【第12話】 『貴族乳同盟、動き出す』
──静かなる反撃の狼煙は、貴族街の奥深くで上がった。
王都・上層区《アーヴィス街》。
歴代の王家重臣や五大公爵家が居を構える“乳と階級の象徴”とも言うべき場所。
その中でも最古のサロン《ロワイヤル・バストクラブ》にて、秘密の会合が開かれていた。
「──よろしいかしら。お集まりの皆様方」
立ち上がったのは、黒いドレスを艶やかに着こなした女性。
豊満な胸元を魔導シルクで強調しながら、優雅に会釈する。
ヴァネッサ・ディ・トリフェル公爵夫人。
魔導乳整形業界の総元締めであり、王都最大の“乳育産業利権”を掌握する女帝である。
「我々《自由な乳の表現を守る会》──通称**F.B.L.(Free Bust Liberation)**は、本日をもって王国貴族同盟として正式発足いたします」
拍手。
いや、静かに指を鳴らす“階級特有の品ある賛同”が、サロンに響いた。
「我々の目的は明確です。“自由な乳の選択権”を守ること。そして……」
ヴァネッサの視線が、会場の中心で輝く紋章に向けられる。
【貴族乳同盟】
— The Noble League of Shaped Pride —
「魔導を用いた“美乳の創造”を、文化として認めさせること──それが我らの正義です」
◆ ◆ ◆
一方その頃、王都庁舎の記者会見室では、メディア記者たちがざわついていた。
「“誠実乳義勇軍”が人気急上昇って言っても……やっぱり貴族社会では奇異な目で見られてるわ」
「偽乳批判の風潮に、貴族側もついにカウンターを出したってことか」
「しかも……王太子が裏で“F.B.L.”を支援してるって噂まで……」
そう、ヴァネッサ夫人の背後にいるのは、リリアーヌの元婚約者──アレクシス王太子。
偽乳問題を“誠実乳派の急進主義による混乱”と位置づけ、
政治的に“自由な乳文化”を保護すべきとする主張を発信し始めていた。
◆ ◆ ◆
その噂は、当然ながら乳義勇軍本部にも届いていた。
「──つまり、“自由な乳の表現を守る会”? 名前だけは穏やかだけど、実態は“偽乳利権保護同盟”じゃない!」
リリアーヌは、憤ったように資料を机に叩きつける。
その隣で、拓真はぐったりと紅茶をすする。
「うん……やっぱり来たね。政治的圧力」
「聞いて、拓真。今、“偽乳提供を受けた女子学生が貴族学校で優遇されている”という内部告発が上がってきてるの」
「つまり、見た目=乳格差が、そのまま学歴や将来に直結してるってことか……」
さらに、ヴァネッサ夫人が運営する《乳整形魔導院》では、
若年令嬢への“無料乳改造奨励制度”が始まり、民衆の支持も徐々に流れ始めていた。
「……これが、貴族のやり方か」
◆ ◆ ◆
その夜、拓真は思い詰めたように、乳神殿の祈祷室で一人、跪いていた。
「……乳神様。俺は……正しかったのかな」
手にした聖剣が、微かに脈動する。
「誠実に乳を見て、信じて、心を見抜いて……でも、それが今、戦争の火種になってる」
そのとき。神殿の奥から、柔らかな気配が漂ってくる。
ふと目を開けた拓真の前に、再び彼女が現れた。
──乳神・ルクレア。
金色の双乳をたたえた、穏やかで美しき女神は、静かに告げる。
「汝の道は、誤っていない」
「……でも……」
「誠実な者が貫く信念は、時に人々の“嘘”を映し出す。それは痛みを生む。だが、その痛みの先にしか、本当の救いはない」
ルクレアは、そっと拓真の胸元に手を当てた。
「汝が見てきた乳は、決して“形”ではなかったはず。
……乳とは、心で張るもの」
「……はい」
「ならば、進め。如月拓真。王国の、心の乳を救うのだ」
拓真の乳眼が、再び輝きを取り戻す。
その瞳に浮かぶのは、決意だった。
「リリアーヌ……ソフィア……そしてこの国のすべての乳に、誠実を貫こう」
◆ ◆ ◆
──翌日、王都に新たな貼り紙が現れた。
《貴族乳同盟、正式に議会へ乳整形文化の保護法案提出》
《王都騎士団、乳眼の適用制限を審議中》
《誠実乳義勇軍、次なる一手は?》
――戦いは、次の段階へ。
王子を巻き込み、政界と宗教、そして民衆の“乳”を巡る戦争は、
ついに国家の骨格を揺るがす事態へと発展していく──




