【第1話】 『乳神の祝福、ここに降り立つ』
──その日、世界は眩しくて、柔らかかった。
「……はぁ……はぁ……なんて神々しい……」
如月拓真は、身を乗り出していた。机から落ちそうなほどに。
視線の先には、教壇に立つ担任の〈吉永先生〉がいる。
真面目で、厳しくて、生徒指導にも容赦がない鉄仮面教師。だが──
おっぱいだけは……やたらと優しかった。
いや、語弊がある。彼女の性格が優しいわけではなく、「優しさをまとって見えるほど」の柔らかさが、彼女の胸に凝縮されていたのだ。
「白シャツから透ける……完璧なシルエット……。あれはG……いや、FとGの境界線……この“谷”は国境級の断層だ……ッ!」
彼は天才だった。学力ではなく、乳に関してだけ異常なまでの分析能力を持っていた。
膨らみ、重力のかかり方、カップの張り具合、ボタンの張力。
一瞬の揺れから、サイズ・弾力・着衣の厚みまで、0.2秒で解析可能。
──だが、この天才的観察眼が、最悪の悲劇を招く。
「……ん?」
吉永先生が不意にしゃがんだ。落ちたチョークを拾うその一瞬──
拓真の目の前に、布越しの神の造形が、かつてない解像度であらわれた。
「うわああああああッ!!!!」
あまりの衝撃に立ち上がった彼は、後方にいたクラスメイトと激突。
机が倒れ、教壇の角に、頭をぶつけ──
そのまま、彼の人生は幕を閉じた。
◆ ◆ ◆
──天上。乳白色の空。
拓真が目を覚ますと、そこは白い霧が立ち込める幻想世界だった。
「……ここは……病院か? いや、違う。俺、たしか……死──」
「汝、よくぞ参られた」
「……えっ?」
声が響いた。空から、もしくは空間そのものから。
次の瞬間、輝く“何か”が姿を取った。
柔らかく、圧倒的な包容力。二つの乳房が浮いて──いや、ちゃんと人型だった。超絶爆乳の美しき女神が、彼の前に降臨したのだ。
「汝の名は、如月拓真。乳に誠実なる者──我が祝福を受けるに相応しき魂よ」
「え……えええ!? 女神様!?」
「我は、乳神ルクレア。人の誠実な性癖に応えし、真なる乳の加護を授ける者なり」
「ちょっと待って! あまりにも情報量が豊乳すぎる!」
拓真は混乱しつつも、女神の前に膝をつく。
ただ、言葉ではなく本能的に“ありがたい”と感じた。
目の前の神は、嘘をつかない。
揺れ方とサイズ感が、何より真実を語っていたからだ。
「汝に授けよう。我が力“乳眼”。この目は、乳の真偽を見抜き、心のありようをその柔らかさから判別する」
「それ、俺が一番欲しかったやつ……!」
彼の全細胞が叫ぶ。
これは、ただの変態的異能ではない──
人の“誠実”を見抜く力なのだ。
「行け、拓真よ。我が選んだ新たな世界ラグリス王国にて、汝の力で“偽りの胸”を裁き、“誠実な胸”を守り抜け」
「はいっ! 俺、誠実におっぱいを見守ります!」
女神の頬が、うっすら紅く染まる。
「……うむ、よい心がけだ」
こうして、彼の第二の人生──
“乳の真実を見抜く力”を持った少年の、異世界での冒険が始まった。
◆ ◆ ◆
「……う、うう……寒……」
目を開けると、そこは草原だった。
淡い光の差す大地。空には異世界らしい双月。足元には光る魔法陣──そして、
「お、おっぱいがいっぱい……ッ!!」
目の前には──洗濯物を干していた村娘たちが、なぜか全員ノーブラで日光浴中。
「こ、これは……乳神様!? いきなりの試練!?」
全員が拓真に気づき、悲鳴とともに逃げていった。
「ち、ちがうんです!! 俺、ただ転生しただけで!!」
──だが、騒動を聞きつけた騎士団がやってきて、拓真は**“変態疑惑で拘束”**されてしまう。
牢の中でうなだれながら、彼は誓う。
「……俺、誠実に生きるって、誓ったのに……」
──そのときだった。
「そこの変態、無罪放免ですわ」
牢の前に現れたのは、紫のドレスに金髪巻き毛、そして強烈な眼光を放つ少女──
悪役令嬢・リリアーヌ・グランディールだった。
「え……?」
「見てすぐに分かりましたわ。あなた、乳を見る目だけは誠実ですもの。」
「…………!」
運命の出会いが、ここに始まった──。