【第4話】 『乳判定士、爆誕──騎士団にスカウト!?』
──それは、ある日の昼下がりだった。
王都の広場にある、古書店の裏通り。
その日も、如月拓真は“乳眼”の訓練に勤しんでいた。
「……この感触……ナチュラルCカップ、やや右寄り、弾力に若干の左右差あり。左右の皮膚張力の微妙な差からして、日々の姿勢に問題があると見た!」
「お客様っ!? お買い上げ前に抱き枕を揉むのはやめてください!!」
「す、すいません!! 職業病でついッ!!」
そんな拓真の周囲には、奇妙な噂が広がりつつあった。
「ねぇ、あの東の通りの雑貨店に来る男の子、知ってる?」
「“乳を見るだけで本性を見抜く”ってやつでしょ?」
「実際、先週の社交サロンで令嬢の乳詐称が暴かれたのも、あいつの乳眼だって……」
──そしてその噂は、とうとう国家機関にまで届いてしまった。
◆ ◆ ◆
「貴様が……“乳眼の使い手”か」
「は……はい」
拓真は今、王都騎士団本部の応接室にいる。
真正面に座るのは、鋼の鎧をまとい、顔に十字の傷を持つ男。
ラグリス王国騎士団・第三調査部隊長──ガロ・クラウス少佐である。
「この度、貴様の能力を確認すべく、我が部より正式な依頼が下された。内容は──“偽乳詐称事件”の調査・摘発だ」
「い、偽乳!?」
「……そうだ。魔法により乳房を一時的に誇張・変形させ、貴族子弟との縁談に悪用する事例が急増している」
「なんてことだ……!」
「被害者には、王族筋も含まれている。我が国の威信に関わる。君の能力──“乳眼”に期待している」
「了解しました。全力で揉……いや、見抜きます!!」
「……頼もしいのか、不安なのか……」
こうして拓真は、異例の任用を受ける。
騎士団特別技能職《乳判定士》として、正式に任官された。
◆ ◆ ◆
初任務の舞台は、王都の上流貴族が集う“エーデル社交倶楽部”。
中でも最も注目されているのが、侯爵家の令嬢──マルセリア・フォン・カレッサだった。
「彼女の乳は完璧よ。まるで芸術作品のよう……でも、だからこそ怪しいの」
「最近“急成長”したらしいわ。しかも家族は“誰も知らなかった”って」
そう──この事件は、単なる外見詐称ではない。
家柄・地位・名誉をかけた、“乳の信頼”の裏切りだった。
「ご紹介いたします。こちらが、王国乳判定官・如月拓真殿です」
「…………誰?」
社交場に通されると、煌びやかなドレス姿の貴族たちが次々と視線を投げてくる。
その中心に、いた。
ふわりと舞う金の巻き毛。妖艶なドレス。その胸元には、もはや芸術としか言えぬカーブがあった。
「あなたが……噂の、乳判定官?」
「はい。あなたの胸、その真実を見させてください」
「まぁ、そんなに見つめて……いやん♡」
周囲の空気がざわつく中、拓真は“乳眼”を発動する。
その瞬間、視界が“乳構造解析視界”に変化。
構造、重力配分、皮膚と布地の摩擦率、熱の通り方──
……そして。
「っ……これは……整形魔法、ですね」
「なっ……!」
「“成形持続型幻術”です。第六魔導領域、官能幻想術に分類されるタイプ。ここまで精巧に再現できるのは、高度な調香術と融合したケース……!」
「うそ……うそよ……!」
マルセリア嬢は膝をつく。
「なぜ……どうしてバレたの……!?」
「あなたの胸は、確かに綺麗でした。けど──揺れ方が、感情に連動していなかったんです」
乳は、嘘をつかない。
だが魔法で作られた“偽乳”は、心と連動しない。
人は驚いたとき、動揺したとき、羞恥を感じたとき、
その胸もまた“微妙な震え”を見せる。
だがマルセリアのそれは、“整った美しさのまま、一度も感情を揺らしていなかった”。
こうして、事件は解決した。
マルセリア嬢は爵位剥奪・縁談破棄処分。
被害に遭った若き男爵子弟は、破談に涙しながらも、拓真に感謝を述べた。
「おかげで……本当の恋愛を探せる気がします。ありがとう、乳眼様……!」
そしてその夜、拓真はリリアーヌの元に帰った。
「……で、今日はどこの乳を見てきたのかしら?」
「ち、ちがうってば! 任務だったんだって!」
「ふぅん……誠実、ね。言ったわよね、“私の胸に誠実でいなさい”って」
「もちろんです!」
リリアーヌは、ふっと微笑んだ。
「なら……あなたの“乳騎士物語”、もう少しだけ見てあげるわ」
その胸には、誇りがあった。
そして彼の中にも、胸に誓った使命が、確かに芽生えていた。




