表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

懐古する破断


「かんぱーい!」

 激しいテンションでグラスを煽る先輩たちにつられ、私と凛は烏龍茶のコップに口をつけた。キラキラと眩しい店内は騒々しく、大人数での飲み会はあれが初めてだった。

「凛ちゃんたち飲んでるー?」

 ふわりといい匂いのする香水を漂わせ、茶髪にマッシュの先輩が私たちに声をかける。光ったピアスと塩顔の美形に、私は少し引いてしまった。

「私たちまだ未成年ですよー!」

 軽い調子で返す凛は少しだけ楽しそうに見えた。

 凛、こういうのがタイプなのかな。

 軽薄そうな男だと思った私は、本音をうまく飲み込んだまま調子を合わせる。凛と同じ大学に入ってすぐ、私たちは新入生歓迎会のコンパに誘われた。本当は可愛い凛だけが目当てだったのかもしれない。でも、誰だって本音は隠したいに決まっている。その飲み会だって、最初から歓迎会を装った別の何かだっただろうに。

 大学二年生の冬頃、凛と先輩が破局したことを知る。私たちはもうその頃、あまり顔を合わせることがなくなっていた。凛が私と仲良くしていたのは高校で他に居場所がなかったからで、見た目も性格もいい彼女は大学ですぐに友達の輪を広げていった。社交的でない私は、程なくして彼女のそばには居られなくなる。明るくなった彼女の事を、何度か目で追った。

「ね、夏休み友達とバーベキュー行くんじゃけど、一緒に行かん? 久しぶりに遊ぼう!」

 屈託のない笑顔でそんなことを言われたら、私の胸は苦しくなる一方だった。彼女の優しさは、底知れない。

「わ、私はいいよ。気を遣わせちゃうし、楽しんできて」

 なんであんなこと、言っちゃったんだろう。凛の誘いを断る理由なんてないはずなのに。心の底から、嬉しいはずなのに。

「そっか……」

 残念そうに零しながらも、それでも笑顔を崩さなかった彼女の顔を見て、私は我儘を思った。もっと食い下がって欲しかった。なんでって、聞いて欲しかった。彼女の優しさで、自分を肯定したかった。

 失恋した彼女の寂しげな姿を教室の中で見た私。その背中を支えてあげたかったけど、その時隣にいたのはもう私ではなかった。救えない彼女に対する罪悪感と嫉妬する自分の醜い心が、激しく己を責め立てた。悔しくて虚しくて、通話アプリの凛の名前を、私はたった一人の親友を、そっと瞼を閉じるように消し去った。凛の優しさに付け入るようなことはしたくない。

 私はもう、彼女の足枷にはなりたくないんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ