【第43話】 『開かれる国際乳会議──誠実は共通語か?』
──ラグリス王都・新議政館。
その日、歴史に残る会議が幕を開けた。
《第1回 国際揺動文化会議》
IBC(International Bust Conference)
テーマは明確であり、同時に曖昧だった。
「誠実乳は、世界共通の価値たり得るのか?」
参加国は27ヶ国。
王制、共和制、神権体制、部族連合、企業主導の超資本国家まで、立場も価値観も異なる国家が集まった。
議場の中央には、ラグリス代表としてリリアーヌ・グランディールが座る。
その隣に控えるのは、教育担当補佐・如月拓真。
そして対席には、あの存在がいた。
──MILIT-BUST陣営代表:クラヴェル博士。
無表情の乳兵ユニットを伴い、精密な乳美工学理論と「揺れの再定義」による“誠実無感情主義”を掲げている。
◆ ◆ ◆
開幕演説は、各国の文化代表から始まった。
南海の詩歌連邦代表:「乳とは、“心の鳴りやまぬ詩”である。だが詩は、他国語では伝わりづらい」
神政国オルシア代表:「揺れる乳は誘惑の象徴とされる。我が国では“乳を伏せることで敬虔を示す”」
砂漠連合バフラム代表:「乳は家系を伝える聖器とされる。揺れは“血の波紋”を意味する」
会場には静かで、しかし圧倒的な空気が流れていた。
その中、ついにMILIT-BUST陣営代表・クラヴェル博士が立ち上がる。
「私どもは、誠実という概念に対して科学的観察を重ねてまいりました」
「“揺れ”に人格を投影することは、社会的混乱を生む要因となり得ます」
「ゆえに、我々は**“制御された揺れ”こそ、国家間の乳文化交流の最適解**と判断しております」
「乳に心は要らない。統一された揺れで、世界は繋がる」
発言の後、しばらくして拍手が上がった。
だがそれは、納得というよりも“圧倒された沈黙”に近かった。
◆ ◆ ◆
リリアーヌは、深く息を吸った。
胸の中心が微かに震える。
「……たしかに、“揺れ”は人を不安にさせます。
でも、不安があるということは、対話の余地があるということです」
「揺れは文化です。文化であるなら、“翻訳”ができるはず」
場内がざわつく。
「私たちは、言語が違っても、互いの言葉を訳し合ってきた。
ならば揺れだって、“その人が何を伝えたいのか”を感じ取る努力ができるはず」
「私の国では、揺れることは“選んだ意志の象徴”です」
「でも別の国では、揺れないことが“尊厳”だったりする。
大事なのは、“揺れの形”じゃない。“その揺れに何が込められているか”」
「私たちは揺れを、心の言葉として扱っています」
「言葉が翻訳できるなら、乳もまた、翻訳できると信じています」
沈黙。
誰もが、“言葉ではない何か”が通じたような気配を感じた。
◆ ◆ ◆
閉会後の記者会見。
リリアーヌの“揺れの翻訳”という表現は、各国の報道で波紋を呼ぶ。
『乳は文化、文化は対話──新たな概念“揺動翻訳”がIBCで提唱』
『誠実乳、国際言語への第一歩か?』
『MILIT-BUSTに揺れず、ラグリスの乳が世界を揺らした夜』
会議翌日、MILIT-BUST側の代表団が非公開でラグリス側に接触し、
「“制御された揺れ”と“意志ある揺れ”の混合モデルに関する共同研究」を打診してきたという未確認情報が飛び交った。
◆ ◆ ◆
その夜、リリアーヌと拓真は塾の屋上にいた。
「通じると思わなかった。……揺れって、もっと孤独なものだと思ってた」
拓真は、星空を見上げながら言った。
「揺れはたしかに孤独だけど、翻訳する意志があれば、誰かに届く」
「きっと、これが“誠実乳の国際化”の始まりだな」




