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第95話 女性化の最終段階

 その後、何事も無く平穏な日々が過ぎた。

 この星での生活そのものが修行になるというミキの言葉通り、皆のオド力は順調にアップしていた。

 明美とマリは料理の腕前が格段に上がり、カフェは連日満員で繁盛していた。

 明美はすっかりギャル姿をやめてしまい、三つ編みとバンダナ、そしてエプロン姿が似合う厨房女子になった。

 彼女は食材に対する調味料の用途や分量、調理の際の火力や時間などを瞬時に判断するなど、一流シェフ並の感覚を身につけていた。


 翔太は修理屋の運営を任されていた。触れただけで修理箇所が分かってしまう、という能力を完全に身につけ、ロボを助手に従えて、近所の家々を回って修理品の営業をするなど、かなり精力的に活動していた。


 弘樹は雑務をこなし、ミキの代わりに長老会への会議へ出席するほど信頼を得ていた。凶悪犯のようだった顔つきが精悍で頼り甲斐のある青年の風貌となった。毎朝の稽古メニューもこなし、瞬間移動もほぼ完璧に身につけた。


 そんなある日の午後だった。

「キャ~!」

 屋敷内に女子二人の悲鳴が響いた。

「浮いている!浮いているわ!」

 食材や調理器具が宙に浮かんでいる厨房内で、明美とマリが抱き合って床へ座り込んでいる。

 修理屋でも数々の道具が浮かび上がり、翔太が腰を抜かしていた。

 騒ぎを聞きつけたミキと弘樹が、庭から厨房へ駆け込む。

「なに?この漲るオドは?!」

 ミキの目には屋敷中を駆け巡るリボン状のオドが見えた。

 キラキラとしたパーティクルを放出しながら伸びるそれは、まるで触手のようにあちこちのモノを掴んで空中へ浮かばせている。

「大門が来たか?!それとも遠藤か?」

 弘樹は慌てて明美へ駆け寄り、半ベソをかいている彼女の肩を両手で掴んで揺らした。

「わかんない!何なの、これ?!」

「そうだ。アイツが……ユウマが危ない!」

 弘樹が廊下を走り、雑貨屋へ向かった。


 ユウマは店のカウンター内で座り込み、ガクガクと震えながら涙ぐんでいた。

 周囲では数々の商品がフワリフワリと浮かんでいる。

「しっかりしろ!」

 慌てた弘樹が見たものは、ベッタリと血の付着したユウマの右手だった。弘樹の背筋にざわざわと冷たいモノが走り、顎が震えた。

「だ、大丈夫だ!落ち着け!すぐに手当を……」

 すると背後からミキがやってきた。

「落ち着くのはあなたの方よ。さあ、退いてちょうだい」

 ミキは座り込んでいるユウマの背中を何度かさすった。その間にも皆が雑貨屋へ集まって、何事かと2人を取り巻く。

「男は外に出て庭掃除をしていなさい」

 ミキの言葉に男子達が眉をひそめたが、ピンときた明美とマリは彼らをグイグイと後方へ押しやった。

「さあさあ。お子ちゃま達は、あっちへ行って」

「今は男子禁制です」

 締め出された弘樹と翔太は呆然と庭で立ち尽くしていたが、やがて朧気ながら事情を飲み込み、言われたとおり黙々と庭掃除を行っていた。

 その一方で女子達は大忙しだった。

 うろたえるユウマを落ち着かせ、シャワーを浴びせ洗濯をする。そうこうしている間に夕方になってしまった。


 リビングのソファへだらりと腰掛けた女子3人と、部屋の隅でモジモジしている翔太と弘樹。

 そんな皆に向かってユウマは恥ずかしそうに頭を下げた。

「ごめん。てっきり変な病気だと思って慌てちゃったんだ」

 明美とマリが背中合わせに座ったまま「初めてだし。気にしないで」と疲れ切った弱々しい笑顔で答えた。

「経血を見たショックでオドが暴走するとはねぇ……」

「家中のものを念動力で持ち上げてしまうなんて、さすがユウマさん。きっとパワー系ってやつですよ」


 ミキは傍らに立つユウマの腹の辺りに手をかざし、スキャンのように動かした。

「既に排卵が来ていたとは気づかなかったわ。女性化の最終段階に入ったようね……ほら。体内の睾丸と前立腺が極限まで縮小して休眠状態に入り、卵巣と子宮が活発に働いているわ。もう、完全に女子の身体よ」

「ミキ……は、恥ずかしいよ」

 ユウマが腹を押さえて身をよじる。

「ただ、男性機能が消えて無くなった訳じゃないから注意してね。あなたが必要と感じたら、再び生えてくるわよ。これが」

 ミキが小指を出すと、明美とマリはケラケラと笑った。

 2人の男子は何も言えず、苦笑したまま立ち尽くしていた。

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