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異世界おっぱい『おっぱいに誠実で何が悪い!〜異世界転生したら悪役令嬢の味方になってた件〜』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩
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【第38話】 『乳の亡霊──ユーフィリアの選択』

──ラグリス王国・軍都セディア、第零戦略研究区画。


 


 その場所は、王都から遠く離れた静かな丘陵地にある。

 だが今、国家の未来を決する研究が、ここで静かに、冷ややかに進められていた。


 


 白く無機質な廊下。

 均一な照明。

 そして、揺れの気配さえ感じさせない、抑制された空間。


 


 そこに、ひとりの少女が足を踏み入れる。


 


 ――ユーフィリア・アルセリーナ。


 


 かつて王太子妃とされ、誠実乳革命の波に沈み、

 今はどこにも属さず、どこにも居場所を持たない“揺れなき者”。


 


◆ ◆ ◆


 


 「よくいらっしゃいました、ユーフィリア様」


 


 迎えたのは、MILIT-BUST開発主任であり、

 ヴァネッサ公爵の秘蔵子弟と噂される男──クラヴェル博士。


 


 「貴女の乳に宿る制御性と審美性は、統計的にも我が機関における理想的データに近似しています」


 


 「誠実乳? 感情? 揺れ? それらはこの国の“誤作動”に過ぎません」


 


 彼はタブレットを見せる。

 そこには、MILIT-BUSTに登録された乳兵ユニットたちのプロファイルと、ユーフィリアの過去の公務データが並べられていた。


 


 「あなたの乳は、感情より“機能”に向いています」


 


 「人を導き、動かす象徴として──本来、揺れない乳こそが最も美しいのです」


 


◆ ◆ ◆


 


 ユーフィリアは、静かに答えた。


 


 「……私はずっと、そう言われてきました」


 「整っていれば、誰かに安心を与えられる。

 揺れなければ、誰かの不安を鎮められる」


 


 「“揺れないこと”が、私の役割なんだって……」


 


 だが彼女は、その言葉のあとに、小さく続けた。


 


 「でも、それは“誰かにとっての乳”であって、私自身の乳じゃなかった」


 


 「私が“揺れない”のは、心がないからじゃない」


 「まだ──自分の乳を、選べてないだけ」


 


◆ ◆ ◆


 


 数日後。

 誠実乳育成塾・玄関。


 


 その場に突然、ひとりの姿が現れた。


 風に揺れる銀髪。

 完璧な姿勢。

 しかし、どこか迷いの色を残すその瞳。


 


 ──ユーフィリアだった。


 


 生徒たちが騒然とする。

 「えっ、あのユーフィリア様!?」「MILIT-BUSTに行ったって……!」


 


 リリアーヌが、静かに歩み寄る。


 


 「ここは、整った乳にとっては居心地が悪いかもしれないわよ」


 


 ユーフィリアは、小さく笑った。


 


 「でも、“整っている”って、自分で決めたわけじゃなかったから」


 


 「私、自分の乳がどんなふうに揺れるのか……

 これから、ちゃんと見てみたいの」


 


 その瞬間、リリアーヌは微笑んだ。


 


 「ようこそ。“あなたの乳”を選ぶ場所へ」


 


◆ ◆ ◆


 


 その夜、ユーフィリアは屋上に立っていた。


 風が吹いていた。

 これまで“揺れてはいけない”と信じていた胸が、

 ほんの少しだけ、ふるりと動いた気がした。


 


 「私の乳は、まだ“語れる言葉”を持っていない」


 「だからこそ、ここで──それを見つけたい」


 


 遠くで揺れる灯のように、彼女の瞳もわずかに光を帯びていた。

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