第90話 みんなで温泉2
湯に肩まで浸かったミキが満足そうに四肢を伸ばし、その傍らでは、ユウマが相変わらずもじもじしていた。
「オレ、他人とお風呂へ入ったの、子供の時以来だ……」
明美とマリが詰め寄る。
「ほらほら。恥ずかしがらないの」
「そうですよ、ユウマさん。もう、女の子として生きていくって決めたんですよね」
「オ、オレはただ可愛い物が好きっていうか……本当の自分を出していこうって思っただけで……でも、その……ゴニョゴニョ」
明美がユウマのタオルを奪い取った。
「こんなに肌が綺麗だし、白いし、細いし、手足も長いし、そこらの女子より可愛らしいのに、何を戸惑っているのよ。まあ、胸は私の方があるけどね」
「で、でも、オレ自信ないよ。急に女性化って言われても、心の準備ができていないし。最近では、ものの見え方とか考え方まで変わってきたから、何だか怖い……」
すると、湯船でアヒルのおもちゃと戯れているミキが言った。
「あら。私、言っていなかったかしら。女性化はあなた自身が望んだ事なのよ」
「そうなの?オレ、そんなこと望んだっけ」
「好きな人が出来て、その人に抱かれたいとか、子を産みたいとか、甘えたいとか、そう思った事がきっかけでオドが反応し、身体を作り替え始めたの。男でいるより女でいる事の方が自分の望みに近いという訳よ」
「ア、アンタ。こないだから、よくそんな恥ずかしいことを堂々と話せるわね」
明美が顔を真っ赤にさせる。
「人としてそれは当たり前のことじゃないの?愛や性欲があるからこそ人類には豊かな感情が芽生え、繁栄したのでしょう?」
「で、誰に恋しているんですか?教えて下さい」
マリがユウマに擦り寄り、からかいながら抱きつく。その様子を、明美がキョトンとした表情で見つめた。
「ちょっとアンタ。気付いていなかったの?鈍感にもほどがあるわ」
「ええ?!つまり、私以外の皆さんは知っているということですか?除け者にしないでくださいよぅ!」
女子達の歓声が、男湯まで響き渡る。
「楽しそうだね」
「……ああ」
翔太と弘樹はちんまりと湯に浸かっていた。
「そういうミキは、付き合っている人はいるの?」
ユウマは自分から話題を逸らそうとして、ミキに話を振った。
「付き合う、というのは恋人のこと?ならば、いるわよ」
ツンと鼻先を上げて、当然と言わんばかりの表情。
ほんの軽い冗談のつもりだったのに、意外な返事が返ってきたので明美とユウマは同時に吃驚した。
「ええーっ!!ちょっと、マジで?!」
「だ、誰?!」
「ええと、その殿方との馴れ初めはですね、今からさかのぼること60年前に……」
ぺらぺらと話し始めたマリの口を、ミキが必死で押さえる。
再び女子達の歓声が、男湯まで響き渡る。
「盛り上がってるね」
「……ああ」
2人の男子は、ちんまりと湯に浸かっていた。