懐古する破断
「かんぱーい!」
激しいテンションでグラスを煽る先輩たちにつられ、私と凛は烏龍茶のコップに口をつけた。キラキラと眩しい店内は騒々しく、大人数での飲み会はあれが初めてだった。
「凛ちゃんたち飲んでるー?」
ふわりといい匂いのする香水を漂わせ、茶髪にマッシュの先輩が私たちに声をかける。光ったピアスと塩顔の美形に、私は少し引いてしまった。
「私たちまだ未成年ですよー!」
軽い調子で返す凛は少しだけ楽しそうに見えた。
凛、こういうのがタイプなのかな。
軽薄そうな男だと思った私は、本音をうまく飲み込んだまま調子を合わせる。凛と同じ大学に入ってすぐ、私たちは新入生歓迎会のコンパに誘われた。本当は可愛い凛だけが目当てだったのかもしれない。でも、誰だって本音は隠したいに決まっている。その飲み会だって、最初から歓迎会を装った別の何かだっただろうに。
大学二年生の冬頃、凛と先輩が破局したことを知る。私たちはもうその頃、あまり顔を合わせることがなくなっていた。凛が私と仲良くしていたのは高校で他に居場所がなかったからで、見た目も性格もいい彼女は大学ですぐに友達の輪を広げていった。社交的でない私は、程なくして彼女のそばには居られなくなる。明るくなった彼女の事を、何度か目で追った。
「ね、夏休み友達とバーベキュー行くんじゃけど、一緒に行かん? 久しぶりに遊ぼう!」
屈託のない笑顔でそんなことを言われたら、私の胸は苦しくなる一方だった。彼女の優しさは、底知れない。
「わ、私はいいよ。気を遣わせちゃうし、楽しんできて」
なんであんなこと、言っちゃったんだろう。凛の誘いを断る理由なんてないはずなのに。心の底から、嬉しいはずなのに。
「そっか……」
残念そうに零しながらも、それでも笑顔を崩さなかった彼女の顔を見て、私は我儘を思った。もっと食い下がって欲しかった。なんでって、聞いて欲しかった。彼女の優しさで、自分を肯定したかった。
失恋した彼女の寂しげな姿を教室の中で見た私。その背中を支えてあげたかったけど、その時隣にいたのはもう私ではなかった。救えない彼女に対する罪悪感と嫉妬する自分の醜い心が、激しく己を責め立てた。悔しくて虚しくて、通話アプリの凛の名前を、私はたった一人の親友を、そっと瞼を閉じるように消し去った。凛の優しさに付け入るようなことはしたくない。
私はもう、彼女の足枷にはなりたくないんだ。