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第97話 遠藤の最後

 その時、ドカンという音と共に家が揺れ、弘樹が瞬間移動してきた。そして遠藤の襟首を後ろから掴んで持ち上げると無表情で睨んだ。

「エロオヤジめ。油断も隙もねぇな」

「て、手前ぇは空手男!いつのまに?」

 中空で足をばたつかせた遠藤をそのまま地面へねじ伏せ、右手を背中へねじり上げる。

「痛え!放しやがれ!」

 悶絶する遠藤が身体を起こそうと藻掻くが、動くほどに激痛が襲ってきた。


 音もなく歩いてきたミキが、ユウマの隣に立った。

「大門はどこ?」

「く、くそっ眩しい。何だこの光は?」

「聞かれたことに答えなさい」

「うるせえ!二代目隠し童が何だってんだ?!お前ぇなんざ、大門サンがその気になれば一瞬で……!」

 弘樹が更に腕を捻る。

「ぐえええっ!」

「もう一度問う。大門はどこ?」

「開拓調整地まで一緒だったが、その後は知らねえ!急にいなくなっちまったんだ。ただ……」

「ただ、何?」

「ユウマを連れて来いと言われた。他の連中は殺せと……!」

「何処へ連れて来いと?」

「ま、町外れだ!その先は知らねえ。知っていても言わねえ」

 そしてねじ伏せられたままミキを睨む。

「へへへ……俺が捕まっても、きっと大門さんが助けに来てくれる。そして、富一とお前に復讐するんだ!」

「あら。あなたは助からないわ」

「ど、どういうこった?」

「先日、河野と会ったけど、堕霊に身体を浸食されて死んだわ。残念だけど、あなたもそうなりかけている」

「う、嘘だ」

「嘘なものですか。ほら。侵食が始まってきたわ」

 遠藤の右手の平がブスブスと音を立てて焦げ始めていく。

「な、なんだこりゃ!?うわあ!」

 右手から始まった浸食は、瞬く間に首や顔にまで広がってきた。

「私とユウマから発する浄化の光に照らされると、そうなるのよ」

「助けて!この星へ来れば元の姿に戻るって、願いが叶うって言われたのに、話が違うじゃねえか!」

「私の言ったとおりに修行をし、邪な考えを捨てて精進に励めば、こうならなかった。いつまでも復讐や妬みなどに捕らわれているから、オドが闇堕ちするの」


 ミキは目配せで弘樹を退かせ、遠藤の背中へ手かざしをして念を送った。

 黒く変色した皮膚が一瞬だけ回復したが、またすぐに黒へと染まる。堕霊が苦しがって体内に入ろうと逃げ惑うのだ。

 ミキが憐れむように遠藤を見下ろした。

「修行を放棄し、闇堕ちした者よ。我らがお前の死を見届けよう」

 地面へ倒れた遠藤が手足を振り回して抵抗するも、侵食は止まらなかった。

「くそう……こんな筈じゃなかった。俺は村の庄屋の息子なんだ。何でも一番にならなきゃいけないんだ。それなのに、富一の方が勉強が出来るし、スポーツも唄も上手い。俺はいつも父上に叩かれた。どうして一番になれねえのか、と。ベルトで俺の尻を叩くんだ。痛かった……とても痛かった」

 遠藤の顔が黒焦げになっていく。

「誰も俺を守ってくれないし、助けてくれない……富一さえいなければ、俺が一番になりさえすれば、父上が褒めてくれる。みんなに愛される。だから……」

 ユウマは遠藤の側へ行くと、その黒焦げの手を握った。

 思いがけぬ行動に驚いた弘樹が止めようとしたが、遠藤を見つめるユウマの瞳に慈心の光を感じて言葉を失った。

 ユウマはミキへ向かって言った。

「例のあれ、お願い」

「え?」

 思わず聞き返す。

「あなたを騙し、貶めた男なのよ。本当に、いいの?」

 ユウマは無言で頷いた。

「暖けえ……暖けえ。もっと握ってくれ」

 うわごとのように呟く遠藤。

 ミキは彼の胸の付近へ手をかざし、瞑想を始めた。

 遠藤は最後に大きく息を吐き出すとそれきり動かなくなり、同時にビー玉大の白い球が浮かび上がった。

 ミキは袖からガラスケースを取り出すと、そっと中へ入れた。

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