第一話 空かける少女
ミーン、ミンミン…。
夏の暑さも燃え盛る頃、俺は歩いていた。
まさか、あんな事が起きるとも知らず。
この決断が正しかったのか、それとも間違っていたのか。
それは今でも分からない、いや考えたくない。
でも一つだけ言えることがある。
今を一生懸命生きろと伝えたい。
そして、その道に幸あらんことを。
「暑つ〜。」
俺は、相葉健輔。
高校1年生で今はバスケ部のエースとして、県大会で優勝するほどの力を持っているらしい。
でも、俺にそんな自覚はない。
俺は他人から明るく見えるらしいが、一人が好きでオタクな俺にはそうは思えない。
実際に、友達は数えるほどしかいない。
「待てよ〜健輔。」
アイツが来る。
俺の唯一の友達とも呼べるヤツが。
彼は、新生幸一。俺とは幼馴染で、オタク気質なところで気が合った。しかも、アイツは俺の本当の性格を分かってる唯一の存在だ。
「俺、キツイんだって。こんなにデブだし、チビだし、オタクだし。」
「何でもかんでもオタクのせいにすんな。たまには運動しろよ。」
「いや〜。夏はレスバと同人漁りだからなぁ〜。」
だから、モテねーんじゃねーの。と言いたいが、あまりに図星すぎるのでやめておく。
それにしても暑い。
ニュースでは過去最高気温を更新したとも流れていた。
俺たちが住む冷架市は、海に面していても暑い。
どれほど暑いかというと、クーラーが壊れて休校になるレベルだ。
「こんなクソ暑いなら冷房くらい用意しろよ!」
「しょうがねーよ。ここで学校sageしてもしゃーねーだろ。」
「でも、こんなことになったのも凛の父さんのせいじゃね?」
「デリカシー。」
幸一が言うことも分かる。
俺たちのもう一人の幼馴染だった塩ケ崎凛。
彼女の父親は前の市長を務め、母親も小学校の先生をしていた。
とても暖かく優しい人たちだと、昔から遊びながら思っていた。
「けんすけ〜こないの〜。」
「いまいくぜ!」
「ぼくもおいてかないでよ。」
親はみんな口を揃えて、親友ができてよかったとか言っていた。俺もそう感じていた。
しかし、まさかの出来事が起こる。
週間中央 7月1週号
スクープ! 冷架市長の横領!これでどうだ。
揺れる冷架の街
「大変申し訳ありませんでした!」
冷架市役所にその声はこだました。
1日、塩ケ崎市長は緊急の記者会見を行った。
きっかけは、本誌記者が偶然にも市内の料亭の駐車場において、会食が終わった冷架市長とその秘書とみられる男性がなんと100億円にも渡る金銭のやり取りをしていたところから始まる。
記者:すみません、週間中央なんですけども。
男性:中央さん?はぁ、何か?
記者:市長にお聞きしたいですが、その多額の金銭はどなたにどんな目的で渡されるのか気になって。
男性:君、なんだね、今は市長のプライベートなんだ。そんなことして中央さんの名誉に傷つけるつもりかい?それとも、訴えられたり、記者クラブから追放されたいのかね?
市長:無言
男性:とりあえず、忙しいからね、今日は帰って。
記者:ちょっと待ってください!
車で市長らはその場を去った。
その後、冷架市役所に勤務する20代の職員からの内部通報で市長らが合わせて700億円にも渡る横領をしていたことが判明。
男性職員はこう語る。
「市長は優しい人です。だから、日頃から感謝している秘書にもボーナスを渡したかったのでしょうね。
しかし、真っ向な違法行為ですから、許されないことだと思います。」
警察は、市長に対し、捜査を進めている。
こんなことウソだ。ありえない。昔から知っていたから分かる。いろんな感情がミキサーで撹拌されたように巡る。
しかし、彼女は学校に来なかった。
その日以来。
そして、いつの間にかこの街を去っていった。
俺たちが何かしてあげられたら、なんて今考えても遅い。
後悔は残るばかりだ。
「ごめんな、幸一。」
「まあ、そう思う気持ちは分かる。」
水を美味そうに飲み干しながら答える。
無言で歩く。それは気まずさを表したかのように。
歩きながらふと空を見た。
西の方の山に入道雲が、それもどんどん大きく、こちらに近づいているように見える。
「健輔?どうした?」
「いや、何でもない。雨降りそうだから先帰るわ。」
「おk、じゃ、またな。」
「またなー。」
ほとんど言い終わると同時に走っていた。
何か良くない、不吉な予感を感じたからだ。
空が怒っているかのようにゴロゴロ、灰色を浮かべている。
ゴロゴロ…。ビカーーッ。ザーザーザー。まるで台風が来たかのようにいきなり降ってくる。
これはヤバい。直感的に感じたとき。
ふと空を見ると切れ目。それも不自然な。
「なんだあれ?」
そう思っていると、光が差す。風が竜巻のようにそこに集まる。
あまりの風に目を伏せる。
すると、誰かに肩を叩かれた。
これは、夢か?幻聴か?
いや、本当だ。
二回肩を叩かれた。
「健輔くん。相葉健輔くん。」
光を恐る恐る取り込むと、少女が立っていた。
それも、とてもスタイルの良い、モノトーンでクール、そして、魔女のような大きな帽子を被った少女。
「初めまして。私はヴァッサ。」