【第13話】 『乳神、再臨す──新たな加護』
──夜の乳神殿は、静寂に包まれていた。
星々が瞬く宵、外の世界では《貴族乳同盟》と《誠実乳義勇軍》の対立が激化の一途を辿っていた。
魔導乳による詐称・利権・差別、そして真の乳の在り方をめぐる争いは、
今や王国の政治構造すら軋ませている。
その混迷の只中、ただひとり、乳神殿奥深くの“魂乳祈祷室”に座す者がいた。
──如月拓真。
「……どうすればいいんだろう」
彼は静かに目を閉じ、膝をつく。
「乳に誠実であろうとしてきた。
でも、それが争いの引き金になるのなら……」
自らの乳眼が、正しいのかすら疑いかけていた。
だがそのとき──
祈祷室の空間が、静かに金色の光で満たされた。
乳神像の胸元から放たれる光が揺れ、やがてその像は──“実体化”を始める。
「……また、お会いしましたね」
浮かび上がったのは、あの時と変わらぬ、威厳と包容力をたたえた神。
──乳神ルクレア。
その胸には、すべてを包み込むような“無限の柔らかさ”が宿っていた。
「汝、また苦悩しているな。だが、誠実であろうとする者の道が険しくないはずがない」
「……乳を見て、心を読み取る。
でも、それが誤解を呼び、反感を買い、傷つけることもあるんです」
「ならば、汝にもうひとつの力を与えよう」
神は、乳に手を添えながら、厳かに宣言する。
「“乳魂感応”──その力は、触れずとも胸に宿る感情を読み取る感応視」
「えっ……!?」
「視線を交わし、存在を感じるだけで、乳に宿る想い──羞恥、誇り、悲しみ、愛情──
それらが波紋のように汝に流れ込む」
「そ、それってつまり……“心の乳”を直で読む力!?」
「ただし、心の揺れが激しすぎる場合──汝の鼻孔より“誠実なる出血”が流れるであろう」
「鼻血かよッ!?」
「代償のない力など、この世に存在せぬ」
拓真の胸元が輝き、乳眼が共鳴する。
視界が明滅し──彼の目に、新たな情報が浮かび上がる。
《能力開放》:乳魂感応(Bust Resonance)
■説明:対象の胸に宿る“現在の感情状態”を視覚化・体感可能
■副作用:受信感情が強すぎると鼻血・めまい・乳妄想過多症状発生のおそれあり
「……うおお……!」
彼の身体がぐらつく。
──“視えた”のだ。
まだ触れてもいない、リリアーヌの胸元に宿る“孤独と決意”。
ソフィアの乳に流れる“信仰と恐れ”。
エミリア(塾生)の胸に潜む“偽りと赦しを求める声”。
全部が、胸から“伝わってくる”……!
「これが……“乳魂”……っ!」
彼の鼻先から一筋の血が滴り、だがその表情には確かな確信が宿っていた。
「乳は……ただの器じゃない。想いを宿す、生きた心だ」
ルクレアは微笑み、静かに頷いた。
「汝の心、聞こえた。行け、誠実なる者よ。
世界に“真の乳の尊厳”を示すのだ」
◆ ◆ ◆
翌朝。
リリアーヌが育成塾の事務所に入ると、拓真が倒れていた。
「……鼻血垂らして仰向け!? 何してたの!?」
「だ、大丈夫、乳に触れてないからセーフ……!!」
「してないわよ誰も!?」
彼はふらふらと立ち上がり、満面の笑みで言った。
「新しい力をもらったんだ。
“触れなくても、君の乳の想いが分かる”って」
「……変態だけど、ちょっと感動した」
そう言いながら、リリアーヌはそっと胸元を押さえる。
揺れる心の奥に、小さな灯がともる。
「じゃあ、今の私の乳……どう見えてるの?」
「うーん……“ちょっと照れてるけど、期待してる”って感じ」
「バ、バカっ!」
そのとき、巫女長ソフィアが駆け込んできた。
「緊急事態です! 王太子が、“乳眼の国家資格取り消し法案”を議会に提出したと!」
「……来たか、いよいよ──国家を巻き込んだ、乳戦争が」
拓真は静かに聖剣を握りしめた。
「行こう。誠実な乳の未来を、俺が護るために──」




