【第45話】 『美乳民族と裸乳部族──世界の乳地図、更新される』
──王都・国際揺動文化会議(IBC)第5日目。
朝から各国代表たちの間でざわめきが広がっていた。
この日開かれたのは、討議ではなく展示。
IBC主催による特別企画──
【世界乳文化マッピング展】
「BUST ATLAS:世界の乳は、どこに、どう揺れるのか」
世界27ヶ国・地域から提出された“乳文化報告書”を基に、
揺れ方・隠し方・見せ方・育て方・祀り方に関する民族的・宗教的・制度的差異を図式化。
揺れとは何か?
張るとはどういうことか?
その問いに対して、それぞれの国が自分の乳を定義しようとした記録がそこにあった。
◆ ◆ ◆
広大な展示ホールの中央。
その床には魔導ホログラムによって浮かび上がる**《乳文化地図》**。
来場者は乳文化の地域的傾向を“揺れの色”で一望できる。
・蒼(冷静乳圏):揺れは「制御された感情表現」とされる(例:MILIT-BUST連盟)
・紅(熱帯揺動圏):揺れは「生命力の顕現」として誇る(例:サマリナ裸族連合)
・灰(沈黙乳帯):揺れないことが「徳と品性」の象徴(例:ヴァルト=エン州)
・金(信仰揺動帯):乳を「神の恵み」として祀る文化(例:ナマク族、揺霊信仰部族)
王都の市民、各国使節、報道関係者が、足を止め、ただ地図に見入る。
「……同じ“乳”なのに、どうしてこうも違うんだろう」
「“揺れ”って、こんなに多様な感情や意味を持ってるんだ……」
乳という“普遍的に見えるもの”が、いかに文化的に異なるかが、視覚的に暴かれていた。
◆ ◆ ◆
その中でも注目されたのは、南西海洋に浮かぶ小国《エル=ミレイ》の展示。
この国では、全住民が上半身裸で生活することが礼儀とされ、
「衣で乳を隠すことは、嘘を隠すことに等しい」という裸誠実主義が採用されている。
そのため、彼らにとって“揺れ”は正直者の証。
“揺れない乳”は逆に「疑いの印」とされる。
現地代表は語った。
「我々にとって乳は、“心がいまどう動いているか”を映す、呼吸のようなものなのです」
この文化がラグリスでも紹介されるや否や──
市民の一部では“揺れ表現の自由”を追求する裸乳主義運動が勃発するなど、新たな思想運動も萌芽し始めていた。
◆ ◆ ◆
一方、展示会場の片隅。
リリアーヌは、揺動地図の前で足を止めていた。
彼女の隣に立つのは、言語翻訳士と乳文化通訳の見習いを兼ねる拓真。
「……すごいね、この地図」
「うん。でも、見てるとちょっと怖くなるわ」
「どうして?」
リリアーヌは、微笑みながら答えた。
「“正しさ”の形が、こんなに違うってわかると──
“自分の乳が間違ってるかもしれない”って不安になる人もいると思うのよ」
「だからこそ、私は言いたい」
彼女は、展示の中心に歩み出て、来場者へ語りかけた。
「この地図は、“比べ合うため”にあるんじゃないんです」
「共に揺れるためにある。それが、誠実乳理念の核心です」
「世界中の乳が、“違う理由で誠実になれる”と信じてる」
「だから、どんな乳も──“揺れる理由”があるなら、それは尊重されるべきなんです」
拍手が起きる。
異文化の代表たちが、うなずき、ある者はその場で自らの乳に手を当てた。
そこには、言葉の壁も、宗教の戒律もなかった。
ただ、**「私の乳は、こう在りたい」**という願いだけが共有されていた。
◆ ◆ ◆
夜。展示会終了後、エミリアがふとつぶやく。
「ねぇ、拓真。……地球儀より、こっちの“乳地球儀”のほうが、ずっと重く見えた」
拓真は頷く。
「世界は、いま乳で“揺れ始めてる”んだな」




