【第31話】 『祝福の影──暴走する誠実』
──ラグリス王都・商業区《オルレアン通り》。
乳神像の正面、以前まで果物市が開かれていた広場に、
見慣れぬ看板が立ち並んでいた。
『貴女だけの誠実、揺らしませんか?』
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『“本物の張り”をご提案!』
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『我こそが誠実な乳魂を鍛える唯一の塾です!』
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拓真は目の前の“乳景”を見て、頭を抱えた。
「……なんだこの……揺れすぎた商魂は……!」
まるで火のついた草原のように、
“誠実乳”の名を冠した店や団体が、王都のいたる所で乱立していた。
商標登録されていなかった理由は、そもそもが「誰の乳にも誠実であってほしい」という理念だったため。
だが、その善意が、逆に混沌を呼び込んでいた。
「拓真、見て。これ、新聞の折込広告……“誠実乳ランキング”って……何よ、これ」
リリアーヌが呆れ顔で差し出した紙面には、乳の揺れ・張り・信念の“数値化”がなされた表が載っていた。
「リリアーヌ様:誠実スコア98.5点」
「ユーフィリア様:同スコア94.2点」
「エミリア様:揺れは強いが誠実度不明──83.1点」
「……これが、私たちが目指した“誠実”の姿……なのかしら」
◆ ◆ ◆
一方、乳育塾本部では塾生から悲鳴のような声が上がっていた。
「近所の人に“あなたたち、あのインチキ育乳塾と同じ系列?”って聞かれました!」
「うちの親、“誠実乳マルチ商法”に引っかかって、乳マグカップ10個買わされました……!」
「“誠実乳鍛錬法”って……誰だよ勝手に本にしたやつ!!」
拓真は手元の報告書を見ながら唸る。
> 《誠実乳》を冠した新規団体:王都内だけで【42件】
> うち無許可運営:35件
> 認可審査待ち:7件
> 模倣塾による誤認被害:多数
「……これはもう、**“誠実のインフレ”**だ……」
彼は天を仰ぎ、思わずボヤく。
「皆が乳を張るようになったら……誠実が、通貨みたいに薄くなるなんて、誰が予想した!?」
◆ ◆ ◆
その頃、王宮の広報庁でも混乱が発生していた。
「王室は“公式誠実乳支援”を行っているのですか?」
「公務員採用時に“揺れ評価”があると聞いたが、本当ですか?」
「“王の乳派閥”とは具体的に何を意味するのか?」
あらぬ誤解と都市伝説が市中に飛び交い、
王太子アレクシスも「俺は……象徴の意味を……誤って拡散してしまったのか……?」と壁を殴る始末である。
◆ ◆ ◆
そして決定的な事件が起きたのは、その夜だった。
誠実乳育塾の門の前に、“名もなき一団”が押し寄せた。
彼らの胸にはバッジ──
【真誠義団】
「貧乳は誠実ではない」「揺れなき乳は信用できない」
「“誠実乳”を自称するなら、揺れで証明しろ!」
「形じゃない? 心だ? ならその乳で俺たちを泣かせてみろよ!」
明らかに暴力的なノリで押しかける過激派。
それに対し、リリアーヌが静かに立ち向かう。
「……あなたたちは、“誠実”を名乗っているけど──誰よりも不誠実よ」
「揺れの有無で誰かを測る。乳の形で人を値踏みする。
それは、あの頃私がされたことと、何一つ変わらない」
「“誠実”は、他人の乳を否定するための旗じゃない。
自分が胸を張るためのものよ。」
その言葉に、一瞬だけ静まりかえる一団。
だが、その場では収束せず、王都各地で“誠実”を名乗った誤解と混乱が続く。
◆ ◆ ◆
その夜。
拓真とリリアーヌは、育塾の屋上で肩を並べていた。
「誠実乳を、皆が口にするようになった。
それは、嬉しい。けど……“わかってる人”が減ってる気がする」
「……誠実は、口で唱えるものじゃない。行動と覚悟よ」
リリアーヌは空を見上げる。
星は揺れていなかった。
けれど、彼女の胸は、静かに張られていた。




