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第88話 長老会

 定例の長老会は、いつもミキの屋敷で行われていた。

 1週間に一度、5人の長老達とミキが近況報告を語り合うのだ。

「長老会ってぇより、ただの老人クラブじゃねえか」

 と、弘樹に揶揄されるほど、のんびりしている会合だった。

 しかし、その日の長老達は深刻な雰囲気で会議の場に揃った。

「一体、どうしたの?」

 訝しんだミキが問うと、長老の1人が緊張した面持ちで答えた。

「姫様に命じられていた、ユウマ殿のヒトゲノム配列の検査結果が出たのですが、驚愕の事実が判明しました」

 その言葉を聞いた途端、ミキは一気に興奮して身を乗り出した。

「どうだったの?」

「マスターと同じ配列を持つお方だと判明しました。雌雄未分化ではなく、雌雄自由転換の……すなわち完全体であると」

 ミキの大きな瞳はさらに大きく見開かれ、半開きの口はカタカタと震えた。

「か、完全体ですって!?」

「はい。生まれながらにして男女2つの性を持ち、オドの作用により、いつでも自由に性を選べる……それが故に完全体と呼ばれる個体です」

 マスター達には11の種族があって、その中には完全体の特徴を持つ者達がいた。性別という枠を越えた彼らは、地球人の進化計画にも大きく携わっていた。


 長老の1人が語った。

「太古の時代、地球へ降り立った完全体マスター達が、帰還を拒否して留まったという記録が残されております。地球人と共に生きたいと願い……」

「つまり、人間との間に愛が芽生え、子供を作り、その血を受け継いだ末裔がユウマなのね?」

「その解釈で間違いないでしょう」

 腰を浮かしていたミキは、力が抜けたようにストンと椅子へ座った。

「これであの子が両方の性を持っている事と、特殊な能力がある事の説明がつくわ」


 完全体マスター達は人間に様々な知識を与え、導き、時にはオドを使って奇跡を起こし、神として崇められることもあった。その姿は、絵画の世界では両性具有の天使として、また、仏教では性差を超えた菩薩像として表現されている。

 ミキは少しだけ嫉妬心が沸いた。

 地球人と自分達は同じマスターによって作られた生き物なのに、子孫をもうけるほどの寵愛を受けたのね。

 でも、気持ちは何となく分かる。

 人間はバカですぐ感情的になるのに、放っておけず手を焼きたくなるのよ。私だってあの人を……。

 

 長老の一人が言った。

「キューブから取り出したオド結晶は元々がマスターの物なので、ユウマ殿と馴染むのは至極当然です」

「ユウマ殿のオドと結びつき、超強力になったのも頷けます」

「本来の持ち主のところへ帰った訳ですからな」

 皆が笑う。

「ただ、注意しなければならない事があります」

 一人の長老の発言に場がしんと静まる。彼は眉を寄せて語った。

「完全体マスターは浄化という能力を持っていたようですが、その詳細は不明です。ユウマ殿がそれを継承しているかどうかも不明。何をきっかけに力が発動するのか謎なのです。しかも、堕霊の結晶玉を飲まされた事もあるので、それが心にどのような影響を与えているのか……」

 神社でメチャクチャな戦闘を行っていたユウマの姿を思い出し、ミキは思わず首をブルブルと振った。

「それはマズイわ。暴走しないよう、あの子の心を安定させる必要があるわね」


 長老達が銘々に意見を口にした。

「楽しいことや嬉しいことで癒やされると、心は安定していく筈じゃ」

「宴会をして楽しい雰囲気作りをしましょう」

「人間界では、パーリーピーポーなるものが流行していると聞きましたぞ」

「ディスコや、音楽フェスも気分を上げるには良い手段でございます」

「良い考えですな。我らも楽しいことは大好きじゃ」

「ちょ、ちょっと待って!」

 ミキがそれを止めた。

「あの子はそういう刺激には逆に戸惑うタイプよ。静かに落ち着いた時間を過ごす方が良いと思うわ」


「その通りだ」

 今まであまり発言する事のなかった弘樹が挙手したので、長老達が一斉に注目した。

「ユウマはやっと素の自分を取り戻したんだ。普段はおっとりして見えるが、自分の身体が急激に変わって戸惑っているし、心の中では泥棒した事の罪悪感と静かに戦っている。日常での些細な喜びで、心が癒やされるのを見守るべきだ」

「へえ……」

 と、ミキがニヤニヤして弘樹を見た。

「あなたもここに来てから随分と変わったわね。修行の成果かしら。格好いいじゃない。それともユウマのことになると一生懸命になるの?」

「う、うるせえ。余計なこと言うな」

 照れた弘樹がプイと横を向いた。

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