【第15話】 『愛なき乳に、弾力はない』
──誠実乳育成塾、本部校舎。
その朝は、いつもよりざわついていた。
「ちょっと見てよ……新入生、すごくない?」
「なにあれ……無言で、あのサイズ……!」
「動かないのに……揺れてる!? え、怖……」
塾生たちの視線が集まる先には、
真っ白な制服に、無表情で立つ少女がいた。
髪は銀灰、肌は雪のように白く。表情は常に薄いまま。
その胸元には、明らかに常識を超えた存在感が揺れている。
──エミリア=ハーツ。
誠実乳育成塾に突如として現れた、新たな塾生。
その経歴も身分も謎に包まれたままだったが、ただひとつ明白だったのは──
**「乳がでかい」**という事実である。
「……あの子……天然じゃないわね」
リリアーヌは、一目見て察していた。
乳神の加護も、生活経験による形状記憶もない。
それなのに、完璧なフォルム、完璧な揺れ──それは、“設計された乳”の証。
「でも、どうして“誠実乳育成塾”なんかに?」
「……何かを確かめたいのかもしれない」
拓真が呟いた。
◆ ◆ ◆
講義中も、エミリアはほとんど発言せず、ただ淡々とノートを取り続けていた。
だが、その存在感だけは圧倒的で、他の塾生たちがざわつくたびに彼女は──無言で胸を揺らした。
その揺れは、物理法則に忠実で、感情に乏しい。
拓真の乳眼が、ずっと違和感を覚えていた。
そして、ある日──放課後の実技訓練室で。
「……エミリアさん、少し時間、いいかな」
呼び止められた彼女は、一言だけ返す。
「……観察? それとも、触診?」
「いや、乳魂感応で、君の胸の“心”を見たい」
「心? ──そんなもの、入れてもらってないわ」
その瞬間、拓真の乳魂感応が動く。
“心が入っていない”という言葉に反応して、
彼の視界に浮かんだのは──冷たく、透明な乳の構造図。
揺れている。
だが、弾力の“質”が死んでいる。
触れても、感情を揺さぶらない。形だけの、“殻”だ。
「……これって……魔導で“育てられた”乳……?」
彼女はゆっくりと頷いた。
「私の家は、代々“理想乳設計術”を研究していた貴族系統。
私は“実験個体No.47”。目的は──“乳だけで婚約を成立させる”ことだった」
拓真は言葉を失った。
だが、彼女は淡々と続ける。
「私は、“最も美しい揺れ方”を模倣するために生まれた。
……心を入れたら、計算が狂うからって、“無感情処理”されたの」
「そんなの……」
「でも、最近思ったの。“揺れるだけじゃ……足りないんじゃないか”って」
彼女は、初めて自らの胸元を抱きしめるように押さえた。
「この中に……何か、あったらよかったのにって」
拓真は、彼女の胸を正面から見据えた。
「君の乳は、揺れてるけど……心が止まってる。
でも、今、こうして自分の胸に“想い”を感じ始めてるなら──」
拓真の乳眼が再び光る。
そして、穏やかに告げる。
「その瞬間から、君の乳は“誠実な乳”になってるんだよ」
エミリアの瞳が、わずかに見開かれる。
ほんのわずかに、表情が揺れた。
「……これが……“弾力”……?」
揺れたのは、乳じゃない。
彼女の心の奥──“はじめて芽生えた、自分自身の感情”だった。
◆ ◆ ◆
その夜、リリアーヌは報告を聞きながら笑った。
「……まったく、あなたって……何人の乳を救えば気が済むのよ」
「いや、俺は別に救ってるつもりは──」
「ええ、ただ“誠実に見てるだけ”よね」
リリアーヌはふっと、胸を張って言った。
「……でも、その姿勢が、何より強いのよ」
エミリアの“乳に宿る意志”は、確かに生まれ始めていた。
この日以降、彼女は“自分の胸”に名前をつけて可愛がり出す。
──その名は《第48号・エミリーちゃん》。
彼女にとってそれは、生まれて初めての“自分の意思で選んだ乳”だった。




