ラグリス王国は“世界に最も乳が翻訳された国”として注目を集めていた。


 


 王都では市民による「乳の表現宣言」の提出件数が一日で五千件を突破し、

 教育庁は緊急の法整備を進め、ついに国家公認教科として**《乳文化と誠実》**が高校課程に組み込まれることが決定。


 


 各国でも動きは加速していた。


 


 ・セリオス王国:公立校で“揺れ自己紹介”導入

 ・ミューリス=エール共和国:義乳授業の権利化

 ・裸乳文化圏ナマク連邦:“揺れによる詩”が国民的芸術に昇格


 


 世界は、揺れを“翻訳し合う文化”に歩みを進めていた。


 


 ──だがその一方で。


 


 ある揺れない者たちの台頭が、静かに始まっていた。


 


◆ ◆ ◆


 


 ──東大陸・統一工廠区域ゼル・カムナ

 MILIT-BUST中央研究機関。


 


 ここでは、揺れを制御し、美学と規律で構成された“無感情乳兵”の研究開発が続けられていたが──

 近年、改革派のクラヴェル博士が“翻訳可能な乳”への歩み寄りを試みて以降、

 内部では**「揺れない誠実」の擁護派=純粋制御派**が力を持ち始めていた。


 


 彼らの主張は、こうだ。


「乳に感情を宿せば、翻訳不能な暴力が拡がる」

「“翻訳”は心を乱す“ノイズ”を生むだけだ」

「誠実とは、個性ではなく“秩序”を守ること」

「揺れとは不安定。誠実には“揺れない心”が必要である」


 


 新たに台頭した人物──リオン准将は、表情を変えずこう言った。


 


 「世界は“揺れを許す寛容”によって乱れつつある。

 翻訳という手段は、価値観の曖昧化を加速させた」


 


 「ゆえに、我々は**“翻訳されない誠実”を取り戻す**」


 


 彼の言葉に頷いた者たちは、TYPE-Ø(ゼロ)と名付けられた乳兵ユニットの訓練場へと向かう。


 


◆ ◆ ◆


 


 ──王都・誠実乳育成塾。


 


 リリアーヌは最新の各国報告資料を前に、沈黙していた。


 世界中で“翻訳された揺れ”が喜ばれていたはずの空気は、

 一部地域で“無秩序な扇動”と報じられ、再び揺れる自由が“抑えるべき衝動”に見なされつつある。


 


 「……これは、“揺れの反動”ね」


 


 彼女は立ち上がり、書棚からIBC記録書簡の第1条を取り出す。


 


 > “誠実は、揺れの形式を問わない。だが、それが誰かを傷つけるなら、翻訳されなければならない。”


 


 「翻訳が、誰かの心を乱した。

 でもそれは、心が“揺れた”ってことでしょう」


 


 「だったら今度は──“沈黙”そのものと、対話する番よ」


 


 彼女の目に、決意が宿る。


 


◆ ◆ ◆


 


 夜。拓真とユーフィリアも集まり、塾内の作戦室で会議が開かれる。


 


 「TYPE-Øは危険だ。揺れないことを正義にし始めてる」


 拓真は語気を強める。


 


 「“翻訳不能な誠実”って、つまり“説明しなくても従え”って言ってるのと同じだ」


 


 ユーフィリアは静かに呟いた。


 


 「……でもそれ、本当に“沈黙”なのかな?」


 


 「“揺れない誠実”にも、理由があるはずなのよ」


 「私たちが“揺れ”を翻訳してきたように、“沈黙”も翻訳しなきゃ──

 対話のない沈黙は、ただの拒絶になってしまう」


 


 その言葉に、リリアーヌは大きく頷いた。


 


 「沈黙には、沈黙の揺れがある。

 それを“聞く”ための、まったく新しい言葉が、今、必要なのよ」


 


◆ ◆ ◆


 


 そして、翌日。


 ラグリス政府は、国際声明を発表した。


「我が国は、“揺れる誠実”と“揺れない誠実”が、共に並び立つ場を提案します」

「今後、TYPE-Ø陣営代表を招き、《沈黙誠実対話会》の開催を希望します」


 


 声明に対し、MILIT-BUST広報官はこう返す。


 


 「誠実に対話の必要はない。

 “完全な沈黙こそ、誠実の証明”である。」


 


◆ ◆ ◆


 


 その夜、リリアーヌは静かに胸に手を当てて言う。


 


 「聞こえない声を、聞こう。

 揺れない乳に、“揺れたがっている心”があるのなら──」


 


 「それを翻訳するのが、今の“私たちの誠実”」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ